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新婚なの! 13-10 (2)


 幾らか歩いたけど、何故か獣達の行動は散発で、今までどおりではなく、フェイト一人で充分で、困ることはなかった。
 おかげで、新しい怪我人は出なかったし、アタシも少しずつ身体を動かせるようになって来た。
 思ったより、回復が早い。どういう理由か分からないけど、元々身体の作りが違うし、深く考えるのは、また今度にしよう。それより気になることが、一つあったし。

『フェイト。ちょっと良いか?』
『なに、ヴィータ』
『暗くないか、この辺り。行きに通ったときより、時間の経過以上に暗い』
『……うん。私も今、そう思っていたところ』
『前にアタシが来ていたときと同じ。普通に、夜が来てる』

 フェイトの隣に立ち、念話で相談する。ピッタリ横についているとはいえ、念話は思った以上にクリアだった。
 これは、AMFの効果が薄くなっているせいか? それなら、合点がいくんだけれども。
 なら、そろそろ魔法も使いやすくなるはずだ。

『そう、だね。なんともいえない、あのフィルターを一枚通したような、独特の感覚が薄くなってる』
『じゃあ、AMFの影響は薄くなってるか、もうなくなってるかの、どれかだな』
『うん。元々、この世界はコントロールが効き難いって話だったから、ちょっと自信なかったんだ』
『よし。それなら大丈夫だろ』

「高町一尉。早いですが、一度休憩を取られますか」
「……このまま留まるのは、危険だと考えます。幸い、執務官の治療魔法のお陰で、全員の体調も整っています」
「ヴィータ三尉、どう思いますか」
「自分も同意見です。早く合流させたいですし、留まって、相手に囲まれる可能性も、ないことはありませんから」
「まだこの辺りは、動物たちの気配が、濃かったところですから。そうしましょう」

 短いやり取りに、陸士たちも黙って頷いた。念話で打ち合わせ済みだったのは、悪かったけど。
 フェイトによれば、そろそろ、アタシ達を追う増援がこっちに来てるはず。
 その上、獣達が襲ってこないのなら、その内に、少しでも距離を稼いで、早く合流したい。
 このことをアタシとフェイトが口に出してしまうと、陸士のヤツらが足手まといだって、そう捉えかねられないから、念話でやり取りしたんだけど。
 アタシの心配は、杞憂に終わって、一安心だった。
 全員の意思を確認し、また歩みを進めた。

「AMFの影響、やっぱり薄くなってるのかな」
「いい加減、捕物も終わってる頃じゃねーか? なら、AMFもじきに切れるだろ」
「外部と連絡がとれないって、やっぱり不便だね」
「取りあえず、こっちの正確な位置さえ分かってくれりゃ、良いんだけどさ」
「うん、そう――おほん。ええ、そうですね」

 フェイトは、態度を改める。
 どうしたのかと思い、集まる陸士の視線を不思議がっていると、なのはに肩を貸していた陸士の、おずおずと切り出された――周りから、お前聞けっていう無言の圧力も手伝って――言葉に、合点がいった。

「あ、あの。ひとつよろしいですか?」
「はい、どうぞ。なにか気になることでも?」
「い、いえ。それほどではないのですが……お知り合いなのですか、高町教導官」
「え、え? うん、そうだなんだ。執務官とは、十年来の大親友なんだよ。そしてね、こちらは私の奥さんなの。可愛いでしょ~」
「あ、お、お前! 今そんなこと言わなくたって良いだろ!」
「だって、言っておかないと誤解されそうなんだもん」
「ぐぎぎ……! ったたた」

 なのはの、してやったりと言わんばかりの顔に、思わず歯軋りしてしまう。
 流石に、任務中だというのに馴れ馴れしすぎたというか、いつも通りにし過ぎたかもしれない。……あんな風に抱きついてた時点で、既に言い訳不能だったか。うぅ、なのはの言う通りになるとは。
 いきなり現れた小さいのが、妙に慣れ親しんだ空気を醸し出してれば、アタシ達の関係を知らないと、なんでこんな口調やら態度なんだろうと、疑問に思っても不思議じゃない。
 なのはとフェイトは有名人だからな。あ、はやても負けてないぞ。それに比べて、アタシはそんなことないからな。以前に、一部の人間に有名だーなんて、言われたこともあるけど、どうせ嘘だろうし。
 バレたら仕方ない。もういつも通りで良いだろ。

「そろそろ、開けた場所に出るはずだ。そこで一旦、待つことにしないか?」
「そうだね。また随分歩いたし、この辺りなら、元々数は少なかったんでしょ? なら、休めるかもしれないね」
「来た道を戻ってるし、AMFの影響もないなら、トレース出来るようになってるかもしれない。この辺りで、一度待ってみようか」
「よし。あつらえ向きな樹があるな。なのはを頼む」
「了解です。高町教導官、こちらへ」

 なのはに肩を貸したヤツも含め、十二人の陸士たちは、大きな樹の袂へ移動を開始する。
 アタシとフェイトは、周囲に注意を払いながら、蓋になるようにみんなの前に立った。さっきと同じで、周囲に獣たちの気配は、さっぱり感じられなかった。
 流石に、肩から力が抜ける。

