« 新婚なの! 13-1 (2) | トップページ | なのはのバレンタイン vivid »

新婚なの! 13-2 (1)

「ヴィータさん。今日は不機嫌ですのね」
「アタシが、お前と一緒にいて、不機嫌じゃなかったときなんてあったかよ」

 そうだったかしら――?
 相変わらず、メンテはすっ呆けた顔で、ノホホンと答える。
 先の出動に対する報告書を届けに――非効率的だ――小うるさい上司のところへ向かう途中。
 それだけでも面白くないのに、隣を歩くのがコイツじゃ、いい顔をしろっていうのが無理な話だ。

「まあ、思い出せなくもありませんわよ」
「言ってみろよ」
「そうですね。例えば……いつだったか、何処かの世界に出張調査のときですわね。寝袋のヴィータさん、可愛かったですわよ?」

 嫌味ったらしい言い方。時期も、場所も、目的も、忘れてないくせに。

「あれは寝ぼけてただけだろ。ノーカンだ、ノーカン」
「あら、そう」

 全くめげた様子もなく、その後もベラベラと、いかに自分といるときをアタシが楽しんでいるのか! ということを力説してくれた。
 くっだらない。
 こうやって、テンション高くなると人の話し聞かなくなるところは、なの――

「どう、なさったんですの?」
「――いや、別に」
「……ふうん」

 鬱陶しい視線が纏わりつく。
 ここで反応したら相手の思う壺だ。いい加減、ド壺に嵌ってる気もするけど。
 今頭を過ぎったことも、なかったことにする。自分の考えも、纏わり付く視線も、徹底的に無視して、そのまま歩き続けた。


  ◆


「小言が少なくて、助かりましたわね」
「ああ。なんだかオマエが苦手みたいな雰囲気だったな」

 オマエを得意とする人間なんて滅多にいないだろうけど――という言葉は、助かったお礼に飲み込んでおいた。
 だけど、それまでだ。これ以上、コイツと喋る気はない。
 今回の出動は、夜半に呼び出されて、そのまま丸一日、遠目の世界で違法魔導師の大捕物だ。
 あっちこっち飛び回りやがって。こっちの都合も考えろってんだ。
 寝たばっかりのなのはは起しちまうし、朝ご飯の準備も出来なかったし、ちゃんと出勤できたかも気になるし――ったく、腹が立つ。
 ブツブツと頭の中で文句を並べ立てていると、遠くから、アタシを呼ぶ声が聞こえた。

「やあ、ヴィータ。お仕事中かい?」
「――ア、アコース査察官。どうも、こんにちは」

 目に鮮やかな、緑色の髪を腰の辺りまで伸ばし、似合う人間が少ないだろう、白いスーツを着こなした人――ヴェロッサ・アコース査察官。
 聖王教会とのお付き合いの中で、アタシ達も仲良くしてもらってる人だ。
 軽~い感じを絶やさないけど、これで――随分、失礼な言い方だ――レアスキルの所持者で、査察官としても優秀という。
 決して、知らない仲ではないんだけど、こんなところで会うとなると、どうにも不自然さは否めなくて、それが態度に表れてしまった。

「一応、仕事中です。この後は一度オフィスに戻って、それから帰宅ですけど……」
「どこかにお出かけだったのかな? お疲れ様。そうだ、今から少し時間、取れるかい?」
「は、はあ。少しなら構いませんが」
「それは良かった。ところでヴィータ。よければ隣の方を紹介してくれるかな」

 ニコニコと笑みを絶やさないアコース査察官は、すいと視線を横へ流した。
 それにつられて、アタシも隣に目をやる。
 ぼーっと突っ立ってると思ってたメンテは、珍しく表情が――大いにアタシの主観だ――強張っていた。
 いや、強張るというよりは、嫌なものを見るようにというか……とにかく、珍しい印象だった。

「はい。アタシと同じ部隊に所属している、エスティマ=メンティローソ一等空士です」

 アタシの紹介に合わせて、腰からしっかりと頭を下げるメンテ。
 コイツの階級を口にして、改めて自分が舐められている気がしたけど、この場でそれを考えるのは止めておいた。

