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新婚なの! 13-3 (2)

「いってきます、ヴィータちゃん」

 毎朝恒例となった行事を済ませ、なのはは、今日もご機嫌に出かけていった。
 さて。アタシも出勤だ。
 昨日のこともあったんだけど、身体動かさないのも気持ち悪いし、朝の準備はアタシがした。そしたら、なのははいつもより素直で、普段の労力の三分の一だった。
 しかも、髪を梳いてやってるときに「ちゃんと先生のいうこと、聞かなくちゃ駄目だからね」と念を押されてしまった。
 完全に「お前が言うな」状態だったけど、素直に「うん」と頷いた。
 髪を梳いていたから、顔も見られなかったし、お陰――と言って良いんだろうか、この場合――で素直に頷けたんだろう。
 何て言うか、アタシだけでなく、なのはも普段とは違う様子だった。
 靴を履き、玄関ドアを前にする。
 嫌だな。何ていうか、このドアに阻まれている気がして。何をなのか、ダレとなのか、それは分からないけど。一晩経っても、依然として弱気な状態が続いているような気がした。

「みんな、頑張ってこいよ」

 一人、隊員オフィスに残り、訓練に出かけていく同僚の背中を見送る。
 アタシ自身、大丈夫だって思ってたし、いつも通りにするつもりだったのに、マジで診断書が送り付けられてたみたいで、ホントに休まされた。
 そこまで心配しなくて良い――"普通の人間"とは、身体の構造が違うんだ――と思うんだけど、最近のアタシ達の"変化"を思えば、仕方ないかもしれない。
 まあ、先生がそれを知るわけないんだし、一般的な処置として、当然のことなんだろう。
 それに、言うこと聞かないと、シャマルに告げ口されるかもしんねーし……おお、こわっ。
 思わず身震いして、デスクに意識を向けた。

「なんかさ。風邪引いて、学校休んだ子供みてぇだ」

 いや、実体験なんかないし、何となく、聞きかじったことを口にしてみただけ。
 がらんどうに、人影の消えたオフィスに一人座っていれば、独り言をいう人の気持ちも、分かるってもんだ。
 全員出かけたわけじゃないけど、いつもの賑わいを知っていると、この閑散とした雰囲気には、そう思わざるを得ない。
 室温すら下がった気がする光景だけど、有難いことに、暇でもないし。
 モニタを立ち上げて、自分宛の書類を眺めることにした。

「……マジで、アタシの代わりしてくれたヤツ、いないんだな」

 期待、というか願望というか。
 自分の分だけでもウンザリするのに、人のまでやってやろうってのは、相当な物好きだ。だから、分かってたことなんだけど。
 昨日は倒れた時点で、この上なく迷惑かけてるんだし、寧ろアタシが暇を持て余さないよう、手伝ってやらなくちゃいけない。
 だけど――と思うのは、人情じゃないだろうか。そう思ったアタシを、誰が責められよう。
 取りあえず、昨日の分を済ませてから、誰かのを手伝ってやるとするか。
 言った手前、やらなくちゃ格好がつかないし、これでも一応、立場があるしさ。

「……そういや、フーガが変なこと言ってたなあ」

 ポチポチと、モニタに映る書面を埋めていって、一息ついたところで、ふと思い出した。
 昨日のこと。
 訓練室で、ひっくり返ったアタシを医務室まで運んだ後、メンテが「今日は急用が出来たので帰ります」といって早退したらしい。
 はっきり言って、出鱈目すぎる。そんな簡単に帰るなんて。一体どういう用事があれば、早退が認められるんだよ。
 その上、いつもは呼ばないでも寄ってくるくせに、今日は、顔を合わせた記憶すらない。
 一体どうしたんだろうな、アイツ。……いや、寄ってきて欲しくないけどさ。

「さて。昼まで時間あるし、検査の予約でも取ってこようかな」

 部隊長から、今日は休めのお達しが出ている、と言われたのと同時に「精密検査いってこい」とも言われた。
 そんなだったら、すでに手配をしてあるのかと思いきや、別にそんなことはないってんだから、不親切だなあ、と思わないでもなかったけど、それは先生の仕事か。
 今日は、午後からも暇を与えられてしまったけど、時間を無駄にすることもないし、午前はここまでにして、オフィスを後にした。

「それじゃ、お願いします」

 予約は、思ったより簡単に取れた。
 いつも予約を取る人間でごった返してる受付が、妙に空いてたせいで、時間が余ってしまった。
 普段は忙しくしてる時間帯。
 そこに、ぽっかりと出来た隙間の埋め方が分からなくて、何だか情けない気分になる。
 気分が沈む。
 なんだか、昨日からずっとこんな感じだ。やっぱり、頭打ったのが影響してるのかな……

「こういうとき、甘いモノでも食べて……」

 疲れてるときは、甘いモノが良い、なんて、どこで聞いたか知れない話を思い出す。
 確かに、甘いモノを食べると、元気になるっていうか、食べる前からテンション上がるよな。昨日の、なのはみたいに。
 そこまで考えて、上がりかけた気持ちが、途端に萎えた。
 いや、萎えたというより、胸の中にモヤモヤとしたものが膨らんで、イライラするというか、なんというか……
 考えなきゃいけなかったことを、"思い出した"。

「……なんで、なのはは嘘吐いたんだろう」

 気の抜けた足取りで、とぼとぼとオフィスへ引き返す途中、思わず口から零れた。
 昨日。
 約束どおり、なのはと、アコース査察官に連れてってもらったカフェに行った。
 アタシのいったことが正しかったから、なのはが奢ってくれたんだけど、何だかんだ言いながら、アタシの分を半分ぐらい食べられた気がする。
 結局、奢ってもらった旨みが殆んどなかったって言うか、なのはが自分でお金を出して、その分沢山食べるという、何だかいつも通りの結果だった。
 いや、別にそれが嫌だって話じゃないし、なのはも楽しそうだったから良いんだけどさ。
 しかし。あれだけケーキやらを食べて、夕ご飯も普段通り食べられるもんだな……

