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新婚なの! 12-7 (1)

 なのはが、久しぶりに早く帰ってきた。
 アタシは一足先に帰ってたけど、それほど時間に余裕があったわけじゃなくて、荷物を片付け、部屋着に着替えたところだった。だから、夕飯の準備を一緒にすることにした。コレは凄く久しぶりだ。
 二人で使うには、決して広くない台所だけど、別にそんなの気にならない。
 役割分担はしっかりしてるし、一応お互いに勝手が分かってるから、ぶつかったりすることもないんだ。そんな訳で、久しぶりだったにもかかわらず、夕飯の準備はスムーズに進んだ。
 大方準備を終えたところで、なのはには先にテーブルに着かせておく。

「出来た端から運んでくれよ~」
「はーい」

 ガス台とカウンターを往復するアタシと、カウンターとテーブルを往復するなのは。
 本当に作動しているのか、疑問に思うほど静かな換気扇。当然機能も素晴らしく、静かでありながら、家中に料理の匂いが満ちることはない。ただ、家は違って、少しだけ匂いがする。完全に匂いを取り除いてしまうと、味気ないんだろうなって、そう思うから。やっぱり、夕飯時に、匂いが漂ってくるのって、食欲を誘うし。
 たまに夕飯を作るなのはが、スイッチ入れ忘れていることもあるけど。そういうときは、自動で動いてくれるし。
 他にも、色々便利機能が多いから、海鳴にいた頃より、格段に負担は減ってると思う。
 バタバタと慌しいけど、二人でした分、いつもより大分早く作ることが出来た。こればっかりは、いくら便利機能が満載でも、追いつかない効率だ。唯、一つ残念なのは、なのはが居てくれないと駄目ってこと。
 毎日こうだと良いのにな。アタシも疲れなくて済むし、なのはも、あんまりやってないと勘が鈍るだろうし。

「いただきまーす」
「はい、どーぞ」

 今日は、メインに肉じゃがを作った。
 どういうわけか、ミッドでは日本の調味料――ほぼ同じ物――を手に入れることも出来るので、それほど困ることもない。ナカジマ三佐の祖先が、地球出身だっていうし、何か関係があるんだろう。
 残り物の煮物――似たような献立だ……――に、ほうれん草の和え物と汁物とか細々したもの。塩分やらにはちゃんと気をつけてるんだぞ。味や目が似通っているのは、単にアタシのレパートリー不足だ。
 美味しいご飯を食べながら、おかずはご飯を引き立てるし、美味しいご飯はおかずを美味しくするなあ、と肉じゃがの中のホコホコとしたジャガイモを食べながら、ぼんやりと考えていた。

「そういや、今日は早かったな。最近遅番じゃないけど、帰りが遅い日ばっかりだったからさ」
「なあに? 心配してくれてたの? 嬉しいなあ。えへへ」
「ああ。心配はしたぞ。お前が倒れたら教導隊の人だけじゃなくて、訓練受ける方だって迷惑するんだからな」
「えー。ヴィータちゃんって、何でそういう世間体の話ばっかりなの~?」

 むーっと頬を膨らませるなのはに、べーっと舌を出して応えてやった。
 ぷりぷりと怒って肉じゃがを食べる様子に、ちょっと可哀相かと思ったけど、面と向かって「お前が心配だから」っていうのは恥ずかしい。
 その二つを天秤にかけて……後者が勝ったってだけなんだけどさ。
 アタシが正直に――なのはが欲しがってるだろう、言葉の面も――言わないで、なのはが本当に落ち込んだりって事を考えると……

「はあ……お前のことを頼むって、桃子さんにも言われてるんだからさ」
「えー。お母さんに言われたからなの?」
「あ、いや。なんつーか……そ、そんなの言われなくたって心配するぞ」
「ホント?」
「……じゃなかったら、里帰りするまでどうだったか思い出してみろよ。言われたからしてるわけじゃねーって……そ、そんなことぐらい、分かるだろ……?」
「分かんない、かな~」

 真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
 いつものように挑発的というか、相手を試すというか、自信ありげに振舞う様に見えるけれど、その瞳には縋るような光が宿っている気がする。
 困ったな――
 そりゃ、からかわれたりするよりはマシだけど、"そんななのは"は見たくはない。
 だから、慎重に、出来るだけ慎重に――言葉を選ぶ。

「――別に。桃子さんに言われたんでも、フェイトに言われたんでもねえよ」
「……うん」
「ただ、二人に言われたからさ、それだけ責任重大だって、改めて思っただけ。――んでもよ」
「なあに?」
「…………恥ずかしいだろ。面と向かって正直に言うのがさ」