『ヴィータ、大丈夫なの? 一緒に休んでた方が……』
『心配すんなって。二人でこうしてた方が、安心感があるだろ? それにこの後、シグナムと、置いてきたアイツ等の仲間のところまで行かなきゃいけないんだし、お前ばっかりに、任せられないって』
『私は……ううん、ありがとう、ヴィータ。でも、私はそんなに疲れてないから、余裕を見つけて、休んでね』
『ああ。もうちょっと経ったら、有りがたく休ませて貰うよ』

 内緒話には、本当に便利だ。
 傍目には、黙って突っ立ってるようにしか、見えないんだからさ。まあ、そうやって使えるようになるには、訓練が必要だけどな。最初は、どうしても視線で追ってしまったりするし。
 案の定、背中に、安堵の空気を感じる。
 ただ、それ一辺倒ではなくて、端々に違う色の感情が見え隠れした。
 生き残れたことと、生き残ってしまったこと。
 確かにコイツ等には経験のなかったことだろうし、安易にどちらかに偏ってしまわないだけ、良いのかもしれないけど。
 誤解を恐れずに言うと、アタシは、なのはを助けに来ただけなんだ。でも、なのはが必死に守ろうとしたものの、少しでも手助けできたと思えば、悪い気はしない。
 アタシだって、人が無闇に死ぬのは……もう、見たくないし、したくない。

「ねえ、ヴィータちゃん。あ、フェイトちゃんでも良いけど。ちょっと良いかな」
「なあに、なのは」
「どうやって、私たちのところまで来られたの? 通信も探査も、効かなかったはずなのに」
「そのこと? なら、私よりヴィータの聞いたほうが良いよ。ね、ヴィータ?」
「ばっ、し、知らね! そういうことは、念話でしろよ!」

 知らん振りをするけど、背中に視線が突き刺さる。
 なのはとフェイトだけじゃない。後ろで休んでる陸士の連中のまで、背中をちくちくやってきやがる。
 しまったな。もっと、知らん顔していれば良かったのに、ちょっと過剰反応しちゃったかもしれない。お陰で余計に興味を惹いてしまったというか……うぅ、怪我人は大人しくしてろ。

「ねえ、ヴィータちゃん。教えてよ」
「嫌だ」
「なんで?」
「とにかく、今は嫌だ」
「理由、教えてくれなきゃ、ダメ」

 流石に人前だからか、なのはの態度も控えめだ。
 それなら良いんだけど、ただ元気がないだけというなら、心配だ。声にも張りがないというか、弱弱しいとまでは言わないし、甘えてるのとも違うし。やっぱり、心配だ。
 でも、ここで言うのは嫌だな。居合わせるのが、フェイトだけなら、良いんだけど、初対面の人を前にいうのは……うん。
 そ、それに、そんなこと言う雰囲気じゃないだろ。その、アイツらの同僚のことを考えると、呑気に言ってられないっていうか、不謹慎っていうか、なんつーか……期待に満ちた視線を感じるのは、否定しないけど。
 ううーん。どうすりゃ良いんだ……

「……んじゃーさ。帰ったら教えてやるよ。な、それで良いだろ?」
「えー。今聞きたい」
「そんな我侭いうヤツには、教えてやんない。気が変わった。後でもダメだ」
「え~」
「ほら、ヴィータ。そんな意地悪言わないで。ね?」

 むー。なんだよ、どうしてフェイとまでなのはの味方してんだよ。あ、いや、元々なのはの味方か……
 しっかし、後ろの連中も、すっかり期待しちまってるというか、口には出さないけど、そわそわ期待してるの丸分かりだ。
 そりゃあ、いつまでも落ち込んでいるよりは、なんだって良いから元気な方が良いけどさ。後できっと、もっと落ち込むことになるだろうし、ちょっとハイになって、少し笑うぐらい許されるだろ。
 ……だからって、アタシがそのネタを供給するつもりは、全くないけどな。だってよ、恥ずかしいし。

「もう。しょうがないな。じゃあ、私が説明するね」
「あ、お前! いいから喋るなって! うわっ、こら! い、いたたた……」
「あ、痛かった? えっと、この辺かな。ごめん」
「んー。ちょっと手加減してくれよ。身体中、痛いんだからよ~」

 抱きかかえられたところで、背骨や肋骨が軋んで、思わず痛いって言っちゃった。
 いや、そんなに痛くないわけじゃなくて、ホントに痛かったんだけど、余り言うと心配かけるし、なるべく黙ってるつもりだったというか。だから、思わずって。
 慌てたフェイトが撫ぜてくれるけど、はっきりいって、それも充分痛い。あと、突き刺さる視線も痛かった。その視線の主は……うちの旦那様だ。
 陸士たちに囲まれながら、体操座りしているなのはは、ジトーっとした目で、こっちを見てる。口もへの字だ。なんか、目を合わせるとダメな気がしたので、ちらっと横目で見ただけだけど。
 なんだよ。理由言わないっていったの、そんなに拗ねてるのか?