「いやいや、そんな話じゃなくて」

 そのカフェでのこと。
 なんのきっかけだか忘れたけど、仕事の話になった。仕事の話なんて、面白くもないから、詳しい話はしないんだけど、珍しく、しかもケーキを食べている時に。
 そこでアタシは、この間の疑問――ゲンヤさんの話を思い出した。
 よく考えると、思い出すってのが変な話で、ずっと考えてなきゃいけなかったのに、自分自身でもバカかと思う。
 ”なのはが嘘を吐いた”――
 正確には、本当のことを言ってないというか、アタシ自身、そう言う――"嘘"だなんて――のは気が引ける。
 ここで、一番問題なのは、「どうしてなのはが、仕事の内容を隠したのか?」ってこと。
 聞く限り、そんな危険なことをしているとは思えない。
 大体、仕事柄、危険なのは百も承知で、それを咎めるぐらいなら、最初から続けさせたりなんかしない。
 アタシを初めとした周りの連中が、そう考えてるのは、なのはも承知だろ。だから、別の理由ってことになるんだろうけど……

『この間さ、お前、ミッドで教導の仕事があったって言ってたよな?』
『う、うん。そうだけど……どうしたの?』
『向こうに知り合いのオッサンがいてさ。"空"の人なんだけど。お前のことでお礼が言いたいって、連絡くれたんだ』
『へ、へえ、そうだったんだ』

 別に駆け引きをするとか、そんなつもりはなかったはずなんだけど、何故か、そんな言葉が口を吐いて出た。
 そして――なのはは、それを否定することをしなかった。

『大捕り物だったんだってな。大活躍だって聞いたぞ?』
『う、うーん、どうだったかなあ。私一人の活躍ってことは、ないと思うんだけど』
『謙遜すんなって。お陰で、被害もなくて助かったってさ。教導隊の面目躍如じゃねーの?』
『そ、そだね』

 明らかに具合が悪そうだった。
 ケーキの食いすぎじゃないことは、確かだ。
 聞き間違えかなにかで、アタシが事実と違うことを喋ってるんだとしたら、なのはは否定するか、修正すると思う。
 元々、手柄を立てるとか、そういうことに頓着しない人間だから、違和感ばかりが目立つ。

『最近、遅かったのはそれか? ちゃんと言わねーから心配するだろ』
『う、うん……ごめんね、ヴィータちゃん』

 困ったように眉を顰め、なのはは謝罪の言葉を口にする。
 だけど、その"ごめんね"は、なにか別のことに言われているような、そんな気がした。
 でも、今のなのはの顔を見たら、その直感を、口にすることは出来なかった。
 はっきりさせないまま、放置するのは、なのはを信用しているのか、アタシに意気地がないだけなのか――きっと、後者なんだろうけど。
 後悔するようなことにならないよう、願ってる。

『あのさ。最近はなにかと物騒らしいし、お前も見たろ? ニュースとかさ』
『どうだったかな、あんまり覚えてないかも』
『お前なあ……まあさ、そんじょそこらのチンピラ風情が、どうこう出来るとは思わねーけどさ、若しもって事があるだろ?』
『そ、それだったらヴィータちゃんだって。ここ何回か出動多いし、帰りが遅いよ』
『だ、だから。お互い気をつけようって話だ』

 様子のおかしさは続いた。
 上の空というか、何か他ごとが気になって、アタシとの話に、それほど身が入ってない感じ。
 やっぱり、なのはは何かを隠してる――
 嘘を吐く、ホントのことを言わない……アタシの頭の中は、あっという間に、そのことで溢れ返りそうになっていた。

「……それで撃墜されてりゃ、世話ねーぜ」

 そのことで頭がいっぱいだったアタシは、午後からの部隊対抗戦で、撃墜判定を食らった。
 判定どころか、実際に墜ちて、気を失ってたんだけど。
 これが実戦なら、相手によっちゃ……死んでたのかな、アタシ。いや、死ぬってことはねーけどさ。余程のことじゃない限り。
 でも、普段から、なのはに彼是言ってるくせに、自分がこの様じゃ、どの口が言うんだって話だ。情けねーや、ホント……

「はあ……どうしたら良いんだろ」

 溜め息が、漏れる。
 頭というか、意識自体が揺れるみたいな感覚に、真っ直ぐ歩いているのかすら、分からない。
 どうしたら良いんだろう。
 なのはを問い詰めるべきか、それとも、なのは自身が語ってくれるまで、待つべきか。
 問い詰める――正直言って、気がひける。なんだか、なのはを信用してないみたいで。
 待ってみる――なにも、子供みたいに、面倒を見てやる必要もない……か?

「もう少し……待ってみるか」

 口にして、初めから、そのつもりだったような気さえする。
 なのはを信用する証に、アタシは黙って見守ってやるんだ。うん、そうだ。
 深呼吸。
 そうだ、そうだと自分に言い聞かせる。
 ……よし、大丈夫だ。

「暇なのがいけないんだ。さっさと帰って続きでもするか」

 気を取り直して、歩き出す。
 だけど、そうまでしなくちゃいけない自分が、いかにこの選択に納得していないのか、必死に目を背けた。
 なのはを信用してるんだ。
 いや、なのはに、信用してないと思われたくない。
 違う。でも、なにがさ。
 アタシは……何故だか、自信がなかったんだ。自分自身に――


 


 

 
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