「僕は――」
「存じております。有名人ですので」
「おい、その言い方はないだろ。すみません、アコース査察官」
「いいや、構わないよ。知らない仲じゃないんだし」

 メンテの頭を下げさせようとしたアタシは、一瞬、耳を疑った。

「ヴィータの可愛い部下だからね。ああ、そうだ。ここで会ったのも何かの縁だ。お近づきの印に、一緒にどうだい?」
「…………」
「えっと、それで、一体何を?」
「美味しいケーキでも食べながら、どうかな。残念なことに、僕のお手製じゃないんだけどね」

 ハハハ、と爽やかに笑いながら、手を差し出してくれる。
 ケーキは食べたいけど、今はそういう気分じゃないし、なのはが帰ってくるときには、家にいてやりたい。だけど、せっかくの誘いを断るのは悪いし。
 決めかねたアタシは、念話でメンテに相談を持ちかけた。

『どうだ? 何かあるなら断るけど……』
『……そうですわね。断っていただけると有難いですわ。早くに帰りたいですし』
『ふうん……そうだな』

 しかし、同意したわけじゃない。
 なんとなく――天邪鬼とでもいうんだろうか――、ここは逆らってみたくなった。
 顔は見ていないが、雰囲気からして、今のコイツの表情は優れないように思えたから。
 たまには、アタシといて、嫌な思いでもさせてやるか。

「はい。ご一緒させていただきます。いいな、メンティローソ空士」
「……ええ、同行させていただきます」
「それは良かった。二人以上で、かつ女性同伴だとサービスしてくれるって、聞いたものだから」
「はあ」

 予め、アタシ達に気を使わせないよう、口実を用意していてくれたのか。それとも、単にサービスが目的なのか。この人だと、何となく前者だと思えてしまう。けれど、それを自然に行えるのが、魅力というか、何と言うか。
 これから出かけるカフェテリアに、どういったメニューがあるのか、お勧めがあるのか、アタシ達に講釈してくれるアコース査察官。
 外見から味から、それらの小ネタやらを織り交ぜたそれは、ホントに食欲を誘うもので、今にもお腹の虫が鳴き出しそうだった。
 ううーん。一般的に、女性ってのはこういうのに弱いんだろうか。

「ここはエクレアもミルフィーユもお勧めだよ」
「じゃあ、アタシはそのミルフィーユを。メンテ、お前はどうする?」
「私は、このシューのセットメニューを」
「飲み物は紅茶で良いね? 本局なら、この時期でも良い葉が入ってるだろうし。僕はガトーショコラにしよう」
「あ、えっと、お勧め――」
「お勧めしたの、自分で食べた方が良かったかな?」

 そんな言い方されてしまうと、こちらとしては返しようがない。
 違う、というために口を利いたのに、確固たる理由もないし、敢えて言えば「違和感がある」なんて個人的なものだし。
 言いかけて、喉の奥で引っかかってしまった言葉を、グッと飲み込むのに、コップの水は少し冷たかった。
 ウェイトレスさんを呼んで、注文を言いつけるアコース査察官。
 小柄で可愛らしいウェイトレスさんへの、愛想も忘れない。
 アコース査察官は、大層見栄えのいい男なので、ウェイトレスさんの頬はたちまち紅が差したように赤くなる。
 慌てて去っていく後姿に手を振っているけれど、普段もこんな感じなんだろうか。慣れた感じがするし、そうなんだろう。
 ……これはシスターに報告しておいた方が良いんだろうか。

「僕の顔になにか付いてるかな?」
「い、いいえ! なんてことないです!」
「そうかい?」

 駄目だな。あんなに焦ったら、怪しいって自分で言ってる様なもんだ。
 どう思われたのか知らないけど、アコース査察官はニコニコとした表情で返すと、頬杖をついた。
 でも、それはアタシに向けられたものじゃなかったらしい。正確に言うと"アタシだけに向けられた物じゃない"というところ。
 こっち。二人ともを見ている感じがした。

「……んだよ」
「いいえ。別に」
「なにかあるなら言えよ」

 少し、声に棘があったかもしれない。
 アコース査察官の視線に気付き、どうしたものかとメンテに意識を向ければ、コイツもアタシのことを見ていた。ジーっと、視線を送ってくるものだから、何だと言えば、知らん顔をする。
 どうしたんだろう。
 さっきから――正確にはアコース査察官が来てから――様子が変だ。
 若しかしたら……こういうタイプが苦手なのか?