 自分でもバカ言ってるなあと思う。
 でも、いくら結婚したからって、毎朝毎晩と「お前が心配だ。なのはの事が気になってしょうがないんだ」なんて言えるわけない。
 染み付いた気質なんて、そう易々と変わるわけないし、なのはだって、その辺は分かってるはずだ。
 だから……そういうところを"分かって欲しい"――なんてのは、甘え、なのかなあ。

「……う、うっふふふふ」
「な、なんだよ。どうしたよ」

 アタシの言葉を受けてか、俯いていた、なのはの肩が震えだした。

「うっへへへへへへ。ああ、うっれしいなあ! えっへへへへへ」
「き、気持ち悪い……」
「ひどいなあ、ヴィータちゃんは。我慢してたから、嬉しさが変な風に漏れ出してただけなんだもん」
「そんな気持ち悪い笑い方するぐらいだったら、我慢すんなよ。身体に悪そうだぞ、いかにも」
「良いの?」
「なにがさ」
「我慢、しなくて」

 なのはの目の前にある箸置き――ピンク色の可愛いヤツ。確か形は犬――は、しっかりとその役割を果たしている。
 食事中だ。その手が、箸を握っていないとすれば……今のなのはがすることは、一つだ。

「今は駄目だ」
「どうして?」
「まだご飯の最中だからだ。行儀悪いのは駄目だぞ」
「ええー」
「嫌ならもう作ってやらないからな。いつも言ってるだろ。行儀が悪いのは駄目だってな」
「お母さんが?」
「……それもあるけど。なにより、おまえ自身のためだぞ」
「…………」
「まあ。外ではちゃんとしてるって、知ってるけどな。アタシが嘘つき呼ばわりされるぐらいに」
「うん」
「桃子さんの前でも、"猫被ってる"って、知った時は驚いたけどな」

 一瞬の沈黙に、アタシの口からフォローとも言いうる"本音の欠片"が滑り出た。
 ビックリした。
 なのはも少なからず驚いたようだけど――普段のアタシを見ていれば、当然の反応かもしれない――、多分お前より驚いた自信はある。
 自分のことなのに。
 ただ、ちょっとだけ。いつもより少し。塩を一つまみ入れるように、気をつけただけ。それが、こんな風な形になって現れるとは、思ってなかったけど。

「――うん。分かってる」
「アタシの言いつけを、か?」
「ううん。ヴィータちゃんが"分かってくれる"ってこと」
「――あっそ」

 挑戦的でもなく、試す風でもなく。なんの含みもない笑顔がそこにあって、一瞬、言葉を失ってしまった。
 ここのところ、ずっと疲れた顔ばかり見てる気がしてたから、余計にそうだったんだろうか。
 一つまみの塩の効果は、なのはを笑顔にしたことじゃなくて、自分自身にあったのかもしれない。
 いつもは胸の中で反芻して、その多くは反省――というより後悔に近い――ばかり。
 でも今日は違った。
 ほんの少しだけど、いつもより――ほんの数度の例外を除いて――本音を出せたような気がした。慌ててフォローするんじゃなくて。
 そんな高揚感に近い感情がともなって、なのはの笑顔がより良いものに見えたのかもしれない。
 だけど。
 それはアタシが望んだ効果じゃないものだ。
 だって、あれは、なのはのための一つまみだったからだ。だから、次は、本当になのはを笑顔にしてやりたい。


  ◆


 片付けも早くに終わった。
 二人でやれば早いもんだ。逆に、余計に時間が掛かっちゃうことも、無いわけじゃないけどさ。例えば、その――まあ、良いや。
 今日は今のところ、全部が早く済んだお陰で、いくらか時間が余った。
 こういうときは、いつもならさっさとベッドの中に入ってしまうのだけど、時間が時間だけに、それは流石に早すぎて、今は二人でソファーでのんびりしてる。

「なあ。テレビ点けていいか?」
「え~、なんで」
「いや、別に。ただ、なんとなく」
「……いいけど~」

 アタシに膝枕している、なのはの許可を得て、真っ暗なテレビの画面に色が点くと、ニュース映像らしいものが映し出された。
 毎度、このテレビはニュースぐらいしか流して無いように思える。それなら少し不憫かもしれない。こんなことなら、いっそ処分してしまおうか。いや、でもなあ。
 やっぱり、一人暮らしすると、何かと忙しくてゆっくりテレビも見てられないんだよな。あ、なのはが来てからも、その辺は変わってないけど。そも、なんで一人暮らしし始めたかって――

