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新婚なの! 13-8 (2)

 本局の入り口から、フェイト指定のトランスポートがある場所まで走る。
 前から、施設内の移動のための設備があったら便利なのにと思ってたけど、今日ほどそれを願ったこともなかった。出来ればこの先、同じようなことを願わないようにしたいもんだ。
 飛ぶわけにもいかず、ひたすら広い本局を恨めしく思いながら、羽織った黒い制服を翻しながら、走っている。家を出るとき、着替えてたものだから、フェイトが上着を貸してくれた。
 執務官の黒い制服。そして、あの甘い香り。
 フェイトの上着なのに、なんだかなのはと居るような気がした。焦るばかりの心が、ざわめく身体が、少しだけ落ち着きを取り戻す。
 必死になって、フェイトの背中を追っていると、突然、一つの影が飛び出してきた。

「亀さんよ、そんなに急いで何処へ行く?」
「シグナム! それと、アタシは亀じゃねえ!」
「どうしたの、こんなところで?」
「ふふふ。愛の前には些細なことだ、テスタロッサ」

 シグナムは、渋く決めたつもりだろうけど、答えになってないし、はっきり言って気持ち悪い。
 ウンザリしているアタシの横で、フェイトは甚く――意味は分かっていなさそうだけど――感心していて、その反応に、シグナムは満足しているようだった。
 ある意味、良いコンビなのかもしれない。
 でも、シグナム。お前は駄目だ。フェイトが心配になる。

「今アタシは忙しいんだ、お前に構ってる暇はねえ。行くぞ、フェイト」

 無視して脇をすり抜けようとしたとき、無造作に三つ編みを掴まれて、思わずつんのめってしまう。
 腕が届かないからって、そんなところ掴むな。すげー痛いんだぞ。
 全く。走ってるところで掴むとか、なのはでもしないようなことしやがって。止めろ、放せったら。

「って、おい!」
「そう目を三角にするな。お前にも悪い話ではないぞ? なあに、簡単なことだ」
「な、なんだよ、シグナム」
「ふふふ。私を連れて行け、それだけだ」
「……どういうことだよ」
「面倒なヤツだな。ハイか、イエスか。どっちだ、ヴィータ」

 ちゃんと、説明しろよ――言いかけて、止めた。アタシを見下ろす視線に、さっきまでのいい加減な雰囲気が、消えていたから。久しぶりに見る、"シグナム"の瞳だった。
 目配せしたフェイトも、頷いてくれる。
 ここでグタグタして、時間を無駄にしたくない。
 掴まれた三つ編みを引き抜き、宙ぶらりんになったシグナムの手を、パチンと叩いて「フェイトが良いんだってさ」と、それだけ口にして、駆け出した。

「ふふふ、面倒なヤツだ。なあ、テスタロッサ」
「私はそう思わないよ。私たちには、これぐらい慎重でいてくれなきゃ。特に、なのはとシグナムは」
「無茶は、なのはの専売特許だろう」
「聞こえてるぞ、シグナム」

 夜のシフト――便宜上、そう呼んでるだけ――になっているにしても、人影が少ない。
 今はそんなことに構ってられないし、丁度良いとばかりに、そんな人通りの少ない通路を、ひた走る。少しペースが速いぐらいだったけど、このぐらいの方が、余計なことを考えなくて済むし、ちょうど良いのかも。
 フェイトは、この時間を使って、取りあえず、現状を説明してくれるみたいだ。

「なのはたちが連絡を絶ってから、既に五時間以上、経過してる。普通なら、もう増援が来てても良いんだけど」
「状況が状況だからな。トラブルに巻き込まれたか? と疑問を挟む余地がない」
「最後に連絡取れた位置から、分からねーのか?」
「そこから動いてなければ、良いんだけど……陸の動きは、こっちでも全然追えてなくて」
「なのはが動いたからこそ、先行を掴めた面もありそうだな」