「あのね、ほら。これだよ、なのは」

 アタシを抱いたままのフェイトは、アタシの左手を取ると、その薬指に納まったものを指差した。そう、結婚指輪だ。
 なのはも、自分の右手の薬指――そういや、左利きのなのはは、どうなんだろう――に、そっと目を落とした。目を細め、いとおしげに見つめているのが、横目で見ても、分かる。
 他の連中の頭には、見事にクエスチョンマークが浮かんでいる。そりゃそうだろう。指輪がなんで、人探しになるんだって。アタシだって、聞いたときはビックリしたさ。
 でも、なのはは、フェイトの一言で、充分に理解したらしかった。
 も、もう、アタシが説明しなくても……良いよな?

「詳しいことは、ヴィータに聞いて?」
「うん、分かった。ありがとう、フェイトちゃん」

 なのはの声が踊ってる。そして、その声は明らかにアタシに向けられていた。
 こりゃあ、帰ったら根掘り葉掘り聞かれるんだろうなあ……
 考えるだけで、気が重くなるっていうか、あんま帰りたくなくなってくる。もうよ、あんな素直にというか、考えなしに正直に言えそうにないからさ。

「どうしたの、ヴィータ。顔が赤いよ? 若しかして、熱でも出てきちゃった?」
「ち、ちげーったら。大丈夫だって。お、お凸触んな。ほれ、なのはが見てるぞ」
「変なヴィータ」
「ヴィータちゃん。こっち来て!」
「嫌だ。喋ってないで、大人しくしてろ。怪我人なんだからよ」

 なのはは、抱きついてきてー! とばかりに手を広げたまま、むすーっと膨れている。
 周りに腰を下ろしている陸士たちは、苦笑いだったり、笑いを堪えていたり、唖然としてたり色々だ。たったこれだけのやり取りで、面々の抱いていた教導官のイメージが崩れたんだろう。
 そりゃあ、仕事のなのはだけ見てりゃ、意外だったかもな。真面目で生徒受けが良いらしいし。
 でもよ。こういうのが本当のなのはなんだってさ。貴重なんだぞ。

「……はあ。あんま休憩出来ねえや。こんなことなら、歩いてりゃ良かったよ」
「まあまあ。そう言わない――あっ、来た! ヴィータ、分かる?」
「……ん? ああ、分かるぞ。こりゃ、やっぱりAMFの効果が薄くなってるな。どうだ?」
「うん。私も分かるよ」

 フェイトの指差す方向。アタシの視界は低いせいで、見えやしないけど、アイゼンには分かったようで、内緒で教えてくれたから、さり気無く話をあわせる。
 障害物の多いところだと、どうにも不便でいけない。その度に浮かぶわけにもいかないしさ。
 それでも、暫くすれば、航行隊の防護服をきた編隊が、背の高い草むらの隙間に顔を覗かせ、手を振るフェイトに応え、合図を出してから、次々と降りてくる。
 十二人。結構気前よく回してくれたみたいだ。

「じゃあ、ヴィータ。私は話をしてくるから、なのはと一緒にいて」
「い、今なのはは一人じゃねーし」

 もごもごと口ごもっているうちに、フェイトは合流してきた武装隊のところへ行ってしまった。
 仕方なく振り返ると、なのはは、少し照れくさそうにしている。何だかんだ言いながら、いざ、教え子の前でとなると、躊躇するんだろうか? やだよ、行かないからな。
 いや、それとも、自分が周りを囲まれてるの、恥ずかしがってるのか? 今更。まあ、気持ちは分からないでもないけど、素直に受け取っておけ。自分達を命がけで守ってくれた人への、せめてもの気持ちの現われなんだから。
 もっと、堂々としてりゃ良いんだよ。
 あ、アタシが見てるって気付いたらしい。手を振ってる。
 アタシは、小さく手を振り返した。
 ん。今度は手招きし始めたぞ。
 今度は、無視した。

「ヴィータちゃん。こっちおいでよ」
「いいよ、アタシはこの辺で」
「照れなくても良いのに。みんなには私たちは夫婦だって、教えれば大丈夫でしょ?」
「な、なにが大丈夫なんだよ!」
「結婚してない二人が、イチャイチャしてたら問題でしょ? でも、夫婦なら普通だもん」
「結婚してなくたって、恋人同士だってするだろうが。それに、まだ任務中だっての忘れるなよ。仕事中にするの、普通かよ」
「ふうん」

 意味ありげに笑う。
 どういう意図か知らないけど、聞く気もない。別に知りたくもないし、どうせ下らないことだ。
 ニヤニヤしてる、なのはの周りに座ってる連中のうち、数人が笑いを堪えているのが見える。い、今ので何か分かったのか。
 くそう。
 この身体が動きゃ、一人ずつゴチンしてやるのに。
 休みたいのが本音だったけど、なのはの隣にいくのは照れるし、かと言って、どっか行くわけにもいかないし。
 ああだこうだ迷っている内に、フェイトが戻ってきた。

「ヴィータ、やっぱり私も一緒に行くよ」
「駄目だって。コイツらの仲間、いつまでも、ああしておく訳にもいかないし。そうだろ」
「う、うん……」
「大丈夫だって、心配すんな。ああ、そうだ、捕物の方は、どうなってんだ?」