「まさか、ヴィータさんってああいう軽薄なタイプが好みなんですの?」

 視線を交えることなく、囁く。
 全く、失礼なヤツだ。本人を目の前にして言うことじゃないだろ。

「アコース査察官は軽薄じゃねーよ。それにな。仮にそうだとすると、お前だってアタシの好みになっちまうだろうが」
「そもそも。ヴィータさんは男性に興味ありませんものね。失礼しましたわ」
「……? ――は?」

 意図に気付かないらしいアタシの反応に、満足そうに口の端を持ち上げる。
 全くもって鬱陶しいヤツだ。
 大体、二人きりならまだしも、今日はアコース査察官がいるんだぞ。なに考えてんだ。

「楽しそうだね、ヴィータ。いつも彼女とはそうなのかい?」
「あ、いえ、そんな――」
「ええ。いつもこーんな感じですわ」

 言い終わるか終わらないかの内に、メンテはガバッと抱きついてきて、頬をぎゅーっとくっつけては"仲良し振り"をアピールする。
 コイツ、一体なに考えてんだ。
 止めろっての。
 ぐーっと顔を除けようとしても、さっぱり動かない
 なのはで慣らしたアタシに対抗するなんて、中々じゃねーか。全然感心しないけど。

「ふふふ。楽しそうな職場じゃないか、ヴィータ」
「……そ、そう見えるなら、それで結構です」
「姉さんは、はやてだけじゃなく、ヴィータのことも心配してるからね。そう、報告しておくよ」
「は、はあ……」
「おほほ。かの有名な、アコース査察官のお墨付きですわね、ヴィータさん?」
「……気分悪ぃ」

 表情も態度も、この上なく悪く装っているというのに、アタシの横と真正面は笑顔で彩られている。しかも、わざとらしい感じはない。
 気が重い、重くなってくる。
 こういう時に限って、ウェイトレスさんは姿を見せないし、部隊からの呼び出しすらない。
 ここは、早く話題を逸らさないと――

「え、ええっと。今日はどうされたんですか? わざわざこんなところまで」
「う~ん、そうだね。なんとなく、かな?」
「な、なんとなく、ですか」
「僕は目立つだろう? なにせ、この形だし」

 己の格好を誇示するような、大仰なポーズを取り、不敵とも思える笑みを浮かべる。
 査察官の性格上、目立ちたがりという感じもしないし、何か理由があるんだろうけど……

「口うるさくて嫌われものだからね。こうやって、ウロウロしているだけで、効果があるのさ」
「な、なるほど」
「私たちの部隊でも、ヴィータさんが見回りにくるとしっかり仕事しますでしょ? それと同じです」
「……褒め言葉だと思っておくぞ」
「ええ。ありがたく受け取っておいて下さいまし」

 ムスッとしたところで、ウェイトレスさんが注文の品を持って来てくれた。タイミングが、良いのか悪いのか。
 立ち上がってお礼を言うアコース査察官は、声や立ち振る舞いが、とても紳士的で嫌味がなく、ウェイトレスさんはポーっとなっていた。
 素なのか、今のように考えあってのことなのか知らないけど、悪い噂でも立ったらどーするんだろ。
 やっぱり、シスターに報告しておくべきかな……

「さあ、頂こうか。それと、ここは僕が持っておくから、心配しなくていいよ。こう見えて、結構お金もちだからね」
「そんなに食べませんよ、一応、仕事中ですし」
「遠慮することはないんでなくて? 殿方の好意は、素直に受け取っておくべきですわ」
「ふふふ、嬉しいね。まあ、あぶく銭というか、不正しないよう、身分を保障する一環での手当てだからね。こうして、使ってしまうのが一番なんだ」
「そんなものなんですか」

 アコース査察官は、返事の代わりに「あ、そうだ」と続け、

「はやては、どう使ってるんだい? その口ぶりだと、僕とは違うみたいだけど」
「あ、ええっと……済みません。分からないです。個人的なこととなると、流石に」
「そうだろうね。家族でも、内緒にしたいことはあるだろうし。でも、そう聞くと、余計に気になるかな。ふふふ」
「はやても、手当てみたいなのがあるって、話は聞いてましたけど」
「彼女のことだ。きっと、有意義な使い方をしてるだろうから、心配はしてないけどね」

