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新婚なの! 13-5 (1)


 昨日から、なのはの調子が良さそうだ。
 身体的な問題じゃなくて、心持っていうか、そういうところで、調子が良くなったみたいに思えた。
 色々、気になることはあるけど、なのはの具合が良いというなら、アタシとしては言うことはない……訳じゃなかった。けど、当面の心配というか、気掛かりが減るのは確かだった。
 そんな、なのはの調子とは反発……言うのも変だけど、アタシの夢見の悪さは、依然続いていた。

「なのは、いつまで本局にいるんだっけ」
「今週いっぱいだけど、その前に打ち合わせがあるから」
「ああ、そうか。なら、大丈夫だな」
「今度はミッドじゃなくて、他の世界だけど、そんなに遠くないから、その日のうちにちゃんと帰ってこられるよ」
「ん、忘れずに連絡しろよ」

 制服の袖に腕を通しながら、なのはは、うんうんと頷いた。
 いい加減、耳にタコが出来てるだろうし、最近は、ちゃんと言いつけを守ってるけど、何ていうか、今日は、特に言っておかなきゃいけない気がしたから、念を押すことにした。
 裾を整え、皺が出来てないかチェック。長く横に流した髪が、上着を着たときに乱れていないかなど等、目配りする。うん、今日も完璧だ。
 最後にコートと鞄をもって、一緒に玄関まで。

「……なあ、なのは」
「なあに?」
「……えっとさ、今度の仕事は空か、それとも、陸か?」
「……空、だよ」

 靴を履き終わったので、コート、鞄の順で渡してやる。相変わらず、何が入ってるか知れない鞄。多分、仕事に必要な資料とか、そう言うのだと思うけど。
 準備万端。出かける準備が整ったなのはは、右手をひらひら振って「いってきます」とだけ、出かけのイベントを短く切り上げて、玄関ドアを静かに閉めた。

「いってら……」

 ――別に、出かけのチューをして欲しいわけじゃない。
 だけど、こうもされないと――気になるじゃないか。
 あんだけ嫌がったアタシに、無理やり慣習化させたんだぞ。
 それを、今更なんの都合が知らないけど、突然止めるなんて、こっちがいい迷惑だ。

「……はあ」

 などと、文句を言ってはみるものの、頭の中をぐるぐる駆け回るだけで、口に出来ないのだから、情けないにも程があるし、なのはとしても、知ったことじゃないだろう。
 どうでも良いことは、ズケズケと言えるくせに、こういう肝心なことになると、気後れしちまう。
 なのはの消えた玄関に向かって、溜め息が漏れる。
 なのはに聞かせない様にしている分、いない時には、簡単に口を吐いてしまう。
 気になって、気になって仕方ないのに、それは喉の奥でつっかえて、決して相手に届くことはない。
 どうしてだろう、なにが原因なんだろう――
 誰かに聞いたら、教えてくれるだろうか。
 シャマルにああ言ったくせに、その実、解決の見通しすら立っていなんだから……笑いにもならねえ。


 


 今日も今日とて、あたしは一人――正確には違うのだけど――で、オフィスに待機。
 いい加減、飽きてきた。
 毎日々々、面倒だと思いながらも繰り返してきたことも、ある日を堺に、すっぱり止めてしまうと、途端に恋しくなるんだから不思議だ。こんなこと、止める前には、想像もつかなかった。
 しっかし。先生の言う通り、一週間――ホントは十日前後らしい――も休んでなきゃいけないんだろうか。
 ちょっとぐらい、例えばランニングとか、そういうのぐらいは大丈夫なんじゃないか?
 まだ、予定の半分も安静にしてないけど、これから一週間も、この状況が続くと思うとウンザリする。こっちの方が、よほど身体に悪い気がするぞ。
 この前の検査だって、なんにも異常は見つからなかったんだ。駄目元で、話を聞きに行くことにしよう。
 ……一応、昼休みに。

「あら、ヴィータ。何しにきたの?」
「……あ、えっと。元気そうでなりよりです」

 と言うわけで、昼休み。医務室に顔を出すと、先生は随分とご機嫌だった。昨日のシャマルと同じぐらい。
 何か、悪いことしたっけ……
 先生が、個人的に面白くないことがあっただけかもしれないのに、真っ先に、自分に原因があるのかもと考えるのは、アタシ自身、後ろめたいことがあるからなのか?
 う、うーん。自覚がないだけかもしれないし、違うかもしれないけど、下手に口をきいて薮蛇しないよう、ここは大人しくするべきだな。

