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新婚なの! それから 2-2

 外れた通路を歩いていった先は、シグナムたちの宿泊先だった。
 武装隊が使うような仮眠室じゃなくて、ゲストを招いたときに使うような部屋だ。きっと、はやてが取っているんだろうと思う。
 最初からこっちに用があると言ってたけれど、誰か待っているんだろうか。

「帰ったぞ」

 音もなく開く自動扉。
 部屋の真ん中に備え付けられたテーブル。それの両側を挟むように置かれた、四人掛けのソファー。
 見慣れた部屋だけに、誰か座っていそうな場所に誰もいないことに違和感を覚えた。
 シグナムは誰に声をかけたんだろう。いや、いなくても不自然じゃないか……
 そう思ったところで、大きな横長のテーブルの、入り口から反対側。一番端に見慣れた箱が置いてあることに気付いた。

「なんだ。まだ拗ねているのか、リイン」
「……おかえりです」

 部屋に入ってきた私たちを迎えてくれたのは、箱の蓋を少しだけ開けた隙間から覗く、蒼い瞳だった。

「こんにちは、リイン。久しぶりだね」
「……こんにちはです、フェイトさん」

 隙間から顔を覗かせ、義理程度に挨拶を交わすと、リインは再び箱の中にこもってしまった。

「ご覧の有様だ」
「……と、いうと?」
「一つ、リインの力になってやってはくれないか。私はこういうのが、いささか不得手でな……すまん」
「いいえ。分かっていますから、シグナムがそういう性格だってこと」
「……言うじゃないか」
「でも、不器用なだけですよね――私と一緒で。私も、よく人から言われるから」

 言い終わるや否や、頬っぺたをぎゅーっと抓られてしまう。
 イタイ、イタイ。
 シグナムは機嫌が悪くなってしまったように、ぷいっと横を向いてしまった。
 少しだけ冗談のつもりだったけど……ちょっぴり寂しかった。

「わはりまひた。リインのこひょは、まはへて」
「頼んだ。私は、これから主を迎えに行かねばならんのでな。また、しばらくここを空けることになる」
「ひたた……」
「こういうとき、一人暇を持つとどうも不安でな。助かった」
「い、いいえ」

 暇だと言っていたシグナムは、本当は暇じゃなかったみたい。今のも、私に気を使わせないための嘘だと思う。
 理由は分からないけど、リインを一人にしておくのも心配だったんだろう。
 シグナムは、やっぱり優しい。
 それなのに、私がそれを言うことを分かったのか、逃げるようにこの部屋を後にした。
 恥かしがり屋さんだ。

「リイン。どうしちゃったの? 私でよければ……話を聞かせて」

 ソファーに浅く腰掛け、箱の中――リインハウスというらしい――のリインに話しかける。
 でも、というかやはりというか、箱の中から返事はない。
 沈黙が横たわる。
 無音の部屋に、この空気は重すぎる。
 こういうとき、強引に迫るべきなのか黙って相手に任せるべきなのか。
 こういう場面は何度遭っても慣れない。

「シグナムに留守番を頼まれているから、気にしないで。嫌なら、そのままでいいから」

 それだけ伝えて、ソファーにゆったりと身体を預ける。
 やはり、ここのソファーは心地良い。柔らかすぎず、堅すぎず。私の身体をしっかり受け止めてくれる。
 じっくりと腰を落ち着けるには、いい場所だと思う。
 今日の予定は終わってしまったし、休憩がてらゆっくりリインを待つことにしよう。

「――ね、寝ちゃってたかも」

 一瞬、身体が沈み込むような錯覚。
 慌てて時計を確認すると、二十分ほど針が進んでいた。
 今日までのことと、明日からのことを考えていたのに……いつの間にか寝てしまっていたみたい。
 眠気覚ましの欠伸をする前に、慌ててテーブルの上の箱を確認した。
 当初の目的を放って居眠りだなんて、リインに悪いことしちゃった。
 私が寝ている間に、出てきてくれたかもしれないのに。
 でも、私の心配は杞憂に終わったようだった。