「なあに? ニュースなんて見るの?」
「点けたままだよ。ああっと、ラテ欄……まあ良いや。別に点いてりゃ良いんだからさ」
「そうなの? なにか楽しい方がいいよ」
「お前のことじゃねーよ。別に、無理して見なくて良いんだからさ」
「聞こえてくるから、何か楽しい方が良いってこと~」
「あ、そっか」

 そうアタシが言い終わるや否や、なのはは寝返りを打って、アタシの背中に腕を回してきた。
 ソファーに深く腰掛けてたから、その腕を滑り込ませる隙間は殆んど無かった訳だけど、アタシを抱き寄せるようにして、難なくこなし、へその辺りに顔を押し付けてきた。苦しい。

「右手、下にしてて痺れてこないか?」
「じゃあ、こーするー」

 自分の身体の下から腕を抜いて、そのままの体勢で、アタシの腰を両手で抱えてきた。
 へその辺りに当たる、なのはの鼻と息がこそばゆい。
 辞めさせようと肩を押したけど、相手は梃子でも動くつもりが無いらしく、腰を抱く腕に更に力を入れたみたいだった。これ以上力を込められると、食べた物が出ちゃいそうだから、諦めることにした。……ホントだぞ。

「ちぇ。勝手にしろ」
「勝手にしろってさっきも言ったよ、ヴィータちゃん」
「あっそう」

 顔を埋めているせいで、喋るたびに息がへその辺りをくすぐるものだから、これ以上会話を続けるのは勘弁だ。
 一応、抗議というかそれらしい意思表示をするために、後頭部の辺りをコツコツと、軽く叩いてやった。しかし、というか案の定、なのはには全く堪えなかった。
 軽い溜め息とともに視線を上げると、ニュースは何かしらの会見の模様を映し出しているところだった。さっきの続きなのか?

「へえ。レジアス中将か。大変だな、このおっさんも」
「今映ってるの?」
「ああ。定例の会見らしいな」
「……テレビ変えよう? きっと、いつも通りの内容だし」

 なのはは、アタシのお腹でもぞもぞ喋っているから、生返事をしておいた。
 言う通り、チャンネルを変えても良かった。別に、アタシもこのおっさんに積極的な興味があるわけでもないし。ながら見するなら、美味しそうなものとか、可愛いものの方が良いしさ。
 でも、最近の小さくない事情から、その会見の中身には興味があった。
 もう一つ、どうしてなのはが"いつも通りの内容"と言ったのか。そして、ちょっとだけ不機嫌そうだったのか。
 前者については、仕事柄、普段していても不思議でもないし、後者については、楽しそうじゃないからか? 考えても分かる訳もなく、さっさと意識をテレビに戻した。

「…………」
「んん~。ヴィータちゃ~ん」
「うひゃや! くすぐったいから止めろって! テレビが見られないだろ!?」
「んもー。テレビの守りなんてするお嫁さん失格だよ~!」
「うぎぎ!」

 ここぞとばかりに、ヘソの辺りで暴れるなのはを構っているけど、意識の半分――多めに見積もってだけど――はちゃんとテレビに向いていた。
 レジアスのおっさんは、相変わらず景気の悪い顔をしながらも、地上の治安を守るための姿勢を語っていた。
 地上の現状を考えれば、不景気な顔になるのも仕方ないだろうし、古くからの武闘派で、過激すぎるとの見方もあるけれど、それでも一定の効果を上げているのだから、文句もないだろう。
 しかも今回は、公開意見陳述会もあったばかりとあって、語り口には一層熱が入っているって感じだった。
 本局勤めのアタシに言われても、おっさんは嬉しくも何ともないだろうけどさ。

「確かに、聞いてて面白いことはねーけどさ。アタシらだってここに住んでる限りは……」
「ふうん。ヴィータちゃんの言うことも分からなくはないけど~」
「なんだよ。けど~ってのは」
「ふーんだ。知らない」

 やけに突っかかるな。
 なのはは、こっちにもよく教導に来るんだし、そこのトップの人間の考え方ってのは気になるだろうに。
 それともあれか。そのおかげで、何か知ってて、個人的に嫌いだとかか? いや、まさかな。流石にそこまでとは……なのはが、人にそんな風にしたのなんて、見たことないし。

「そういやさ、なのは。最近こっちの様子ってどうだ?」
「……んー。どうって言われても。変わらないかなあ? いつも通りだよ」
「ふうん。相変わらず、レジアスのおっさんの言う通りってことか……」
「そっちの意味? うん、それも、増えもしないけど、減りもしないって感じみたい。でも、それなら私に聞かないで、はやてちゃんに聞いた方が良いんじゃないの?」
「う、ん。まあ、そうだけどさ」