 心配からか、眉を八の字にしているフェイト。
 
「……えっとね。主要メンバーは逮捕し終わって、組織の地下基地もなんとか押さえたって。だから、そろそろAMFも全域で効果がなくなるみたい」
「そっか。でも、気をつけろよ。お前が、どうこうなるとは思ってないけどさ」
「大丈夫。武装隊の人が八人も同行してくれるんだもん」

 可愛らしく、小さなガッツポーズを作るフェイト。
 管理局に入って十年を経とうとしているし、もう、そんな子供っぽいことをする歳でもないんだけど、様になるんだから不思議だ。あ、可愛らしさなら、はやてだって負けないからな。
 ああ。人の好みは星の数ほどあるけれど、こんな風にして「頼りにしてます」とか言われたら、まず頑張る。すげー頑張る。必死に頑張る。シグナムじゃなくても。
 これなら、大丈夫、かな

「気をつけてな、フェイト。あと、シグナムのことも、頼む」
「うん。待ちくたびれてるかもしれないね。若しかしたら、私たちより先に、別の部隊が着いちゃってるかも」
「どっちでも良いさ、助かるなら。でも、シグナムとしては、フェイトに来て欲しいだろうけどさ」
「そ、そうなのかな。うん、努力するね」
「じゃあな、フェイト。また後で」
「うん、行ってきます。ヴィータこそ、無茶しないでね」

 フェイトは、ニッコリ笑うと、直ぐに表情を引き締め、応援部隊の内から四人を引き連れて、来た道を戻っていった。
 全員で、その背中を見送る。
 ちゃんと帰ってこいよ、フェイト。
 陸士の奴らも、出来れば自分たちで仲間を連れて帰ってやりたかったかもしれないけど、今は無事に帰ってきてくれるよう祈るしかない。悔しさや不甲斐なく思っている様が、顔を見なくても伝わってくる。
 その気持ち、忘れるなよ。

「では、行きましょう。もう少し行ったところで、待機させてあります」
「そっから転送すんのか? まだ、随分ジャングルの中だけどよ」
「軌道上から艦を下ろして来ましたので。それは本部として、ジャングルの外に待機してあります」
「そっか。よし、行くぞ。なのはのこと、頼む」

 アタシの声に、ビシッと整列する。
 うーん。こういうの、なんか慣れないんだよな。教官として訓練に行ってるときの生徒たちは、こんな感じなんだけどさ。
 応援に来てくれた連中が、次々と怪我人に肩を貸している。もちろん、その中にはなのはもいる。なのはは、まだ済まなそうな顔をしていた。ホント、人に頼るってのを上手く出来ないヤツだ。
 でも、アタシとフェイトには、人に疑われるほど甘えてくれてるらしいので、余り口酸っぱく言わないことにしよう。
 アタシ達の特権だからな。わざわざ、他人に譲ってやる必要もない。
 海の武装隊が二人ずつ、前後について、一列になって出発。
 暗くなりつつあるジャングルを、草を掻き分け歩く。普通は、夜になったら動かないんだけど、その辺は魔法と外部のサポートで上手くやれるので、大丈夫。このまま、一晩は越せないからな。
 しかし、暑い。蒸し蒸しする。
 落ち着いてきたせいか、さっきまでさっぱり気にならなかったことが、気になり始めた。こんなじゃ、普通にしてても体力を奪われちまう。動きゃ、余計にそうなんだけど……ジッとしてると危険ってのもあるしなあ。
 全く。
 どうせなら、艦をここまで持ってきてくれりゃ、良いのによ。上空から、一気に回収とか出来なかったんかな。
 どうせ、ここは無人世界なんだし、規約違反にはならなそうなのに。

「見えてきました。あそこです、三等空尉」
「ちょっと待ってくれよ……ああ、確認した。結構奥まで来てくれてたんだな」
「犯人確保と、地下施設の制圧が最優先でしたので、動かせる艦はそちらに。本当はこちらにも回したかったのですが……」
「……そっか。悪かった」
「? い、いえ」

 この中で、一番偉いんだろう。まだ若いその隊員の顔に、クエスチョンマークが浮かんでる。
 アタシが勝手に文句言って、勝手に謝ったことだから、気にしないでくれ。そうだよな。そっちにも事情があるし、気が利かないとか、そういう話じゃないもんな。
 この星に降りて、ジャングルを見渡した岩場から見える、少し開けたところ。アタシたちがジャングル半ばで下りたところより、少し奥に入った場所だ。そこに、数人の隊員が待機していた。
 あそこで転送用の、場所を固めているんだろう。
 よし、あそこまで行けば安全だ。本局では、先生たちが待機してるだろうし、なのはを本格的に治療してもらわないと。
 後遺症なんざ、残ってもらったら困る。

「よし、着いたぞ!」

 既に姿は見えていたわけだけど、アタシの声を合図に、陸士たちから安堵の声が漏れる。
 隊列を解除してやると、遅い足取りながらも、陸士たちは用意された場所へ向かい、バタバタと倒れこんだ。起き上がる気配がないほど、ぐったりしている。今まで張り詰めてたからな。
 よく頑張った。お疲れさんだ。
 後は、海の連中がやってくれるよ。