 カップに口をつけ、アコース査察官は、微笑んだ。
 騎士カリムとアコース査察官。二人とも、家族ぐるみで仲良くさせて貰っているけれど、中でも特別、はやてと仲が良い。ちなみに、シグナムはシスターのシャッハと仲が良い。
 そんなだから、別にアタシに聞かなくても良いのに、と思うんだけど、本人には聞きにくいってことはあるのかな。
 ……アタシも、なのはにあれこれ、直接聞いたりしないから、それと同じか。

「お二人は、本当に仲が宜しいのですね。羨ましいですわ」
「そうだね。僕としても、彼女達と仲が良いのは、鼻が高いよ」
「でしょうね。なにせ、有名人ばかりで構成された家族ですから」
「なんか棘のある言い方だな」

 そのまま、特に"有名人"のはやてに、話が及ぶ。
 アコース査察官も、引き続き、はやての話が聞きたいらしくて、アタシは、二人の相手をしなくちゃいけなくて、大変だった。
 全然ミルフィーユを食べるチャンスがない。

「ふうん。元気そうで何よりだ。ヴィータが結婚したって言うから、落ち込んでると思ってたのに」
「そ、それは……多少はあったと思います」
「今度、慰めに行っておくよ。僕等も忙しくて、中々都合が合わないんだけどね」
「何とか都合をつけて、ちょっとだけ時間とか、作れたりしませんか?」
「一応、縄張りがあってね。言うほど自由に動ける訳じゃないんだ。はやてが本局にいてくれるのが、一番望ましいんだけど。はやても捜査官とか、今は部隊研修だったかな? 陸にいるんだったら、少しね」

 ガトーショコラを一口。少しだけ、査察官が寂しそうに見えたのは、気のせいかな。
 アタシ達も査察官が口をつけたことで、目の前の美味しそうなケーキに、フォークを入れた。
 パイ生地はサクサクと音を立てて、口に入れると、バターをふんだんに使ってることが窺えるし、間に挟まれたクリームも、果実酒か何かの良い香りがして、乗っかったフルーツと相性が良かった。
 フォークを入れたところから、飲み込むまで、美味しいと思える、そんなミルフィーユだ。

「僕がウロウロしているのはね? 別に睨みを……ああ、これは比喩だから」
「大丈夫です、分かってます」
「うん。ホントは嘘なんだ。大体、そんな権限、僕にはないしね」
「そうなんですか」

 喋る口も、食べる口も休むことがない。だのに落ち着いた印象なのは、得な性分だと思った。
 いや、これもシスターの教育の賜物なのだろうか。
 そう考えると、先ほどの立ち振る舞いも、シスターの教育のお陰なんだろうけど、狙った方向には使われていない気がした。
 ……黙っていた方が良いかな。

「ただね。"報告"を受けたり"指示"を出したり、ええっと……まあ、そんな感じかな。僕みたい表立つ人は少ないんだ。というか、目立っちゃ駄目だよね。あ、これは内緒だよ?」
「事前に告知とか、ないんですか?」
「あるよ。中には、ある程度だけど、自由に出入り出来る権限のある人もいるけどね」
「なんだか凄いんですね。知りませんでした」
「余り知られても困るからね。ふふふ」

 含みのある笑いに、怪しい人だなあ、と思ってしまった。
 掴みどころがないというか、飄々としているというか……仕事柄、仕方のないことなのかもしれないけど。
 ううん。ますます分からなくなってきた。

「ああ、そうだ。お口に合うかな? お二人とも」
「はい、とっても。こちらには、あまり足を伸ばさないので」
「なら、良かった。はやての料理を味わってるヴィータの舌に適えば、本物だね。いや、この場合、旦那様の、かな?」
「ぶっ! い、いや! そういんじゃ……」
「ははは。可愛いなあ、ヴィータは。それで、そちらの同僚さんは?」