「ああ、そうそう。あなたの顔を見たら、思い出したわ」
「は、はあ」
「私ね。あの後、少しここを空けたの」
「あの後?」
「旦那さんに迎えに来てもらったんですってね。羨ましいわあ」
「は、はあ」

 そんなことを言いたかったんですか? なんて、口から飛び出そうになるのを、ギリギリで飲み込んだ。

「あ~あ。職場結婚も、捨てたもんじゃないかもしれないわねえ」

 口では随分のんびりしたものだけど、そんなのが嘘っぱちだというのは、アタシでも分かる。
 頬杖をつき、左手でペンを、指の間で弄び続けている。くるくる、くるくる。なにかを、誤魔化すというか、気を逸らすように。組まれた足も不満げで、爪先が、忙しなく上下していた。
 ピリピリした雰囲気が、空気に乗って伝わってくる。
 ここで「そんな顔してると、皴が増えますよ」なんて言おうものなら、マジで入院だ。色んな意味で。
 割と普段から怖い人なので、今日みたいな態度でなくても、注文を付けるつもりはないけど、アタシ、なんかそんな悪いことしたかな……

「あの、先生」
「なにかしら」

 その口調に、違和感を覚える。その、他人事のような言いように。
 "機嫌が良い"のは、アタシが原因じゃないのか? いや、"機嫌が良い"から、そういう物言いなだけなのか?
 分かんないな、この人の考えることも。アタシが鈍感なだけかもしれないけど。
 ここは、単刀直入に、用件を伝えるよりも、少し世間話でもした方が良いかも知れない。
 なるべく、薮蛇にならないよう。

「えっと。休みも一緒にならないし、そんな良いモンでもないですよ。職場結婚なんて」
「言ってくれるじゃない。将来有望な、旦那様を掴まえた余裕かしら? この機会に人間ドックに入るってのはどう? 一週間コースで。あなた達みたいな人種は、身体が資本の癖に、ちっとも省みないんだから」

 藪を突付きかけたみたいだ。
 それに、一週間コースって、一体どこまで調べる気なんだ。というか、そんなコースあるのか。

「勘弁してください。それに、精密検査受けたばっかりですよ」
「それもそうね。ああ、そうだ。旦那様、あなたの様子を聞いてさぞビックリしたでしょうね」
「……はあ」

 面倒そうに応えながらも、聞き逃したりしない。やっぱり、先生の言いようは変だ。
 人から聞いたみたいな、自分の感想ではないようなニュアンスを感じさせる。
 なんだか、モヤモヤするな……

「あ、あの」
「なあに?」
「なのはが……あ、旦那がびっくりしてたかどうか、先生が一番知ってるんじゃないんですか?」
「……いいえ? 私は知らないわよ」

 何を言っているのかしら? と言わんばかりの顔だ。
 別に、言い回しや、探りを入れるとか、そういう類のモノでなく、本当に知らないわ、とただそれだけ。
 他人事みたいじゃなくて、本当に他人から話を聞いたからと、考えざるを得ない。
 と、いうことは――?

「だって。私はあの後、席を外してたもの。ああ、ちゃんと他の人に頼んでね」
「アタシは先生に呼んで貰ってんです、夫のことを。迎えに来るように」
「それはないわ。私は、あなたが旦那さんと一緒に帰ったって、聞いて知ったんだから。勿論、あなたが目を覚ましたところも見てないわ」
「……途中で、先生に魔法で眠らせてもらったんですけど」
「寝ぼけてたんじゃない?」

 そう言われると、自信がない。
 どうにもあの日から調子悪いし――体調的に問題はなくても、精神的に――、実は先生じゃなかった、と言われればそれまでだ。記憶が曖昧というか、何というか。
 だけど、そこまで間違えるものだろうか? 完全に、他人と見間違えるなんて……
 今ここで確かめる方法はない。出来なくはないけど、こんなことぐらいで、なのはに連絡取るわけにもいかないし。

