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新婚なの! 12-7 (2)

 久しぶりに、目覚めの良い朝が来た。
 昨晩はベッドに入ってからも、テンションの高いなのはの相手をしてたせいで、適度に疲れてたんだろう。ぐっすり眠れた。
 まあ、ぐっすり眠れるからといって、毎晩こんなことさせられりゃ困るから、口にはしないけどな。

「今日も朝練は良いんだよな? 今更駄目って言われても遅いけど」
「うん。した方が、気持ちがパリッとして気持ちいいけど、しなくても大丈夫だよ」
「へえ、そんなもんなのか。だったら、今までもそんな無理しなくても良かったよな……」
「う、ううん! ああ、やっぱりした方が調子良いかなあ?」

 テーブルに着いて、温めた牛乳を一啜りしたなのはは、慌てて訂正するけれど、そんなの聞いてやらない。
 今までは相手の気持ちを尊重してたけど、疲れが目立ってるときには止めさせた方が良いって、考えを変えたんだ。まあ、今までのアタシの頑張りはなんだったんだ? と思わないこともないけど、自分が勝手にしてた事なんだから、恩着せがましいことは言いたくない。
 ホントに面倒に感じるなら、寝しなに用意をして、なのは一人で行かせればいいわけだし。だってさ。一人暮らししてたときは、一人で何でもやってたんだからよ。自分でなんにも出来ない子じゃないんだから。
 ……いや、それでも結局心配で起きちまいそうだけど。

「今日からは本局か? それともまだこっちでか?」
「ええっと……うん。まだこっち」
「今回のは普通ぐらいか。……あのさ、一週間ってどの程度モノになるもんなんだ?」
「そうだね。その人たちにも因るけど、元々基礎が出来てて実戦経験なんかがあって……目を見張るほどって事は少ないかな」
「本人次第ってことか。教える側も少ないからなあ。一週間程度じゃやっぱ無理か」
「私も、自分がそこまで出来るとは思ってないよ。精一杯出来る限りのことはしてるけど」
「もっと自信もてよ。教わる方としても、困るだろ」
「そだね」
「どうにも短いってのはな……ホントはもっと腰を据えてやってみたいんだろ? 顔にそう書いてあるぞ」

 目玉焼きやハムを乗せた皿を差し出しながら言うと、なのはは「うん、まあね」と頷いた。少し、寂しそうに。
 アタシも教官職はとったけれど、どんどん基礎を叩き込むって感じで、なのはたちの教導隊とは一寸違うんだろうと思う。
 だからなのか、今のなのはの気持ちを理解してやることも、察してやることも出来そうになかった。
 思いやるような言葉を使いはしたけどさ……少し、情けないな。

「ふうん。じゃあ、ちょっと挨拶入れておくかな」
「え!?」
「そ、そんな驚くことかよ。お前の担当してる連中が、アタシの知った人のいるところだったら、知らん顔できないだろ?」
「い、良いよそんなことしなくたって!」
「そういう付き合いが大切なんだって。ちゃんと……ふ、夫婦なんだから、な?」
「で、でも」
「前にも言ってただろ? 何を今更」

 念を押すと、なのはは渋々従うように見えた。
 陸か空か? と聞けば、一寸間があって「空だよ」とだけ返って来た。素っ気無い感じで。
 ちょうどパンも焼けて良い香りを漂わせてきた頃だったし、その話はそこで打ち切りになった……と言うよりは、止めにした。
 どうにも、なのはの態度が気になったから。一つ、考えを整理しようとも思ったからだ。
 それから、なのはの髪を梳いてやったりしながら朝の用意をして、先に送り出す準備は整った。

「そんじゃな。今日はアタシもすぐに出るけどさ」
「はーい」
「……あ、ええっと。いってらっしゃい」
「ん? はい、いってきまーす」

 アタシから鞄を受け取ると、にこやかに手を振って元気に出勤していった。
 応えてひらひらと手を振りかえしてやると、玄関がガチャン、と閉まった。

「…………さて。アタシも準備するか」

 今日も代わり映えのしない一日になるよう祈りながら、スケジュールをチェックした。


  ◆


「はあ……」

 溜め息が出る、というか漏れ出たというか。
 朝からどうにも調子が出ない。
 何ていうか、風邪の引きかけというか、どうにもやる気が出ない。この身体で風邪をひくってのも、なんか変な話だけどさ。
 起きたときは、スッキリして良い朝だーとか思ってたのになあ……

「どうしたよ、ヴィータ。朝からご機嫌斜めだな」
「あ、ああ。お前か」

 こういうとき、一番に声をかけてきそうなヤツじゃなかったものだから、ワンテンポ遅れてしまった。
 単に呆けてただけなのに、どうにもそれが相手の目には調子悪そうに映ったようで、途端に心配そうな声を上げた。
 その見立てが外れている訳じゃないのが、アタシを困らせる。そんなに分かり易いのかって。

「大丈夫か? なんか顔色も悪く見えるぞ?」
「ちょっとボーっとしてただけだよ。お前に心配されるようじゃアタシも駄目だな……」
「そんな口利けるぐらいなら大丈夫そうだけどよ。あ、あのさ」
「お前さ。一応アタシの方が上なんだから、言葉遣いは気をつけろよ……」