 話を振られたにもかかわらず、しゃくしゃくと、エクレアを頬張るメンテ。
 返事する気配が窺えない。
 ったく。世話の焼けるヤツだ。

「おい、メンテ。返事しろって」
「……ええ。ヴィータさんが甘いモノ好きだと分かってよかったですわ。オホホ」
「オマエなあ。失礼にも程があるぞ。アコース査察官、スミマセン。せっかく誘っていただいたのに」
「ははは。気にすることないよ、ヴィータ。堅苦しいのは無しだって」

 本当に、全く気にする様子のない――贔屓目に見たのを差し引いたとしても――笑顔に、ホッと胸を撫で下ろす。
 しっかし、今日のコイツはいつにも増して、様子がおかしいな。いつものような、取り繕う素振りすら見せない。普通だったら、険悪な雰囲気になるところだ。

「やっぱり、オジサンたちと顔を合わせているより、こうやってお茶してる方が、何倍も充実するね」
「確かに、ここのお茶は美味しいですけど」
「そういう意味じゃありませんわよ、ヴィータさん」
「そ、そうなのか?」

 アタシの顔を見て、ぶっと噴出す二人。
 むー。なんだかバカにされた気がするぞ。
 あっ。これはもちろん、メンテに限った話で、アコース査察官じゃないけど。

「ホント、はやての言う通り、ヴィータは可愛いね。キミも良いところに入ったね」
「ええ。それは本当に感謝していますわ、こればかりは、自分でどうこう出来るモノではありませんから」
「ふ、ふーん」

 なんだよ、視線を合わせたりしちゃってさ。
 いやらしい。
 やっぱり、これはシスターと騎士カリムに告げ口しておくべきだ。


  ◆


「さて。悪いけれど、僕はお先に失礼させてもらうね。ああ、追加オーダーしてくれて構わないから」

 自動引き落としは便利だね――こんなときでも、伊達な立ち振る舞いを忘れない。アコース査察官はカフェテリアを後にした。
 お先に、とは言われたものの、アタシ達のお皿の上は、綺麗に片付いていた。
 さて、どうしようかな。

「帰りましょう? 少しノンビリしすぎましたわ」
「……そっか。それもそうだな」

 奢ってくれると言うんだから、コイツの性格上、もう一品二品頼むんだろうと思ってたアタシは、拍子抜けしてしまった。
 なにを考えてたんだろう。寄り道してるってことを、すっかり忘れてた。流石のコイツも、そこまでじゃなかったみたいだ。こりゃ、悪いことしちまったかな……
 残り少なくなった、紅茶のカップを一気に傾けると、アタシ達も少し遅れて、カフェテリアを後にすることにした。

「はあ……美味かったけどさ。高いのな、ここ。多分、もう一回来ることってねえと思う」
「―――へえ」
「おい、どっちむいてんだよ」

 通路に出るなり、向かう先と逆のほうへ、メンテは首を向けていた。
 そっちは――アコース査察官が来た方向だった。

「なんだ、気になるのか?」
「いいえ、別に」
「オマエさ。アタシの話のときだけ、妙に気が合ってたよな」
「そうでした?」
「ああいうの、タイプか?」

 こういう会話って、人としたことないから、実際どうなのか分からないけど、何となく、からかうつもりで聞いてみた。
 けど、相手は全く動じた風もなく、あっさりと答えてくれた。

「全く。ああいうタイプは、好みの逆ですわ」
「へえ、そうなのか。じゃあ、オマエの好みってどんなタイプなんだ?」
「あら、それを聞きますの? 何度も説明した気もしますけど……もう一度聞きたいのでしたら、構いませんわ」
「――あ」
「はあ。私の心が、未だに届いていないだなんて……ショックですわ」
「ええい、うるさい。ほれ、帰るぞ」
「はーい。了解ですわ」

 やけにベタベタするメンテを振り払いながら、隊員オフィスまで帰るのは大変だった。
 身長が高いせいで、上から圧し掛かってくるようだし、ホントに邪魔だ。
 いつも、柔らかい感触のある場所に、なんてことない、平べったい感触があるだけ。コイツの方が背が高い。
 回りこむ手も、全部違う。
 してることは同じなのに、こっちが受ける感じは全く違う。抱きつかれるのも、ベタベタされるのも、全然違うんだ。