「転送の準備が整い次第、順次、艦へ転送します」
「一気に出来ないのか?」
「万全を期したいので、精度の高い方法を取ります。ですから」
「いや、悪かった。確かにそうだよな」

 説明してくれた隊員は、ホッとした表情を作る。
 そんなに怖かったろうか、アタシのことが。確かに、ちょっとピリピリしてたかもしれないけどさ。勘弁してくれ。
 さて、全員で一気に転送できないんだとするなら、早く順番を決めないと。取りあえず、なのはを送るとして、あとは怪我の重い順ってことになるな。
 見た目の傷は、概ね塞がっているから、慎重に問診しないと。見えないところとか、精神的なものとか。
 そんなことを考えている間に、海の連中が既に手順よく進めていた。

「高町一等空尉、以下四名を先ず送ります」

 順番が決まったみたいだが、それになのはが異を唱えた。

「私は構いませんから、この人を一緒に」
「いえ、私は構いません」
「今、この隊を預かっているのは私なんだから、最後で良いの」
「し、しかし……」

 何故かなのはは焦っているように見えた。
 アタシとしては、なのはには一番に戻って欲しいし、なのはとしても立場があるだろうけど、今はそんなことを気にしてられなかった。ここは例え嫌がろうとも、縛り付けてでも帰ってもらう。
 こう、意固地になってしまうと、他の連中じゃ説得できないだろう。
 仕方ない。
 ここは嫁の出番だ。

「なのは、我侭言うな。どう見たってお前が一番重症なんだぞ。大人しくいうこと聞け」
「で、でも……」
「デモもストもねーよ。お前が言うこと聞かねーと、ほれ。みんなが困ってるだろうが」
「……う、うん。分かった」

 状況が分からないでもないだろうに、一度、辺りを見渡してから、やっと首を縦に振った。
 単に、いつもの、他人の心配ばかりしてるって感じでもないが……
 一体どうしたんだよ、なのは?

「……だって」
「だってじゃねーだろ。なのは」
「……だって――ヴィータちゃんと一緒が良かったから」

 俯いて、目の前にいるアタシにしか聞き取れないぐらいの、小さな声で呟いた。

「――ば、ばばば、バカじゃねえのか!?」
「そんな、バカって言わなくてもいいのに……」
「じょ、状況考えろ! 我侭いってる場合じゃねえだろ!」
「……ごめんなさい」
「ったく。そんなに一緒がいいなら……家に帰ってから、好きなだけ居てやるよ」
「――え?」
「おい、準備はもう良いのかー?」

 呆気にとられる周囲を他所に、担当者に声をかける。
 我に返り、慌てて確認すると、もう準備は整っているとのことだった。
 よし、これで大丈夫だ。

「呼ばれた方、こちらへ固まってください。座標を指定しやすくする為に」

 隊員の声に、なのはと、呼ばれた四人が指示された場所へ集まる。
 後ろ髪引かれるというか、何度も後ろを振り返るなのは。そんな心配そうな顔されると、困るだろ、こっちだって。
 仕方ない。
 転送が始まるまで、近くに居てやるか。
 アイゼンを杖代わりに立ち上がり、なのはの後を追った。

「ヴィータちゃん」
「これ以上近づくと、駄目だかんな。固定したシールがずれるらしい」
「うん。あのね、ヴィータちゃん」
「なんだよ、なのは」

 辺りを包む空気が変わる中、なのはが、なにか言いたそうに、口をモゴモゴしている。そろそろ転送されるんだから、早く言ったら良いのに。今更、言いづらい事があるような仲でもないだろ。
 それに、今言えなくても、また直ぐに会えるんだから、そんなに焦らなくても良いんだし、このタイミングにこだわる必要もないよな。
 そうこうしている間に、座標の固定が済む。転送が始まるはずだ。
 もうここまでくれば大丈夫。
 後は、艦から本局に移してもらって、ゆっくり治療したらいい。
 怖~いシャマル先生が、待ってるかもしれねーけどな。……まあ、アタシもだけど。

「あのね。あのね、ヴィータちゃん。私、ヴィータちゃんに――」

 やっと、なのはが言いかけた言葉を、武装隊員の声が遮った。

「か、囲まれています!」
「んだとっ! どこ――!」

 振り返る。どこだと言われたわけでもないのに、"そこ"だと思った。
 空を覆うように枝を広げる、ビルのような大木と、アタシの背の倍ほどありそうな草むらの向こう、薄暗いジャングルの中。そこに――"ヤツ"がいた。
 赤い目が、暗いジャングルの中で、それ自身が光を放っているかのように、存在感を示している。ずっしりと並んだ歯と、鋭い牙、アタシと同じぐらいの大きさのある爪も光らせ――今まさに、飛び掛らんばかりに。

「守りを固めろ! 最低、二人組みなれ! こいつ等は二匹一組で動く! 絶対に一人になるなよ!」

 反射的に、それだけ叫んだ。
 本当は三人一組が良かったんだろうけど、それじゃ手数が足りなくなる。
 今、最低限しなきゃいけないこと。
 動けない連中を、守らなきゃいけない。なんのために、ここまで連れてきたと思ってるんだ!

