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新婚なの! 13-8 (3)

 視界が強い光に覆われ、目が慣れてくる頃には、見慣れた別の景色に変わっていた。どの艦も、余程でなければ内装は同じで、一見して区別するのは難しい。
 転送が完全に終わると、フェイトは一番に駆け出し、アタシ達もそれに続く。まず、ブリーフィングルームで、詳しい報告を受けるようだ。
 慌しく動き回る人たちに混じりながら、ブリーフィングルームに到着。照明を落とし、青白い光を放つ大きなテーブルの中央部分では、数人の制服をきた局員が頭をつき合わせて、話し合っている最中だった。
 フェイトはアタシたちを入り口で待たせ、中央部分で集まっている人たちのところへ行った。
 アタシとしては、直ぐにでもなのはの所へ行きたかったけれど、情報もないまま向かうことも出来ない。ここは待つしかなかった。
 フェイトがいなけりゃ、アタシはここまで来ることは出来なかったんだし。頼りっぱなしで、情けないことこの上なかったけど。

「落ち着け、ヴィータ。出産を待つ父親のように見えるぞ」
「う、うっせ。これでも精一杯落ち着いてんだよ。って、どういう例えだ、それ。もうちょっと他に何かなかったのか?」

 軽くバカにするような雰囲気。
 でも、今の状況だと、黙ってる分だけ余計なことを考えちゃいそうだし……この方が良いのかもしれない。シグナムも、当然アタシの性格は分かってるんだし、さ。
 まだシグナムが、訳の分からない例えをしている中、フェイトの話は、まだ掛かりそうだった。

「……なあ、シグナム」

 シグナムの軽口もなくなり、暫しの沈黙が、間に横たわる。
 この時間を無駄にすることもない。なにか話すことはないかと考えて、さっき聞きそびれたことを尋ねてみることにした。返事はないけど、意識をこちらに向けたのが分かる。

「ところでよ。お前、どうやってアタシらのこと、分かったんだ?」
「だから、愛の力だといったろう?」
「冗談言ってねーで。誰に聞いたって話だ。まさか、フェイトんところに、盗聴器でも仕掛けてるんじゃねーだろうな」
「まさか。そんな無粋な真似はせん……なんだ、その目は。仕方ない、教えてやる。お前が地上本部で、仲良くしている人がいるだろう? そちら経由の情報だ。決して私も知らぬ仲ではないからな。人の繋がりは大切にしておくべきだ」
「……ん、分かった。後で礼をいっとく」

 しかしシグナムに「止めておけ。せっかくの好意が無駄になる」と釘を刺されてしまった。
 内緒も内緒、ということなんだろう。
 それだけの事態ってことなんだろうか。
 どうにも、違和感が付き纏う。
 自分たちで解決したい。他所の力は借りたくないって考えの人は、どこにもいるけど。今回の動きを見る限り、完全に、送り出した連中を捨ててないか――?

「あのさ。後もう一つ、さっきのことだけど」
「お小言なら聞かんぞ。最近のお前は、どうにも説教じみていかん」
「そんなじゃねーよ。さっき、どうしてあそこまで無茶できたんだって、それだけだ。説教とか、そんなのは考えてねーよ」
「無茶だと? そらみろ、小言じゃないか」
「だから……」

 シグナムは、この話はする気がないと言っていた。
 でも、下手をすれば大事になっていたのは、疑うべくもない。アタシとしては、見過ごせないというか、ハッキリさせておきたい。
 どういうつもりなのか。
 無茶する原因を作ったのはアタシだし、何となく、さっきのやり方がシグナムのキャラっぽくない、というか、カッカしすぎだったように思えたから。
 こっちが引き下がる気がないと分かったのか、シグナムは仕方なさそうに息を吐いた。