「全く。人を前にしてだな、もうちょっと態度を考えろ。アコース査察官が、そういうの気にしない人で良かったよ……」
「私だって、人を選びますわ」
「だからって、初対面の人に取る態度じゃねーだろ」
「初対面? ああ、そうですわね、では、次からは良いことになりますわねえ。"初対面"でないのですから」
「……あのなあ、そういう意味じゃ……もう、いい」

 もう何度目か。手で払っていると、ようやく一歩下がってくれた。
 隣を歩くな、とは言わない、距離が近すぎるんだ。

「別に、好きで、ああいった態度を取った訳ではないのでしてよ?」
「じゃあ、なんだって言うんだよ」
「ああいったタイプの方とお付き合いするのは、余り宜しくありません、ということです」
「?」
「ちょっと手癖が悪そうじゃありません? 異性にモテますでしょ」

 本人がいないとしても、流石に失礼だ。おもいっきり足を踏んでやる――けど、それは空振りに終わった。

「失礼な……ヤツだ」
「新婚の身である、ヴィータさんを思えばこそです。変な噂でも立ったら、どうするんです? それからでは、遅いのですよ」

 妙に真面目な顔で言う。
 間違っちゃいないんだろうけど、前提であるアコース査察官に対する評価が間違ってるんだから、自然と結論はアウトになる。
 まあ、心配してくれてんのは感謝するけどさ。

「ふふふ。機嫌、直ったみたいですわね」

 アタシに一歩遅れるメンテの、笑いを含んだ声。

「……さっきまで機嫌悪かったお前が、なんだって?」
「呼び出しがあった時から、ずーっとでしたからね、今日お縄にかかった方は不幸でしたわねって、思い出し笑いをしていたところです」
「どーいう意味だよ」
「ボッコボコでしたでしょ? いい年した大男が、メソメソ泣いてましたわ」
「そ、そうだったっけ……」

 フフン、と笑われるけど、さっぱり記憶にない。
 結構腕の立つ相手だったから、加減が効かなかったのかも。でも、イライラしてたし……不味いな、こりゃ。

「美味しいケーキを食べて、機嫌が良くなるなんて、子供みたいで可愛いですわよ?」
「ふ、ふん! うっせーよ!」
「てっきり、相手をボコボコにしちゃったのを、悪く思ってたかと考えてたのですが、見当違いだったようですわね」
「う、うぅ……」
「となれば、原因は一つしかありません」

 ニタニタと笑うのは、いつもの事とはいえ、毎度腹の立つ顔だ、本当に。
 ここで聞き返さずに、無視したら良いんだろうに、負けず嫌いなのか何なのか、どうしても黙ってられない。
 本当に、アタシとコイツは相性が良いのか悪いのか。悪いとすれば、アタシが悪いんだけど……性分は、そう簡単に変えられないんだよ。ふんだ。

「あんだよ、言ってみろよ」
「おほん。では。旦那様と良いところだったのに、呼び出されて面白くなかったんでしょう?」

 勝ち誇った顔と表情、そして可笑しくて堪らないといった声。
 しかし残念だったな、珍しくアタシの勝ちだ。

「あら、それは残念。でしたら、そろそろ旦那様に、連絡取った方が宜しいんでなくて?」
「――あっ。そうだった」
「ほらほら。旦那様へのラブコール、私に構わずなさってちょうだいな」
「お前がいたら出来ないだろうが。ほれ、先に戻ってろって! しっしっ!」
「ふうん。ラブコールをすることは否定しないんですのね」

 カァッと顔と身体が熱くなるのが分かった。
 別に全然、そんな気なんてないのに、言われてしまうと妙に意識するというか。
 怒ってやろうと思ったけど、人影も疎らじゃないし、追い払うことも出来ないから、アタシが移動することにした。
 前に向かって退却って感じだ。逃げ出すみたいで、嫌だけどさ、仕方ない。くそぅ。
 背中でメンテの高笑いが聞こえた気がしたけど、無視することにした。


 


 新婚なの! 13-2 (2) >


 

|

« 新婚なの! 13-1 (2) | トップページ | なのはのバレンタイン vivid »

新婚なの!」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 新婚なの! 13-1 (2) | トップページ | なのはのバレンタイン vivid »