「アイゼン! カートリッジ、ロード!」

 アタシを視線で射殺さんばかりに睨みつけながら、角野郎は距離を詰めていた。
 なぜ、気付かなかった!?
 どうして、分からなかった!?
 AMFの影響は薄まっている。ジャングルの息遣いは納まっている。それなのに、あんなのが! 気付かないはずがないんだ!
 角野郎の牙と爪は、容赦なくアタシとの距離を詰めてくる。自問自答をしている場合じゃない。
 迎え撃つ。愛機を握る手に、何とか力を込める。
 一撃で、仕留めないと――!

「ぐっ、はっ!?」

 カートリッジで魔力を満たし、アイゼンがギガントフォルムに姿を変える。
 しかし、やっぱりフルドライブに身体がついてこない。胸の奥に、杭でも刺されたような痛みが走る。
 ガクンと、身体が揺れ、視界がブレる。
 全身の痛みに、意識が持っていかれそうになった、そのとき、

「ヴィータちゃん!」
「なのは! お前はそこにいろ! 出てくんなっ!」

 なのはの腕が、アタシを求めるように伸びたのが分かる。飛び出さんばかりのなのはを、ヤツを睨みつけたまま、制止する。
 不味い。
 タイミング的に、ギリギリだ。くそっ、身体がおっつかねえ!
 ブースターが火を吹き、自身の勢いだけでアイゼンは突撃するが、加速しきる前に、角野郎の両前足に、ガッチリと押さえ込まれてしまった。これじゃ、充分なダメージを与えられないどころか、距離も取れない。
 コイツ、仲間がやられたの、どうやって知ったんだよ!
 こうなったら、もう一発、使うしかない!

「どおおおりゃあああああっ!」

 地面に叩きつけられる前に、カートリッジの魔力を爆発させ、更にその身を加速させる。
 愛機を掴む腕が、持っていかれそうな衝撃が伝わってくる。ギガントフォルムと、角野郎の巨体を振り回す勢いに、全身が限界を超えて軋む。
 しかし、手を緩めない。
 そのまま、一気に押し込む。
 前足を押しのけ、顔面にめり込み、角野郎を、見事にジャングルの奥へ叩き返してやった――アイゼンと一緒に。

「はっ、はっ! くっそ!」

 衝撃で肘がおかしくなったのが分かる。加速をつけたアイゼンを、握っていられなかった。
 堪えるために踏ん張った足腰が、完全に笑っている。離してなかったら、自分もアイツのお供だったろう。
 取りに行ってる暇はねえ。
 "もう一匹"が、既に迫っているはずなんだ!

「ヴィータちゃん、右っ!」
「わーってる!」

 なのはの声が、アタシの意識を引っ張ってくれる。
 動け、アタシの身体!

「だあああっ、りゃああぁ!」

 真正面から迎え撃ち、飛び掛ってきたところを、懐にもぐりこんで殴りつける。完璧に、入った。

「う、ぐ! くっそ!」

 けど、反動も半端じゃない。改めて、相手の身体の硬さを思い知らされた。腕が痺れる。
 殴り飛ばして、どうなっているかを確認する暇すらない。もう、次のが来ている。二匹目は、一匹目を見たのか知らないが、しっかりと地面の上を、駆けてきやがる。
 腕がこの調子じゃ、殴り飛ばせやしない。こっちは自信がないけど、やるしかねえ!
 幸い、狙いはアタシだ。ギリギリまで引きつけて、地面を蹴った。

「だあああっ! てぇい!」

 鼻っ柱を蹴りつける。でも、足も腰も、思ったように動かない。全身を軋ませながら蹴りだした足は、相手の間合いに比べて、断然短かった。爪を受けなかったのが、不思議なくらいだった。
 威力足りない。勢いを殺すことが出来ず、倒れ込んできたのに巻き込まれて、押しつぶされながら、数メートル引き摺られてしまった。反応が遅れ、相手は、アタシを踏みつけて立ち上がった。
 駄目だ、そっちには、なのはがいるんだ!

「てんめぇ! 待ちやがれ!」

 尻尾だけでもと、腕を伸ばし、なんとかその先っぽを掴むけれど、相手の大きな腕と爪が、けたたましい唸り声と共に、大きく振り下ろされてしまった。転送待ちの陸士たちの、悲鳴にも似た声が上がる。
 獣の巨体で、アタシからは様子が窺えない。
 なのはは、なのははどうなってるんだ!
 必死に身体を起こすアタシの元へ、なのはの必死な声が届いた。

「ヴィータちゃん、大丈夫! 転送フィールドが揺れただけだから!」

 でも、次はない。尻尾を思い切り掴み、引っこ抜かんばかりに引っ張った。獣の、苦悶の鳴き声が響き渡る。
 ざまあみろ。尻尾は引っ張られると、ザフィーラだって泣き言を言うんだぞ。お前なんかが耐えられる訳ねえだろ!
 大事な尻尾を引っ張られたことで、敵意がこっちに向く。
 馬鹿だな。後ろ向きなんて、直ぐに反応できないだろ。
 掴んだままの尻尾を振り回し、なのはから引き離したところで、背負い投げをするように、思い切り投げ飛ばし、頭から叩き落してやった。
 反動で、跳ね上がる巨体。衝撃で手を離してしまった獣は、もう一度地面に叩きつけられ、見事にのびてくれた。大きな、憎らしい口が、だらしなく開き、分厚い舌が、だらりんと垂れ下がっていた。
 もう、右腕は動きそうになかった。