 フェイトは、苦々しく頷く。
 
「なのはが、どうやって現場に踏み込んだのかは、正直分からんが……動いていないんだったな?」
「うん。だからと言って、こちらから、迂闊に捜索にまで戦力を避けないんだ。余剰戦力を、そんなに持ってこられる権限もないし……情けない、言い訳にしかならないけど」
「あ、いや、お前を責めてる訳じゃないんだからさ」

 床を蹴る音が響く中、まだ、走る。

「確認されてる相手の戦力が、予想以上だったのも手伝ってる。まさか、アソコにいた動物の殆んどがそうだったなんて」
「そう、というのは……相手の戦力に組み込まれていると言うことか。しかし、その動物とは?」
「シグナム。角の生えたさ、でっけえヤツ。ビルぐらいあるんだ。他にも、豹とか、猛獣だな。それとか、鳥もいたはずでさ。とにかくみんなデカイ」
「ふむ。しかし、大きいだけではないのだろう?」
「ああ。魔力のコントロールが上手くてさ。まともに魔法を使えたところで、あんま、戦いたくねえ」

 シグナムが、じっくり考え込んでいるのが分かる。
 まだ詳しい資料を見てないから、心構えとか、その辺を練ってるんだろうと思う。こういうとき、バトルマニアとしての血を抑えられるのが、流石なんだと思う。
 現に、さっきから変わった雰囲気は、維持されてるし。やっぱり、頼りになるよな。うちの将はさ。

「あと、最後に確認できた分では、他の種類も含めて数十体ずつ。その他に魔導師が十数人。彼らは同じAMF下にいるわけだけど、当然対策は備えているだろうから……」
「状況は、悪すぎるな。しかも、なのはだけじゃねえってのがさ」
「まだ実戦経験の少ない生徒を助けに行ったのだろう? 分が悪いな。普段のなのはなら、一人で全部片付けるぐらいしてみせるだろう」
「流石にそれは言い過ぎだって」
「そうか? ふふん、相変わらずお前は過保護だな」

 なんだよ、それ。過保護とか関係ないし。
 あと、アタシの頼りになる返せよ。流石返せよ。マジで。

『ちょっと待つです!』

 もうすぐ、指定の場所へ辿り着こうという時、誰かの声が、アタシの頭の中に飛び込んできた。聞き慣れた、とても可愛い声が。

「ど、どこ――!?」
「ヴィータちゃん、また忘れたですね、リインのことー!」

 姿を現した、薄い空色の髪に、母親と同じ髪留めをした八神家の末っ子。
 アタシの目線より、いくらか高い場所に留まり、むーっと頬を膨らませ、腕組みをして仁王立ち。全身で不満を表現していた。
 そんな格好も可愛くて、機嫌をとってやりたいけど、今はそんな時間がない。
 目配せをすると、フェイトはアタシに任せるといい、シグナムは連れて行っても構わないというけど、以前にシグナムのした話が、あることを思い出させてくれた。
 二人を先に行かせて、アタシは、可愛いリインの説得をすることにした。

「単刀直入にいうぞ。駄目だ、リイン」
「どーしてですか。あ、若しかして。足手まといになるとか思ってますね? リインは、決して足手まといになったりしないです」
「だからだよ、リイン」
「分かんないです。ちゃんと説明した下さい、ヴィータちゃん」

 アタシの視線の高さまで降りてきたリイン。
 差し出した手の平に、音もなく重さを感じさせることなく、降り立つ。けれど、そこでもまた仁王立ち。
 時間が惜しいのは確かだ。
 でも、それだからといって、リインを疎かにする訳にはいかない。

「どうして、ここにいるんだ?」
「話を逸らさないで下さい」
「こんな時間に、どうしたんだ。家に帰ってる時間だろ?」
「……はやてちゃんと一緒にいたからです。本局で、打ち合わせでしたから。はやてちゃんは、作戦会議が長引いてて、まだお仕事中ですけど」
「じゃあ、尚更だ。リインを連れて行くわけにはいかない」
「納得いかないです、ヴィータちゃん」