「ふうん。顔色が良くないわね。でも、精密検査、なにもなかったんでしょう? だとすると、難しいわね」
「はあ、そうですか……」
「そうね。よく言うところの、精神的なものかもしれないし、弱ってたのも相まって、見たくないものが見えただけなのかもしれないわよ?」
「そうかもしれませんね」
「……そこは否定しておくものよ」

 への字に曲げた口から、深い溜め息が漏れる。
 アタシとしては話をあわせただけで、別に先生の顔を見たくないとか、そういう意味じゃなかったんだけど……失敗だな。

「でも、そこまで言われると気になるわね」
「そうだ先生。ここの番を頼んだのって、誰なんですか? その人に聞いてみれば」
「あら、名案。そう言われてみれば、そうね。う~んと、どんな子だったかしら。確か、背が高かったような、いや、低かったような……」
「男ですか、それとも女ですか?」
「ええっと、ちょっと待ってね。う~んと……確か、女の人だったと思うけど」

 なんてこった。先生だって、記憶が曖昧じゃないか。まさか、誰に頼んだのかすら、しっかり覚えてないとか、患者としてはショックだ。

「急ぎの用でね? ちょうど通りかかった人に。ほら、白衣も着てたし」
「い、いい加減だ……」
「う、ううむ……それについては謝るわ。私が迂闊だったもの」
「でも、探せば分かりますよね?」
「まあ、そうだけど。そこまで知りたい?」

 決して、先生が逃げの体勢に入っている訳じゃないのは分かる。
 だからアタシは、そこは黙って首を横に振っておいた。
 別に、言伝が上手くいってなくて、困ったことになったとか、そういう話じゃないし。まあ、分かるに越したことはないけど、ただそれだけの話だから。
 それに、そろそろ昼休みも終わりそうだし。

「ごほん。ところで、今日は何の御用だったのかしら」

 当初の目的とは別に、考えることが出来ちゃったけど、取りあえずは解決しておくことにしよう。

「うーん、そうねえ。検査で異常がないなら……身体を動かさないのも駄目だろうし」
「このままじゃ身体が鈍っちゃいますよ、本当に」
「少し動かす程度なら構わないわよ。ああ、ちゃんとバリアジャケットは着てね、何かあるといけないから」

 トレーニングルームで行うことなど、色々条件を出されたけど、意外にあっさり認めてくれた。
 許可を取ったとなれば、長居は無用だ。
 余計なことを言われないうちに、さっさと医務室を後にした。
 先生はいつも忙しいのに、この間も今日も、タイミングよく暇そうで良かったや。


  ◆


 取りあえず明日からにしよう。
 オフィスに続く通路を、一昨日よりも軽い足取りでいると、アタシの足に、重石をつけるような声が背中を叩いた。

「おこんにちわ、ヴィータさん」
「……お久しぶりです。あと、こんにちは、な」
「まあ、なんて他人行儀な! それに、細かい!」

 どうせ大仰なポーズをとってるんだろうけど、ガックリと視線を落としたアタシの目には、何も映らない。

「もう昼休み終わるし、飯まだだから、アタシ行くな」
「あら、それは奇遇。私もまだ終わっていないところでしたの」
「騙されたな、それは嘘だ。もうお昼終わったし」
「オホホ、騙されましたわね。ヴィータさんならきっと、そうやって発言を翻すと思っていましたわ」

 余裕綽々なその態度が、更にイライラさせる。
 立て板に水というか、全く淀みが無いのが、本当に初めからそう思っていたようで、余計に。
 しかし、ここで構ってしまっては、相手の思う壺だ。
 無視だ、無視。

「あら、ちょっとお待ちになって」
「……」
「いま、医務室帰りなのでしょう? どうでしたの、経過は?」

 その一言は、アタシの足を止めるのに見事、成功した。
 確かに、同僚に経過を伝えるのは吝かじゃない、いや、不義理ってもんだろう。
 特に、アタシにくっ付いてくる連中は、医務室まで運んでくれたっていうし――顔を青くしてたなんてな――、しないわけにいかないな。
 取りあえず、ここで立ち話はなんなので、後で教えるというと、意外にもあっさりと引き下がってくれた。
 機嫌よく訓練に向かう背中を見送って、お昼をとるために食堂へ向かった。


