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新婚なの! 13-4 (2)

 シャマルと分かれてから、医療棟を出て、大きな通路を歩いていると、段々人気が多くなってくる。医療棟に人気がないってのは、良いことだ。誰だって、ここには来たくない。
 少しずつ活気が戻っていく――自分たちが忙しいのも、歓迎されることではないけど――のを感じながら、ぞろぞろと、人の流れに乗って、人の多いところに出た。
 流れを見るに、アタシは、ドッグへ向かう連中の中にいるらしい。
 トランスポートやドッグから、任務で傷を負った隊員たちや、救助した重要患者なんかが担ぎこまれることもあって、病棟は位置が近いんだろうか。よく見ると、逆の流れも見えて、人の出入りは絶えることなく続いてる。
 そんな、往来の激しい中に身を置いていると、疲れや落胆ばかりが目に付いて、どうしようもなく気が沈む。いい加減、こんなのには慣れたって言うのに、今日はどうしようもなく、気が重い。
 ――アタシだって、暇なわけじゃない。
 さっさと帰って、事務処理なんかを手伝ってやらなくちゃいけない。今の自分に出来ることって、それぐらいだし。
 そう思い直して、往来に背を向けようとしたところで、意識の端に、"何か"を捉えた。

「――なのは?」

 その名を口にした頃には、角を曲がったのか、往来に紛れてしまったのか。視界に捉えることは出来なかった。
 確かに、なのはだったと思う。
 だけど、こんなところに何の用だろう?
 いや、用って言ったって、仕事で寄ることだってあるだろ。なのはの仕事を、全部を知ってる訳じゃないんだから、アタシが知らないだけで、そういうこともあるかもしれない。
 それでも、あれは確かに――

「……待てよ」

 一瞬、しかも、意識の内に捉えただけ。実際に、目に映ったのかどうかすら分からない。ただ、なのはだと思える何かに、引っ張られたと言うか、なのはが居たと思わされた。
 仮に、無意識の内に、サイドポニーか航空戦技教導隊の制服を捉えていたとしても、同じ髪型の人間か、身に纏っているのは、なのはだけじゃない。特に後者は、何人もいる。
 制服を、いや、似たような色を見ただけかもしんない。それだけで「あれはなのはだ」と判断するなんて、少し乱暴だ。
 いくら最近――

「~~~っ! 違う、違う!」

 必死に頭を振って、下らない考えを追い出そうとする。
 まさか、なのはのこと気にしすぎて、居る筈のないものを見るなんて……相当参ってるみたいだ。
 幻覚を見るなんて、頭打った影響にしてもあんまりだ。
 いや、待てよ。
 そうだ、頭打ったせいなんだ。だから、なのはの幻を見たような気がするだけなんだ。
 決して、絶対に、なのはのこと考えてたから、なのはの幻覚見たわけじゃない。うん、そうだ。そういうことにしよう。

「よし、そうと決まればさっさと帰るぞ」

 まるで、誰かを引き連れるかのように言うけど、完全に独り言だ。
 誰か知った人に見られないうちに、ドッグからの人の流れに乗って、その場を後にした。


  ◆


「あら。お帰りなさい」

 オフィスに帰ると同時に、暗たんたる気分にさせてくれる。これは一種の才能だ。
 目もあわせず、テキトウに返事をして、空いてる席に着く。ざっと目を通して、自分に出来そうなところから、手を付けることにした。

「検査、どうでしたの? その様子ですと、あまり宜しくなかったように見受けられますが」
「残念だったな。なんにも異常、なかったってよ」
「でも、安静にしてなきゃいけないんでしょう? 寂しいですわ」
「……あのな」

 仕方なく手を止め、椅子を回して顔を向けると、ピッタリと脇に立っているものだから、全く顔が見えなかった。
 ちょくちょく、背の高いことを誇示するので、余計に腹立たしい。

「どうして、お前だけ帰ってきてるんだよ」
「ヴィータさんが、そろそろ帰ってくる頃だと思いまして。一人じゃ寂しいでしょう?」
「……あー、寂しがりてぇ。人肌が恋しくなりてえよ~」
「ふふふ、ざーんねん。そんな思いはさせませんわ……と。冗談はここまで。戻りますわ」

 深々と――それこそ、頭がぶつかりそう――頭を下げたかと思うと、やけにあっさり離れていった。
 戻りますなんて言うからには、勝手に抜け出してきたってことか? まさか、そんなこと出来るわけない。じゃあ、何かお遣いでも、頼まれたのか……
 ぼんやり、憎たらしい背中を見送って、溜め息一つ。それから、仕事に戻った。