 確かに。ちゃんと説明しなきゃ納得いかないだろう。
 周囲へ意識を広げて、とりあえず人気がないことを確認した。
 壁にもたれかかり、手の平に乗ったままのリインを顔に寄せて、頬をそっと重ねた。ぷにぷにとした、リインの柔らかい頬の感触が心地いい。
 焦りに苛立つ心が、少しだけ落ち着く気がした。

「リイン。はやてを一人にするわけにはいかない。それは分かるよな? それに、アタシとシグナムに、何があるか分からないからな」
「ヴィータちゃんは、そういうつもりなんですか!?」
「そういう意味じゃないよ。アタシ達が、はやてと長く離れちゃうかもしれないってこと。それなのに、リインまでついてきちゃったら、その間、無防備になっちゃうだろ?」
「ふーんだ。そんな今更なこと。ちっとも帰ってこないヴィータちゃんじゃ、説得力、ないです」
「だからさ。リインに守ってもらいたいんだ、はやてのこと」

 リインは不服そうだ。不愉快だという感情を、隠そうともしない。ぷりぷりと怒っている。
 どうやって言えば良いのか。大きくて、濃い空色の瞳を見つめていたら、思い切り頬を抓られた。
 ちっちゃな手で、余り痛くないことが、余計に痛かった。
 気の済むまでさせた方が良いのかと思っていると、その手が不意に緩む。その緩みは、リインの心の緩みのように、思えた。だって、空色の瞳が、雨模様になりそうだったから。

「……ヴィータちゃん。リイン一人じゃ、心配です。はやてちゃんを、守りきれるか自信ないです」
「そうか? アタシは信じてるぞ、リインのこと」
「……まだまだ、リインは小さいですから、ヴィータちゃん達が居てくれないと心細いんです」
「シャマルとザフィーラもいるだろ? 二人は守ることに関しちゃ、アタシとシグナムよりよっぽど強いぞ。それに、少し遠くのスーパーまで買い物に行くぐらいだから。直ぐに帰ってくる」
「ホント……ですか?」
「ああ。ホントだ。明日は休みじゃないしな。そんな長く出かけてるつもりねえもん」
「……はい、です」

 ふにふにの小さな手が、離れていく。
 でも、納得はしていないような気もする。眉間に皴が寄ったままだし、顎に梅干し作ってるし。

「リインが心配してくれるのは嬉しいさ。だから、気持ちだけもらってく」
「……ちゃんと、帰ってきてくださいね」
「大丈夫だ。そのぐらいなら守れるさ」
「ホントですか? じゃあ、帰ってきたら、またジャンボパフェ、食べに連れてってくれるですか?」
「任せろ。今度ははやても一緒にな」

 手の平から、そっと離れていく。
 なにがそうまでさせるのか。リインはひどく心配している。
 向こうの状況を詳しく知っていて、それで心配してくれているのか。それとも、アタシとシグナムが離れることに、なにか心配になる要素があるんだろうか。
 もし、後者だとしたら……そのときは、騎士カリムやアコース査察官の方が、頼りになると思う。アタシらは、どっちかと言わず腕っ節が頼りなほうだからさ。
 なんにせよ。今のリインの不安を取り除いてやるには、行動で示さないと駄目ってことだ。

「休みが取れたら帰るからさ、そんとき一緒にな。じゃあ、行ってくる」
「ふーんだ! ヴィータちゃんには期待しないです! べー!」
「言ったな、リイン。ちゃんと約束守ったときは、リインが奢るんだぞ?」
「そんな当たり前のことしたぐらいで、偉そうにしないで欲しいです!」

 盛大なあっかんべーをしたリインは、振り返りもせず、飛んで行ってしまった。
 最後には、鼻声だった気がする。
 小さな背中が、いつにも増して小さく見えた。
 こうなったら、何が何でも約束を守らなきゃいけなくなってきた。
 リインを嘘つきにしてやるからな。