  ◆


 訓練でクタクタになったとこで悪かったけど、一応、部隊長に報告しておいた。
 アタシの倍は頑丈そうな部隊長は「鬼の霍乱とはこのことだな」と笑って、なんて失礼な人だろうと思わせた。
 ちょっと面白くなさそうにしていると、いつもの面子が寄ってきては、汚らしい顔――フーガのヤツ一人だけど――で喜んでくれた。
 大体、仕事柄もっと酷い事態だってあるというのに、なんとも呑気なことだと思ったけど、喜んでくれる分には悪い気はしない。ありがたく、好意は受け取っておいた。

「ヴィータはここの主力なんだから、早く治ってもらわないと、世界の存亡が大ピンチだよ?」
「お、おい、そんな大事態になったら、管理局が総力を挙げるだろうが。アタシ一人いなくたって、大して問題じゃねーよ」
「大ピンチなのは、世界だけじゃないんだぞ」
「そうです。毎日の書類のチェックが大変なんですから」
「……それはアタシが大変なだけで、お前らは楽したいだけだろ。しかも、ここ数日は手伝ってやってるじゃないか」

 周囲を明るくするような笑い声が響くが、アタシの胸には届かない。
 なんてこった。
 一瞬でも、こいつ等に感謝したアタシがバカみたいだ。バカ、バーカ。もう、手伝ってやんねーんだからな。

「そうですわ。この人たちに期待するのは、流石の私もバカと言わざるを――」

 そこまで言って、咳払いをすると、急に真面目な顔になる。

「世界の平和はどうか知りませんが、ミッドも最近は物騒だそうですし、気をつけてくださいましね」
「そうそう。そうだよ、ヴィータ? 怖ーい噂も聞くし、ヴィータは小さくて可愛いから心配だな」
「魔法も使えないしな、市街地じゃ」
「わ、分かってるよ、そんなことは」

 メンテを筆頭に、全員が、うんうんと頷いている。
 心配してくれてるのは嬉しいけど、物騒なのは、どこだって変わらないんだし、ミッド暮らしは、アタシだけじゃないんだ。お前らだって気をつけろよ。
 市街地で魔法使えないのも一緒だし。あと、可愛いとか関係ないから。可愛いとかいうな。

「あのさ、その"怖い噂"ってなんだよ。気になる言い方すんのな」
「あれ、ヴィータ知らないの? 自分の家があるところぐらい、噂のアンテナをピーンと張っておかなきゃ」
「いや、そんなこと言われても……」

 ピーン、のジェスチャーをされるけど、お前みたいな、噂好きを基準にされても困る。元々、アタシはそういうの疎いし。
 あと、アタシのこれはアンテナじゃねえ! 触んな! 引っ張るな!
 全く。メンテも乗っかってくんじゃねえよ。ちくしょう。模擬戦があったら、ボコボコにしてやるのに……

「ふう。じゃあね、あのね。教えてあげるけど――」
「最近ミッドでは、陸の隊員の殉職が、以前より多いらしいですわよ? 率としては、らしいですけど」
「あ~ん。人の話し取っちゃ駄目だって、エッちゃん」
「別に良いじゃねーか。そんな楽しい話でもないだろ?」
「あ……そだね、うん」

 指摘されて始めて、しょんぼりと、肩を落とす。
 慣れてるのかしらないけど、嫌な慣れだなって、いつも思う。そりゃ、一々悲観してもいられないけど、あっけらかんと話す様子ってのも嫌だ。
 勝手な理屈だ。
 だって、例え、そういう話を聞いて、悲しんだりしたとしても、それは、その話を聞いたときだけ。あっけらかんと、楽しく過ごしていても、耳に入らないだけで、毎日同じようなことが起きてるんだから。
 この辺りの感覚に、結論って出るのかな……?