  ◆


「なあ、なのは」

 夕ご飯。ふわふわのオムレツが、なのはの喉を下っていくのを確認して、聞いてみた。

「なあに?」
「今日さ、本局にいたか? まだ、そうだったよな」
「うん、そうだよ。今週末からは予定が入ってるけど。どうして?」
「あ、いや、なんつーか」

 言葉を濁すアタシに、なのはは小首を傾げる。
 こういう誤魔化し方をしたら、誰だって気になるだろうに、油断にもほどがあった。
 案の定、なのはは「どーして?」と重ねて聞いてきた。
 どうしよう……

「ねえ、何でそんなこと聞くの? 今週の予定、言ってなかった?」
「いや、そんなことねーけどさ、何ていうか、その」

 口にして、舌打ちしたくなる。
 バカだ。
 ここで「忘れてた」とか「言ってなかったぞ」とか……せっかく、なのはが助け舟を出してくれたも同然だったのに。
 それみろ。なのはが余計に食いついてきた。こりゃ、離れそうもない。

「気ーにーなーる~」
「……いやさ、今日の昼によ。検診に行ってさ」
「うん」
「その帰りに……えーっと」
「うん、うん」
「……ああ、やっぱ駄目だ!」

 言わないぞ、とばかりにご飯を頬張るけど、なのはは納得してくれない。
 いかにも不満そうに「えー!」といって、テーブルの下で、脛を突っつかれた。結構、痛い。
 それでも知らん顔して、夕ご飯の続きをしたけど、なのはの突っつきは納まらず、避けても、何故か見事に追いかけてきた。
 このままじゃ敵わない。
 仕方なく――元々種をまいたのは自分だけど――、理由を言うことにした。

「しゃーねえな。言うぞ」
「仕方ないって……そもそも、ヴィータちゃんが言い出したんだし。私が悪いみたいに言われても」
「うぅ……うっせえよ。良いか、今から言うけど、笑うなよ」
「え? 笑っちゃうようなことなの?」
「あー! だから、黙って聞けよ!」
「……そんなこと、言われてないもん」
「あ、悪ぃ」

 駄目だ。全く調子が出ない。
 ここは、変に先延ばししないで、さっさと言うこと言って、引き下がった方が良い。
 お茶を一口。口と喉を潤して、深呼吸。
 なにをそんなに、重大なことを言うんだっていう大げさな前置きをして、

「……なのはをさ」
「うん。私を?」
「なのはをさ……お前を、見たような気がしたんだ」
「――え?」
「あ、あのさ。人ごみの中にさ、お前がいたような気がしたんだけど……うん、それだけ」
「へ、へえ。それって、検診の帰りに見たんだよね?」
「お、おう、そう、だけど」

 さあ、どうとでも突っ込みやがれ、と思ったのに、なのはは何も言ってこない。
 言わないどころか、一言だけ言って、黙ってしまった。

「……ど、どうしたんだよ」
「う、ううん! 何でもないよ! あれー、私、病棟とかドッグとか、そんなところ行ってないのに、変だなーって思って」
「そうだよな。アタシもさ、だから変だなーって思ってたんだ」
「でも分かるよ、ヴィータちゃんがそんな風になっちゃう理由」
「な、なんだよ」

 問い返され、なのはは、えっへんと顎を逸らし、得意げに振舞う。
 嫌な流れだ。

「きっと、私のことばっかり考えてたから、そんな幻を見ちゃうんだよ。うんうん、分かるなあ」
「な、なにがだ! アタシをそんなじゃないぞ! え、えっと……そうだ、頭打ったからだ! シャマルも言ってたから本当だぞ!」
「えー、嘘っぽいなあ。あ、でも、頭打ったお陰で、深層心理が現れたのかも知れない。うん、そうだ」
「ちげーったら、そんなじゃねーって。お前、そういう自分の都合の良い解釈、止めろって」
「ふーんだ。だったら今度、シャマル先生に聞いちゃうもんね」

 駄目だ。一つ嘘を吐くと、それを隠すために、また嘘を吐かなきゃならない。
 アタシは、雪ダルマ式に大きくなっていく嘘の前に、自分自身の迂闊さを恨んだ。
 けど、正直にも言えないし……何やってるんだって、つくづく自分がバカだと思わされた。


 


「あーあ、ヴィータちゃんの愛を確認できてよかったなあ」
「うっせ、一人で言ってろ」
「今日は気分が良いから、後片付け、しちゃうね」
「そういうのは、機嫌が悪くてもやってくれ」

 シャマルに言われたことを思い返しながら、ニコニコと、上機嫌ななのはを見つめた。
 なのはが、アタシを好きな理由と、アタシが、なのはを好きな理由。そして――どこまで、好きな人を信用出来るかってこと。
 今、そのことを考えると、どうしようもなく、胸が詰まるようで、食べたばかりのオムライスが、台無しだった。


 


 


 

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