「意外に早く話が着いたようだな、ヴィータ。リインが素直に引くとも思えんが、どういう手を使った?」

 リインを見送り、走っていくとシグナムだけが待っていてくれた。
 どうしたんだろう、という疑問の前に、そんなことを言うものだから、答えなくちゃならない。
 それが、下らない内容でも、リインのことだったから。
 面倒なヤツだな、お前。

「誠実に答えただけだ。ちゃんと約束を守るってな」
「そんな軽々しくして良いモノなのか?」
「軽くねえよ」
「ふふふ、そうか。今回は私もいるからな、確かに簡単だろう」
「誰もお前なんか計算に入れてねーよ」

 シグナムに先導されて走る。
 減らず口っていうか、相変わらず、もう少し言い方があるだろってヤツだな。でもこれは、シグナムなりの励まし方っていうか、そんな感じなんだ。
 別に、今に始まったことじゃないし、これは素直な性分じゃないからって分かってるんだしさ。当たり前だろ、家族なんだから。

「ところでよ、何でお前だけなんだ。フェイトはどうしたんだよ」
「それなら私が説明するまでもない、行けば分かる」

 お前、分かってないだけじゃねーか? なんて言葉は飲み込む。こう言うってことは、フェイトと一緒にいて、何かあったから戻ってきたって事だし。それに、アタシを待つために、戻ってきてくれてたんだからな。
 暫く走ったところで、目的のトランスポートが見えてみた。幾つもの通路が集まってきている、ロータリーとか、そんな感じのところ。その一画の手前で、シグナムが足を止める。
 その背中越しに覗くだけで、事情は分からずとも、状況だけは飲み込めた。

「渋滞してんな、これ」
「そういうことだ、何故かは知らんがな。まだ、テスタロッサは道を開けられないようだ」
「ったく。こんなときに限って、なんかあったのか」
「さあな」

 トランスポートの前で、大渋滞が起きてる――というには、多少違和感のある雰囲気だった。人がごった返しているのは確かだけど、そういう類のトラブルが原因ではない感じだ。
 目の前で屯している連中は、バリアジャケット姿のせいで一見して分からなかったけど、フェイトが揉めているらしい男の近くにいる男の制服で、所属が分かった。
 陸の人間だ。
 それが、どこの陸なのかは分からなかったけど、そこには興味はない。なにか"邪魔をしている"連中っていう認識で、充分だったから。
 逸る気持ちをグッと抑え、フェイトに声をかけるために近づく。

「どうしたよ、フェイト」
「あ、ヴィータ。どうしたも何も、急にここは使えないから、他所へ行けなんて言われちゃって」
「それは当然でしょう」
「あんだと?」

 困った表情を隠さないフェイトの肩越しに、男の顔が見える。
 厳つい顔とがっしりとした身体つき、いかにも武装隊でならしてきたって感じだ。さっき揉めてたのは、コイツだな。
 フェイトは気を取り直すと、正面から珍しく思えるほどキツイ視線で、浮かべたモニタを男に見せ付けた。

「正式な使用許可証です。時間帯も指定されています。そちらが優先されるというのであれば、提示をお願いします」
「そも、私にはそれが真正なものなのか、判断しかねます。お引取り下さい」
「問い合わせていただければ分かります!」
「……海では、自分たちはそうやって、ルールを守らなくて良いとでも、教育しているのですか?」
「ルールを守っていないというなら、あなたです!」

 珍しく語気が強いフェイト。男もそんなに声を出されるとは思わなかったのだろうか。一瞬だけうろたえる様に、隣に目配せした。それを受けたのは、斜め後ろに立っていた、陸士の制服を着た男。中肉中背、どこか爬虫類を思わせるような顔をしていて、いかにも嫌味いいそうな、生理的に受け付けないような感じだった。
 ガタイのいいオッサン。なんでこんなヤツの様子を気にするんだろうな。偉いさんなのか?
 いや、そんなことは、どうでもいい。こっちとしては、お前の理由かなんて知ったことじゃないからな。
 こっちは、ちっと急ぎのようなんだ。