「ではヴィータ、逆に聞くぞ。主がこのような事態に巻き込まれたとして、お前は静観を決め込むのか?」
「ふざけろよ、シグナム。アタシを誰だと思ってんだ」
「だろうな。では、それがシャマルなら? ザフィーラなら? リインなら……私なら、どうだ?」
「……変わるわけねーじゃん。誰だって助けに行くさ」

 何が言いたいんだ。そんな、決まりきったことを聞いて。
 そう返そうとしたとき、シグナムは小さく笑った。

「そうだ、家族だからな。ならば当然、なのはもそうなるだろう? ヴィータと結婚した今、私たちにとって彼女は家族だ。ならば、助けに行くのに何を迷うことがある」
「……シグナム」
「やり方に問題があったというなら、まあ、それは……こういうときこそ、コネを使うべきだろう、主の」
「やっぱ考えなしでやってたんじゃねーか。アタシはな、そういうことを言いたかったんだ」
「素直じゃないな、相変わらず」
「どういう意味だよ。ったく、危ねーヤツだ」
「そういうな。あのままでも、管理局を首になるか、刑務所行きというぐらいだ。なのは一人の命と引き換えなら、安いものじゃないか?」

 ハッと見上げた先には、不敵な笑みを浮かべるシグナムがいた。
 気後れとか、怖気づくとか、そんなもの何もない。本当に、それを当然だと言い切ってしまっていた。
 無茶だし、考えなしに等しいし、結果オーライなんてのは駄目だ。
 でも。
 それが、少し羨ましかったし、悔しくも感じた。

「そういう、汚い大人みたいなの。いつの間にそうなっちまったんだよ、シグナム。融通の利かない真面目さが取り柄だったじゃねーか」
「さあ、知らんな。仮にお前の言う通りだとしてだ。私としては、緩急の付け方を学んだだけだ。それを汚いだの言われると、困ってしまうな。それを言うなら、主も同じだぞ?」
「はやてはちげーもん。そんなのお前だけだ、バーカ」
「ふふふ、そう思っていればいい。主はとても逞しいぞ?」

 なんだよ、シグナムのヤツ。
 自分だけが知ってるとでも言いたいのか。バカ、バーカ。
 もうお前となんて口きいてやんないとばかりに、ツンと顎を逸らすことにした。
 まだシグナムが笑っているのが分かる。アタシの態度を楽しんでるかのような気配が、離れようとしない。
 一瞬でも、感謝したアタシがバカだった。
 ふん。べー、だ。

「お待たせ、二人とも。どうしたの? なにか楽しい事でもあった?」
「なんもねーよ。ほら、さっさと行くぞ」
「うん、良かった。余り気負っていても心配だったし。ね、シグナム」
「お前に言われると、ヴィータとしても心外だろう?」

 確かに、頭に血が昇っちまう状況ってのは避けたいし、今の自分にそれをコントロールする冷静さが欠けてるってのも分かってるつもりだ。でもさ、やり方ってもんがあるだろ。
 そら見ろ、フェイトだって意外そうな顔してるじゃないか。二人してお前のことなんか無視してやるんだからな。ありがとうなんて、言ってやんないんだからな。


  ◆


 目的の世界に降り立つ。以前に来たときとは、随分と離れた場所だった。
 文句を言いながら駆け巡ったジャングルの、幾らかを見渡せる高台が、今アタシ達のいるところだ。こうしてみると、やたらに広いことが分かる。見渡す限り、生い茂った木々がどこまでも広がっていた。
 ジャングルのざわめきが、こんなに遠くまで伝わってくる。あの中のどこかに、なのはがいるんだ。
 アタシとシグナムが立つ岩場の合間に、いくらかの隊員たちが控えていて、連絡やらを担当している。現場の準備は整っていたらしいけど、それを使う隊員たちは、休む間もなく動き回っていて、事態の急変具合を教えてくれていた。

「ここか。随分と賑やかなところじゃないか」
「賑やかなのは相変わらずだけど、前来たときと、全然雰囲気が違う。嫌な感じだ」
「落ち着け、ヴィータ。気持ちは分かるがな」
「……分かってる」