「よ、よし……! 次だ、次!」

 他所では、他の隊員たちが、悪戦苦闘をしている。だけど、助けにいけない。なのはを守らなきゃいけねえ。

「お願いヴィータちゃん、下がって!」
「駄目だ! ここを退いたら、お前ら丸見えだろ! 死にたいのか!」

 なのはの声は、悲鳴の一歩手前まで来ている。
 正直、アタシだって下がれるもんなら下がりたい。それに、今のやり取りでも、よく身体が動いた方だと、自分で思うぐらいだ。ホントのこと言うと、下がろうにも、ここから動けそうになかった。

「おい! 転送まだなのかよ!」
「い、今のでブレが生じて! もう少し、もう少し待ってください!」

 担当者の悲鳴が聞こえる。
 こりゃ、一度止めた方が良いかもしれない。どうしたって、無防備になる。でも、止めたところで、誰が守るんだ? なのはたちは、自分の身すら守れない状態なんだ。それなら、出来る限り早く脱出させた方が――

「ヴィータちゃん、左っ!」
「うっせー! 黙ってろ!」

 なのはの声を、聞いてられなくて、つい、思ってもないことを言ってしまった。
 いかにも、分かっているような口ぶりだけど、ホントは、全く気づいてなかった。なんとか左目が捉えたのは、そいつの爪が、牙が、アタシの首を目掛けて一直線。ただ、それだけだった。

「ぐ、ふっ!?」
「ヴィ、ヴィータちゃんっ!?」

 がっちり首に、頭に、その牙が食い込む。
 けれど、持っていかせはしない。
 咄嗟に挟んだ左腕で、致命傷だけは避けることが出来た。
 大きな、アタシの顔ぐらいありそうな腕に生えた爪が、いかれた右腕と、背中に突きたてられ、全身の体重を乗せてずぶずぶと皮膚を突き破りながら、押しつぶそうとしてきている。
 思わず声を上げそうになるけど、真っ赤な口に銜えられ、ミシミシと嫌な音が直接鼓膜を震わせる。少しでも気を許すと、一気に持っていかれそうだ。

「ぐ、ぐぐぐぐ……!」
「ヴィータちゃん、ヴィータちゃん!」

 なのはの、泣きそうな、いや泣いている声が聞こえる。
 徐々に、顎の力に負けて、つっかえ棒にした左手ごと、頭を噛み砕かれようとしている。
 バカヤロウ。
 お前なんかの餌に、なるわけにはいかねえんだよ。
 アタシの後ろには、なのはがいるんだからな! このまま倒れるかってんだ!

「おおおおおお、りゃああああああっ!」

 挟んだ腕ごと、頭を更に相手の口の中につっこみ、思い切り舌を噛んでやった。
 これだけのガタイをしていても、舌はそれほど頑丈じゃなかったらしく、鼓膜が破れんばかりの悲鳴を聞かせてくれた。
 緩む、顎。
 一瞬だったけど、そんだけで充分だ。
 自由になった左手で、その舌を掴み、思い切り振り回してやる。右腕に、背中に突きたてられた爪が、無理やり引き離される痛みにも構わず、思い切り振り回し、その勢いのまま力の限り、地面に叩きつけた。
 跳ね上がる身体。
 しかし今度は、相手の意識をなくすまではいかなかったみたいだ。まだ、しっかりとその目でアタシを睨んでやがる。
 上等だ。引き抜いた、涎まみれの拳を固め、全力で、魔力を直接その身体に叩き込む。硬い体毛と、皮膚。筋肉と骨が、拳の向こう側で潰れていく様が、生々しく、伝わる。
 地面が抉れ、土煙が上がる。
 思った以上に威力があったけれど、その分、反動も大きかった。
 思わず、膝を着いてしまう。

「だ、誰か! 誰かヴィータちゃんを!」
「バカヤロウ! 余計なこと言うんじゃねえ! お前ら! 持ち場を離れるな! 絶対に崩すんじゃねーぞ!」
「だって、そんな怪我じゃ!」
「預かってる連中のことを考えるのが、お前の仕事だろうが! お前等も、そこを動くなよ!」

 左腕が痺れる。
 ――分厚い鉄板でも殴ったようなもんだ。痺れで済んだだけマシだ。
 右腕は動きそうにない。
 ――引っ掻かれた傷が、思ったよりも深い。
 左目に血が入って、開けてられない。右目も、霞む。
 頭が痛い。
 ――内側だけじゃなく、噛み付き傷による痛みも加わっている。
 アイゼンもない。
 ――あったところで、握るための腕がない。

「ヴィータちゃん! お願いだから!」
「なのはっ! そこを動く――!?」

 消え行く土煙の中から、何かが飛び出してきた。
 アイゼンの声が、聞こえた気がした。何かをアタシに教えようとしている。けど、何を言っているのか分からない。ただ、その"何か"に気付いたのは、アイゼンだけだったようだ。
 一直線に向かってくる、黒い影。
 駄目だ――!
 咄嗟に、身体がそれから逃げようとする。
 でも、動かない……いや、動けない。
 今、ここからアタシが退いたら、コイツは、なのはに向かっていく――!