「駄目だよ、ヴィータ。ヴィータだけでも行かなきゃいけないんだら」
「なっ。だ、だったらよ、どーすんだ」

 まだ何も言ってない内に、フェイトに制止されてしまう。
 付き合い長いからな。何するつもりなのか読まれてたのかも……愛機を握り締めた右手を、そっと後ろに隠す。
 それでも、黙って引き下がる気にはなれなかった。なにか一言言ってやろうとしたとき、またアタシを制止されてしまう。行く手を塞ぐように立ったのは――シグナムだ。
 手には、待機状態ながらも、しっかりとレヴァンティンが握られている。

「ここは私に任せろ、ヴィータ」
「わ、私たちに喧嘩を売るつもりですか」
「ん? 抗議だ、というつもりだったが……ふむ、実力行使というのは、思いつかなかったな」
「(よく言うぜ。シグナム)」
「喧嘩か。ならば、両成敗だな。それで良いなら私としては構わんぞ?」

 見なくても分かる。シグナムがどんな顔をしているのか。
 ガタイのいい男が、思わず後ずさり。その向こうで渋滞を作っている隊員たちも、それを感じ取ったのかざわめき始める。
 それでも、まだ、目の前の男は、隣を気にする余裕はあるようだった。
 それを見て、シグナムが一歩、前に出る。

「場を弁えろ、シグナム二等空尉」

 ここにきて、その爬虫類顔した男が口を開いた。
 シグナムは、名前を呼ばれたことを疑問に思ったみたいで「名札でもつけていたか、私は」なんて、フェイトに聞いていた。当然、フェイトは首を横に振る。

「弁える? それはこちらの台詞だ」
「お前がここで暴れれば、どうなるか分かっているだろう。両成敗なのでは済まんことぐらいな」
「一丁前に、脅しか。程度が知れるな。ふうん。陸の人間というのは、こういうのを礼儀として教えているんだな?」
「ぐ、ぐ……」
「強がりもそこまでにしておけ、二等空尉」

 シグナムが、更に一歩つめる。爬虫類男は一歩も引かない。代わって、シグナムに一瞥をくらった武装隊の男は、脂汗をべったりと浮かべながらも、黙って立ちはだかっている。
 どうする?
 このままシグナムを止めないでおくか?
 いや、それじゃあ、はやてに迷惑がかかっちまう。この男が言ってることは、そういうことだ。
 くそっ。どうすりゃいいんだ。

「ヴィータ、テスタロッサ。先に行け。ここの連中なら、一分も掛からん」
「お、おい。なんのつもりだよ」
「そこの男。先手必勝だぞ? 後手になれば勝てん、絶対にな」

 シグナムから、殺気とも言われるようなものが、一斉に放たれ、周囲を色濃く漂っている。
 アタシとフェイトは慣れているから、肌がピリピリする程度だけど、初めての人間には、そういうわけにはいかなかったみたいだ。一応、平静を装っていた武装隊の男が、思わず腰を落とすのが見えた。
 不味い。
 このままじゃ、ホントにシグナムが――

「おや、こんばんは。こんなところでどうしたんだ? ヴィータ」
「――!? プ、プリム、さん?」

 不意に飛び込んできた声。
 それは、久しぶりに聞く声だった。
 振り返ると、なのはと同じ制服を着たプリムさんが、眠そうにこちらに歩いてくるところだった。ネクタイもしっかり締めてないし、髪も少しボサッとしている。
 な、なんでこんなところにいるんだ?