 目の前にあるっていうのに、今すぐ飛び出していけない、この行き場のない衝動。
 フェイトにシグナム、リインに会って、なんとか抑えられてたって思ってたのに、いざ、目の前にしてしまうと、焦燥感が膨れ上がって我慢が効かなくなりそうだ。
 頭の中で、鼓動が響き渡って、口の中が粘っこくなる。

「息が上がっているぞ」
「わーってる」
「それが落ち着いておらんと言うんだ。そら!」
「んぎゅ! あにすんだよ!」
「落ち着けと言っている。テスタロッサと私がついているんだぞ? 今のどこよりも充実していると言って過言ではない。何を心配することがある」

 急に後ろから抱きかかえられる。後頭部に、なのはより大きい、柔らかくて重い膨らみが圧し掛かる。
 ホントに嫌なヤツだ。アタシがそんなので落ち着くと思ったら、大間違いだぞ。おっぱい魔人――

「……ん? どうした。落ち着いたか」

 余裕たっぷりな声が、頭上から降ってくるけれど、後頭部に受ける振動に、真逆の印象を受ける。
 ドキドキと、シグナムの鼓動は、頭の中で響いている自分のそれに混じっていて、すぐに気付けなかった。
 なんだ。シグナムだって、こんなに緊張してるんじゃねーか。あんな、軽口ばっかりきいてさ。
 そう思うと、後ろから抱かれていることに、腹が立つどころか、安心するぐらいだ。しかし、制服着ててこれって、凄いなと改めて思い知らされた気がする。

「べ、別に。こんなことされたって、嬉しくねーもん」
「そうか。よく、なのはがこうやって抱きついていると聞いたものでな。やはり、私では駄目か」
「そ、そうだよ。なのはは、お前みたいに大きくないからな」
「なるほど。今度、主に報告しておく」

 そんなことしなくても良いって――言い掛けたけど、シグナムは放してくんない。

「あのよ。なのはのことも心配だ、一番な。でもな、そのなのはが助けに行った連中のことが気がかりなんだ」
「……ふむ、確かにその通りだな」
「結構な人数を抱えながら、数時間もあの中にいるなんて……無茶すぎる」
「お前がそういうなら、そうなんだろう。なのはの性格なら、全員を守ろうとするだろうしな。そうなれば、厳しいか」
「そうだよ。なのはが帰ってこないのが、いい証拠だ」

 フェイトの艦で状況を整理しているうちに、浮かび上がってきたこと。
 最初は、なのはのことだけで頭がいっぱいだったけど、フェイトから話を聞くうちに、一番の問題点に気付いた。
 送られた武装局員を助けに行ったとなれば、そいつ等を守ることを優先するはず。
 そして、見つけたけどさっぱり移動できないか、まだ見つからないか。何かしらの理由であのジャングルから、抜け出せないんだ。
 移動できない理由としては、怪我人が多いか、周囲が危険すぎてその場を離れられないか。もし、安全を確保出来ているなら、一度、一人で帰ってくるなり出来るはずだから。
 見つかってないとすれば、危険だ。遅れて入ったアタシたちが、なのはより先に見つけられる可能性は低い。ミイラ取りがミイラになっちゃ、話にならない。

「一体、誰がこんなことしやがったんだ。上の連中は知ってんのか?」
「知らんだろう」
「トップの耳に入ったら、ただじゃ済まねーぞ。……トップといやあ、あのレジアス中将のこと、詳しいか?」
「ふうむ……地上本部勤務だが、それほど詳しい訳ではない」
「今回のこと、どう思う? お前からみて、中将は知っていると思うか?」
「……知らんだろう。陸の安全を守る局員達の、信頼を一手に引き受けている人物だ。このような、隊員を使い捨てにするようなこと、あり得ん。この流れ、全てに繋がりがあるとしてだ。詳しいところは、中将の耳には届いていないのかもしれん。私は、そう思うが」
「今回は特に……口にしたくもねえ。胸糞悪い」