「ああいう話を聞くと、歯がゆいよな。武装隊は、要請がないと動けないってのもあるし。動けなかった分だけ、余計にそう感じるっていうか」
「そういう、真面目な顔も出来るんだな、お前」
「……茶化すなよ、ヴィータ。俺だって真面目なの」
「でも。要請があったときは、大体、大事になってからだから、大変なんだよね」
「もっと早く、と思いますけど、ハードルを下げれば、一気に人手が足りなくなってしまいますし」
「そうですわね。くれぐれも、無茶をなさらないで下さいましね? ヴィータさん」

 分かってる――小さく頷く。なのはにも口を酸っぱく言ってることだし、アタシ自身、シャマルに釘を刺されたばかりだ。
 ここ最近、何度か立て続けに出動はしたけれど、命の危険を感じるようなことはなかった。
 でも、こっちに話が上がってくるまでに、何が起きてたのか――考えてもみなかった。
 いつの間にか、アタシも嫌な慣れ方しちまったのかもな。気の緩みっていうか、そんな感じの。

「お前ら、その割にはいっつも楽しそうだけどな」
「ヴィータが辛気臭すぎるだけだよ」
「はい。私もそう思います」
「こうでもしていませんと、身体がもちませんわよ? ヴィータさん」

 口数の少ないヤツにまで、同意されちまった。
 あと、メンテ。こっち来んな。

「ですから、私がいつも構っているのですけど……ヴィータさんの、心の氷を溶かすのは至難の業ですわね」
「うんうん。同感。だから余計に、ヴィータの旦那様の凄さが分かるっていうか。凄いよね! さすが、航空戦技教導隊の若きエースって感じ!」
「いや、それはあんまり……」
「謙遜謙遜。あーあ、私にもそんなステキな旦那様、現れないかなー。毎日、ちゃーんと愛を囁いてくれるよーな」
「お前、それは勝手な想像だろ……」
「管理局にいると、結婚が、早いか遅いか、極端ですから」
「そ、そういうもんなの……」

 アタシの言葉など聞かなかったかの如く、どんどん話は転がっていく。
 げんなり。酷い顔をしているのが、自分でも分かる。
 勝手な妄想を否定するのは面倒だけど、それをしないと事実として広められるからな。
 そんな面倒を、途中で遮られてしまう。

「駄目だよ、ヴィータ! ちゃんと言っておかないと! 後悔するんだから」
「え、え? あ、いや。アタシは言われてねーし、毎日言ってると言った覚えもねーから」
「恥かしがり屋だね、ヴィータは」
「ええ、私もそう思いますわ。私はいつでも良いと言っているのですけど、つれなくて……」
「そうだったんですの?」
「いやいや」

 わーわーと色んなことを言われて、圧倒される。
 うるさいのは二人だけで、もう二人は黙っててくれる――というより、更にその内の一人は口を挟めないだけか――けど、正直困る。
 そんな、毎日「愛してる」だなんて、別に言われたくもないし、言いたくもないし。
 大体、「アイシテル」なんてさ――よく分かんねーもん。

「ホント、後悔しちゃうよ? そうなってからじゃ遅いんだから」
「んだよ。経験者みたいに語りやがって」
「え、えへへ。なんていうか、セオリーでしょ、そういうのって」
「碌でもない。下らないこといってると、殴るぞ。大体、死亡フラグみてえじゃないか」
「この場合。言った方が、フラグが立ちますけどね」

 冗談っぽく拳を固めて見せると、相手も軽く笑い流してくれる。
 ホントに碌でもない話だけど、冗談で済んでいるうちは良い。
 だけどさ、アタシにしてみりゃ"なのはに関しては"冗談じゃ済まないんだ。
 だって――

「どうしたんだよ、ヴィータ。顔色悪いぞ?」
「本当だ、大丈夫?」
「やっぱりまだ本調子じゃないんですわ、ヴィータさん。もう少しお休みになられた方が」

 口々に、アタシを心配する言葉が飛び出す。
 だけど、アタシ自身、自分に何が起きてるのか分からない。
 なんだろう?
 何が起きているのか、考えるにつれて、身体の芯から冷え込むような錯覚に襲われる。
 言い知れない感触が、全身を走って覆う。特に、腕が、胸が。
 なんだ、なんだ?
 手が、腕が、胸が、肌が、鼻が――知っているような、忘れていたような感覚が"圧し掛かってきた"。

「ヴィ、ヴィータさん!?」

 誰に呼ばれたのか分からない。
 みんながアタシの名前を呼んでいるのは分かるけど、それに応えることは出来なかった、みたいだ……


 


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