 やっぱり、なのはの機嫌は余りよくない。
 あれか。さっき言ってた、アタシが"テレビの守り"をしてるのが面白くないのか。
 そんなこと言ったって、お前を膝枕してると膝触ってきたり何かと話しかけてくるから、間が持たないんだよ。
 ちゃんと相手しようとしても、何のかんの、答えにくいことばっかり聞いてくるしよ。
 膝枕したところで大きく譲歩してるんだから、それ以上求めるのは勘弁して欲しい。
 だってさ――恥ずかしいんだからしょうがないだろ。

「ねえねえ。今日は早いんだから、一緒にお風呂入ろう? ね、良いでしょ?」
「な、なんでだよ、いきなり」
「時間がかかるから駄目なんでしょ? でも今日は早いよ。だから時間かかっても大丈夫だもん」
「だもんって、あのなあ。せっかく早いんだったらさ、そのまま早く寝ようって発想はないのか?」
「ないでーす」

 もぞもぞと動くものだから、流石に邪魔になってきた。
 しかし、退かそうにも、がっちり腕が回っていてどうにもならない。
 いい加減足も痺れてきたし、なのはも満足したろう。いや、してもらわなきゃ困る。このままじゃ、下手するといつも通りになっちまう。

「テレビ見てるぐらいなら、お風呂入ろう?」
「偶にはゆっくりしたって良いだろ。お前だってそのままでも良いんじゃねーのか?」
「ん~、それもそうだけど、ヴィータちゃんが早く寝ようっていうから」
「怪しいな。なんかあるんじゃねーだろうな」
「ないったら。もう、ヴィータちゃんは疑り深いんだから」

 信用ないなあ――と不貞腐れてるのが分かる。
 そんなのは自業自得だって、言っても良かったけど、くすぐったいのは相変わらずで、この場をどうにかしたかった。
 足を跳ね上げ、下ろす勢いそのままに腰を上げ、なのはをポイっと放り投げるように床に落とした。ちゃんと、なのはが頭を打たないように、最後まで手を離さずに。
 なのはは、いきなりのことで「きゃっ!?」と小さく声を上げたけれど、それほど高くもなかったから、大した音もせず、床にビターンと落っこちた。

「いったーい」
「よいせっと。さっきから退かそうとしてるのに、聞かないからだろ。いい加減疲れたしな」
「ひーん」

 のそのそと起き上がると、なのはは首を抱えたままこちらを見ようとしない。
 しまった。
 聞かずとも、今のなのはがどうなってるのか、すぐに分かる。

「だ、大丈夫か? 首、変な風に捻ったか?」
「うん。捻った。グキって言ったもん。寝違いの酷いのみたいに痛い。鼻も痛いし」

 よよよ、と泣き崩れるようにしたまま、首を押さえてうーんうーんと唸っている。
 やべえ。これは相当痛そうだ。
 慌てて駆け寄るけど、なのははこっちを見てくれない。もう完全に蹲ってしまった。

「え、ええっと。悪かった、悪かったよなのは。な? 大丈夫か? 立てそうか?」
「……立てない。首が変な方に曲がっちゃったもん。お風呂も入れない……」
「ま、マジか。じゃあ手伝ってやるからよ。入らない訳にもいかないからさ。それなら大丈夫だろ?」
「――うん」

 その返事に、寒気が走った。

「じゃあ。今から入ろう? ね?」
「お、お前! 騙したな!」
「騙しただなんてヒドイ! 嘘は言ってな――いたた!」
「あ、ああ。バカだな。ホントに痛いなら大人しくしてろよ。無理して抱きつこうとするんじゃねーって」

 圧し掛かるように抱きついてきたなのはの背中を、よしよしと擦ってやる。
 風呂に一緒に入りたいがための、嘘と誘導は確かだけど、首が痛いのはホントらしい。

「じゃあ、一緒に入ってくれる?」
「ああ、分かったよ。入ってやるから。ほれ、立てるか?」
「うん。えへ、えへへ」
「なに笑ってんだよ」

 肩を貸してやる――一方的にアタシが担いでる格好だけど――とヨタヨタ歩き始めるなのは。
 痛いのと嬉しいのが入り混じってなのか、泣き笑いというか、変な声になってる。きっと顔も変な感じになってるだろう。
 全く。しょうのないヤツだな、なのはは。
 まあ、今日のはアタシが一方的に悪いんだけどさ。仕方ないから、一緒に入ってやるよ。


 


 
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