 誰かの企みなんだとしたら、ただじゃおかねえ。

「さっき、アタシらを邪魔してたのも、そいつらの差し金なんだろうな」
「複数の部隊を動かせば、流石に耳に届くだろうが……どのような形になるのか。ただ、テスタロッサが抗議しなければ、なかったことになるだろう」
「ちぇ。何がしたいのか知らねーけどよ」
「顔は覚えておいた。後で誰かに頼むとしよう。見つかるとも思えんが、一応な」

 どういうことだ? そう、聞こうとしたとき、丁度フェイトが上がってきた。

「二人とも、ごめん。これ、着ておいて、気休めだけど。前のときより増えてるから」
「了解だ」
「この程度なら、邪魔にならんか」

 フェイトは、例のマントを渡してくれる。今度のは白色だ。まさか、海のを着ることになるなんて、あのときには夢にも思わなかった。しかも、またここで。
 フェイトから改めて説明を受ける。
 上で一度聞いてるんだけど、急なことで、なにか状況が変わったのかもしれない。それだけ、事態は複雑ってことなんだろう。

「もう一度確認するね。なのはの魔力が最後に確認されたのが、ここ。その後、一気に濃度が高くなって、外から覗けなくなってる」
「やっぱ深いな。このジャングル、こんなにでかかったのか」
「スケールが分からなくなるな。それで、他の武装局員はどうしている?」
「海のほうでは、追っていた人間の確保で手いっぱい。AMF下では、思ったように動けないみたいだし、増援を頼もうにも、この状況じゃ判断しかねるというか」
「仕方ねーか、これじゃ。訓練受けたことあるヤツなんて、数が知れてるしな」
「しかしだ、テスタロッサ。AMFといっても、この濃度なら完全に阻害は出来んだろう? それでも、分からんか」
「うん。こっちが感知できるぐらいの出力になると、相当だから……なのはは、持久戦になると思って、最小限に絞ってるんだと思う」
「ふむ。いかんな……私たちでなんとかするか。なあ、ヴィータ」
「悪いけど、初めっから頼る気なんかねーよ。なのはは、アタシが助ける」

 状況を整理していると、あの日の事が、脳裏を過ぎる。
 なのはの青白い顔と、自分の不甲斐なさに、頭の中がぐちゃぐちゃになって、爆発しそうになる。
 ジッとしていると、その感情に飲み込まれそうで、怖い。
 頼むぞ、アタシ。焦ることはあっても、動けないなんて、勘弁してくれよ。
 なにがなんでも、なのはを助けなくちゃならないんだからな!

「それじゃあ、行くぞ」
「うん。ヴィータが頼りだから。回りのことは私たちに任せて」
「今はなのはのことだけを考えていろ。良いな」
「分かってる、今更んなこと言われなくても」

 空は、どんよりと曇っていて重苦しいし、吹き付ける風は、ねっとりと絡みつくような不快感がある。
 これでジャングルに入ったら、それだけで相当の体力を奪われそうだ。
 でも、今はそんなこと言ってる場合じゃない。なのははもっと前から、生徒達を抱えて、この中で、アタシのことを待っていてくれるはずなんだ。
 弱音なんて、吐いてる場合じゃない!

「いくぞ、アイゼン!」
「遅れるなよ、レヴァンティン」
「頼りにしてるね、バルディッシュ」

 愛機を起動させ、はやてに貰った騎士甲冑に身を包む。
 久しぶりだ、この感触。
 やっぱり、この格好がしっくりくる。
 それに、旦那のなのはを助けに行くんだ。任務としていく訳じゃない。
 アタシの、フェイトの、なのはの。あの日の決着を一つ、つけに行くんだ。
 だから、家族として、アタシとして行くなら、この格好しかあり得ない。
 フェイトも、シグナムも見慣れた格好をしている。
 今行くからな、待っててくれよ、なのは!


 


 


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