「ああ、ちゃんと覚えておいてくれたか。嬉しいね」
「え、ええ。でも、どうしてここに?」
「最近ずっと、泊り込みなんだ。高町から聞いてなかったか?」
「えーっと……確か、トライアルがどうとか、言ってました」
「うん、そう。それでね、暇だから散歩していたところなんだ。そうしたら、何やら賑わしいものだから」
「お久しぶりです、カレスティア二等空尉」
「こんばんは、シグナム」

 アタシとシグナムは普通に会話を交わしているけれど、周囲の空気が一変したのが分かった。
 プリムさん一人で、場の空気が入れ替わったかのような錯覚。シグナムは、殺気を完全に収めてしまったのも、手伝っているだろうけど。それをしても、凄い。
 ざわめいていた隊員達、そして爬虫類男までが、蛇に睨まれたカエル――蛙に睨まれた蛇というか――のようになってしまう。
 そんな変化に全く構うことなく、その中を平然と歩き、プリムさんはアタシたちを背にして、武装隊の男の前に立った。プリムさんは、背が高くない――ヒールがないと、はやてと同じぐらいだ――から、男を完全に見上げてる。
 見上げられた男は、海で泳いできたのかよってぐらい、汗をかいていた。

「どうしたんですか、この騒ぎは」
「い、いや。なんでもない。少し転送に手間取っているだけだ」
「ふうん。オペレーターが間抜けなのかな……ああ、ちょっといいですか? ハラオウン執務官」
「え、え?」

 視線は男を捕らえたまま、フェイトが持っていた書類――といっても空間モニタだけど――を取り上げた。
 フェイトが呆気に取られている中、まるで内容なんて最初から分かっていると言わんばかりに、形だけサッと目を通した。

「何処へ?」
「く、訓練だ、二等空尉。指定管理世界へ」
「なんの? こんな時間から」
「じ、時差があるからな。大体、夜間訓練というのもある、だろう。そんなにおかしなことか?」
「いえ、別に。でも、普通の訓練ですよね? そんなの、つまらないと思うんですが……あ、そうだ。特別に私が訓練に付き合う、というのはどうでしょう?」
「――!?」

 いかにも名案! とばかりに、手をポンとする。
 男は、そんな気楽な感じじゃないと言わんばかりの顔をしている。今にも、倒れてしまいそうだ。隣のヘビ男も、全く手を出してこない。悪いものでも、食べたみたいな顔してる。

「これでも、教導隊ですから。そうだなあ……施設内におけるテロリストの制圧、なんてのはどうですか? もちろん、私がテロリスト役で構いません」

 無茶なこと言ってるのは変わらずだけど、どうにも違和感がある。
 何か、軽い。言葉遣いも、なにか違う。こんなにスラスラと喋る人だったろうか。姿も声も、違うところはないというのに、全体から受ける印象は、全くの別人のようだ。
 だけど、そんなのはどうでも良い。もう一押しで、何とかなりそうな雰囲気なんだから。
 既に、後ろに見える隊員たちが、ぞろぞろと動き始めて、一角が薄手になっている。フェイトが指定したトランスポートは、きっとあの辺りなんだろう。

「転送装置を抑えられると、大変ですから。それを守りながら、立てこもるテロリストを……後ろの子達はやる気があるのかな? ほら、場所移動を始めてるし」
「……い、いや。だが、しかし」
「いい機会だと思うんですけど……あ、ヴィータ。あそこが開いているようだ。この人たちが使わないなら、使ったらどうかな?」
「そうします。プリムさん、ありがとうございました」

 振り返ったプリムさんに、頭を下げる。
 ヘビ男には目もくれず、脂汗を被った男の脇をすり抜け、隊員達で作られた道を急ぐことにした。
 去り際に「お礼は、高町と一緒に来てくれれば良いよ」と言うのだけが、聞こえた。何か違うな、とまたも思ったけど、立ち止まって確認する訳にもいかず、その疑問は振り切ることにした。
 ざわつく隊員達の間を走り抜ける。
 敵意とか、そういうものは一切感じない。
 あったところで、何をするわけでもないんだけど。連中にこれ以上構ってる暇はないし。
 今は兎に角、なのはのところへ、少しでも早く行かなくちゃならないんだから。

「ヴィータ、シグナム。一度、私の艦に移るから」

 フェイトからそれだけを聞き、転送機はアタシ達を目的地まで飛ばしてくれる。
 もう直ぐだ。
 待っててくれよ、なのは。


 

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