「ヴィ、ヴィータちゃあああああああああんっ!?」

 胸に、今までに受けたことのないような衝撃を受ける。
 でも――捕らえた!
 傷めた右腕が、動いてくれた。思い切り、首を絞め、落とす。
 くそったれ。
 なのはのところには、絶対に行かせねーぞ!

「ヴィータちゃん、ヴィータちゃん、ヴィータちゃん!」

 なんだよ、うるせえな。
 そんなにアタシの名前を連呼するんじゃねーよ、恥ずかしい。みんなが聞いてるだろうが。それに、情けない声出すんじゃねえよ。全く、立場はそういうときに考えてくれ。
 お前が無事に転送されない限り、アタシは梃子でもここを動かねえぞ。

「ヴィータちゃんっ!」
「いけません、高町教導官! ここから出てはいけません!」
「だって、ヴィータちゃんが、ヴィータちゃんが!」
「やっと転送が始まります! 動かないで下さい!」

 なにを我侭いってんだ、なのはのヤツは。
 先に帰れって言っただろが。
 帰った後は、一緒にいてやるって、アイツ、話し聞いてなかったのか?
 全く、仕方ねーな。
 あんまり困らせるようなら、またアタシが一言言って、黙らせるしかねーな。

「―――、―――」
「ヴィータちゃん、お願い、起きて! ヴィータちゃん!」
「―――、―――、―――」
「お願い、起きて! お願いだから! だ、誰か! 誰かヴィータちゃんを、ヴィータちゃんを助けて!」

 変だな。
 アタシの言うことを聞かないなんて、よくある事だけどさ。流石にここまで、言うこと聞かないことなんてないのに。
 はあ、みんなが見てるってのに、あんな見っとも無い声出しやがって。
 教導官、失格だな。次の授業から、笑われるぞ。元々、威厳がないタイプなのによ。
 さて。これ以上、見っとも無い真似する前に――
 …………
 …………
 …………
 …………あれ、おかしいな。
 なのは、どこにいるんだ? 見当たらねーぞ。
 しかも、辺りは真っ暗だ。この辺りは明りを焚いてたはずなのに。
 音も聞こえない。
 さっきまで聞こえてた、武装隊員の声や、陸士の声、ジャングルの唸りに、獣達の咆哮も。
 身体の……感触もない。
 立ってるのか? 座ってるのか? 寝転んでるのか?
 何も……分からない。

「嫌だ、嫌だ! ヴィータちゃん、起きて! 返事して!」
「教導官、抑えてください!」
「は、放しなさい!」
「高町教導官!」

 なのはの声だけが、聞こえる。
 今の状況がどうなってるのか、さっぱり分からない中、なのはの声だけが……聞こえた。
 念話なんだろうか。
 全ての雑音を取り払ったように、鮮明に……頭の中に響く。

「ヴィータちゃん! 起きてよ! ねえ、ヴィータちゃん!」
「――、―――」
「なに? 何も聞こえないよ! ヴィータちゃん、嫌だ、死んじゃヤダっ! ヴィータちゃん!」
「―――、…………」

 なんだって? アタシが死ぬって?
 なに……言ってんだ。
 アタシが死ぬわけねーだろ。
 はやても、フェイトも、リインも……みんなみんな置いて、なんでアタシが……死ぬんだよ。
 それに、約束だってあるんだ。
 お前のこと……託されてんだ。色んな人に。
 それなのに、アタシが……死ぬって?
 相変わらず……嘘が、下手だな……なのは。

「嫌だ、嫌だ、嫌だ! ヴィータちゃん、目を開けてよ、こっちを見てよ! ヴィータちゃん!」
「…………」
「誰か、誰か助けて! ヴィータちゃんが、ヴィータちゃんが! お願い、誰か助けて! 誰か、誰か!」
「…………」

 なのはの声が近くなった。
 コイツ、言いつけ守らずに……アタシのところに来たな。
 数が減る分には……構わないだろうけど、それにしたって、なにかあったら……どーすんだ。
 自分が……死ぬような思いで、守った、生徒だろう……?

「いやだ……駄目だよ……そんなの、やだ……」
「……、――」
「ヴィータちゃん、お願いだから……起きて、私を見て……お願いだから」
「――、……」

 泣いてる。
 アタシの名前を……呼びながら。
 なんで……泣いてんだよ……なのは。
 お前の言うと……来てや……ろ? だのにさ、な……泣くことが……だよ。
 それ……、誰かお前……と、泣かせ……ヤツがい……か?
 誰だよ。
 アタシ……って、一発、ゴチン……てやるから。
 大丈夫……て。
 アタシがついて……だからさ、泣……よ、なの………………。

「…………」
「ヴィータ、ちゃん? ねえ、ヴィータちゃん、嫌だよ、変な冗談止めてよ、ねえ。起きてよ、ヴィータちゃん!」
「…………」
「い、いや……いやだ、いや……いやああああああああっ! ヴィータちゃあああああんっ!!!」


 


 


 

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