 そんなこと今まで大して気にしたことなかったけど、話を続けるのが面倒だったから、お茶を濁すために持ち出してみた。
 案の定、フーガは面食らって口をモゴモゴとさせてしまう。ちょっと悪い気がしないでもない。
 他のヤツに言わせれば、単にアタシが舐められてるって言うことなのかもしれないけど、一応親しみやすいってことにしてやった。どのみち、この背格好じゃ説得力ないしな。
 けど、やっぱりこう言うことって大切かもしれない。
 いくらここが緩いったってさ。

「心配すんなって。こういうとき、いっつも声をかけてくるヤツと違ったものだから、面食らっただけさ」
「いつも……ああ、アイツかあ。そういや、今日は休みだって言ってたな。珍しい」
「珍しい? そう言われてみれば、アイツが休暇取ってるの見たことねえや」
「だろ? でもさ、きっちり有給は消化してるみたいなんだよな。休暇といえばさ、普段はどうやって過ごしてるんだろ。ヴィータ、知ってるか?」
「うーん……そうだな。インドアなのかアウトドアなのか、イメージ湧かないな――って。なんでアタシが知ってんだよ」
「いや、仲良いしさ」

 付き合いとしては、決して短くない相手だけど、仕事場以外でのイメージが全く湧かない。
 生活感がない、とでもいうのか、普段の言動も薄っぺらくて、具体的なイメージが希薄……なんだよな。
 こういう意味でなら、確かに、フェイトの報告にあったような"影が薄い"って評価も頷ける。
 具体的な、キャラクターのイメージが湧かないからなんだろう。

「んでも。お前さ、よく休暇だって知ってたな」
「一寸前にさ。偶然、申請してるの見てたんだ。そしたらさ、ヴィータに伝えておいてくれって。もう帰っちゃってただろ。ああ、そうだ。いっつもヴィータは帰りが早いって――」
「うっせ。別に早くねーよ。お前らのチェックとか、最後の方まで残ってるだろ? 付き合いが悪いって意味なら、無視するぞ」
「あ、うん……」

 ごめん、と言いながら肩を落とすフーガ。
 気にしいだな、お前は。そんなんじゃ、この先やっていけないぞ?

「とにかく。今日のアタシは、別に具合が悪い訳じゃねーから。心配すんな」
「う、ん。分かった」
「気にかけてくれるのは嬉しいけどさ」

 今度は、へへへ、と照れ笑い。
 気にしいと思いきや、この切り替えの早さ。だから今までやってこれたのかな。これを長所と見るか、短所とみるか……どちらにしろ、長く元気に続けて欲しいもんだ。
 これ以上無駄話をしている暇もないので「今日は気合を入れて頑張るか?」と言えば、顔色を変えて退散してしまう。
 ハハハ。お前の方が顔色悪いじゃねーか、なんて笑ってやった。

「そういや……切り替え早いヤツって多いなあ」

 それとも、アタシが何時までも気にしすぎなだけなんかな。人のこと気にしいなんて言うくせに――
 落ち込んだと思えば、パッと表情を変えて抱きついてくる旦那の顔が、ぼんやりと浮かんでは、直ぐに揺れて消えてしまった。

「はあ」

 もう、何度目か分からない溜め息。
 だけど、今までと違って、何となく原因が分かってきた。いや、元々考えなくても分かってたはず。それしかないんだから。
 ――なのはのせいだ。
 頭の端を、ぼんやりとだけど占拠してるなのはのせいで、溜め息が漏れてたんだ。
 その問題を意識した途端。片隅を占拠してただけの存在が、ぐんぐん大きくなっていく。
 目を瞑れば、なのはのことばっかり浮かんでくる。
 その中で一つ――毎朝の光景が思い出されるのだけど。
 その光景が、今のアタシに溜め息をもたらしているんじゃないかって、そこまで辿り着いた。
 自然と、左の頬に手が伸びる。
 頭の中の"記憶"には、そこに残る感触があるっていうのに、"今"のアタシには、それがない。

「…………なんで、今日、してかなかったんだろうな」

 別にして欲しい訳じゃない。ホントだぞ。
 だけど、今はそれよりも"何故なのははしなかったのか"という事実が大きく圧し掛かってくる。
 すっかり毎朝恒例の行事になってしまって、当初は随分渋ってたアタシも、知らない内に慣れてたことを思い出す。
 そうして、やっとこさ慣れたと自覚できるぐらいになった途端、何故かなのはは、それを辞めてしまった。
 別に今日だけだし、これが毎日続くようなら心配かもしれないけど――

「べ、別にあんなのして欲しくねーし。丁度いいぐらいだ」

 自分に言い聞かせるようにして席を立つ。
 このまま、ぐたぐたと考えてたら深みに嵌りそうで怖かった。
 そろそろ午前の訓練の時間だし、こんな状態のままじゃ怪我するのが関の山だ。
 取りあえず切り替えよう。考えるのは帰ってからでも、明日以降でも遅くない。

「――よし! 気合入れるか!」

 時間厳守。
 キビキビと動く他の連中の背中を見送ってしまうほどに、アタシの足取りは重かった。
 "行って来ますのチュー"をしてくれるなのは。そして、してくれたなのは。なのはの顔ばかりが浮かんできて、またそれがアタシの足を止める。
 追い越していく背中を見るたびに、どうにも自分が、記憶という引っかかりに纏わりつく藻屑みたいに感じられて仕方がなかった。


 

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