「……あっ。フェイトさん、です」
「う、うん! リイン、私だよ」
「シグナムは……どうしたですか?」
「えっと、はやてを迎えに行ったよ。まだ、向こうで会議があるから」

 箱の蓋がそっと開き、その僅かな隙間から覗くリインの瞳は、不安の色を宿していた。

「そうですか……フェイトさんは、どうしてここにいるですか?」
「私? え、だって……さっきの、その、なんて言うか」
「ごめんなさい。このリインハウスは防音処理が施されてて、普段は念話を使ってるです」
「……ああ、なるほど」

 思わず脱力してしまう。
 リインに拒絶されたのかと思ってしまった。
 どうやら、リインは悩んでいたりしたわけじゃなく、単に私の声が聞こえてなかったみたいだ。
 もう、シグナムったら!教えてくれないから、恥ずかしかったじゃない!
 かあっと顔が熱くなるので、パタパタと手で煽っていると、リインはもう少しだけ蓋を持ち上げてくれた。

「それで……どうしたですか、フェイトさん」
「あのね、リインがなんだか元気がないから、様子を見に来たんだ。ちょうど、一区切りついたところだし」
「……良いんです。リインのことは、放って置いてください」
「私は、お節介なんだ」
「良いんです」

 きっぱりと、短く言い切られてしまう。
 でも、微かに震えるその語尾から、助けを求めていることが分かった。少なくとも本心ではない。
 本当にどうでも良いと思っているなら、無視して天岩戸に篭ってしまえばいいのだから。
 ここでリインの関心をひくために、私は一つ、乱暴な手を打つことにした。

「もう、ヴィータのお見舞いには行った?」

 僅かな隙間ながら、その表情が強張るのが分かる。
 なにが原因でこうなっているのか、予想通りだった。どれだけ大きなショックを受けているのかも分かった。
 でも、蓋を閉めてしまわないところに希望が見出せる。
 リインは、誰かに話を聞いて欲しいのかもしれない。

「確か、はやてについていたんだっけ。だったら、まだだったよね。ごめん」
「良いです、気にしなくても」
「そういう訳にはいかないよ」
「良いんです! ……だって、だって。リインには、ヴィータちゃんのところへ……行く資格がないんです」

 深刻なことを口にするリイン。
 なのはと、同じようなことを口にするリイン。この子に一体なにがあったと言うのだろうか。
 記憶を辿ってみる。
 一番最後に見たのは――なのはのところへ向かう前、本局の通路でシグナムに会った後だった。
 あそこでヴィータを置いて、私たちだけ先にトランスポーターまで向かった。
 そして、追いかけてきたのはヴィータだけ。
 リインは、置いてきたんだろう。

「最後にヴィータと会ったとき、なにがあったの?」
「……そのとき、ヴィータちゃんと約束したです」
「どんな?」

 私の言葉に、リインはグッと黙り込んでしまう。
 やはり、そこでなにか重要な約束をヴィータと交わしたらしい。
 言いあぐねるように何度も唇をかみ締めている。視線をあちらこちらへ泳がせて、全く落ち着きがなかった。
 辛抱強く待ってみた。
 暫くして、いきなり大きく息を吐いた。心を決めたみたい。横目で私の様子を窺うようにしながら、ぼそりと呟いた。

「ヴィータちゃんは……絶対に、帰ってくるって」
「うん。約束したんだ」
「それなのに、約束したのに。リインに、ジャンボパフェをご馳走してくれるって、そう言ったのに」
「うん」
「帰ってきたのに……ヴィータちゃんは、ベッドで寝たままです」

 次第に、声の震えが大きくなる。声が震えてるだけじゃない。身体全体が小さく震えていた。
 大きな瞳が、大きくゆらゆらと揺れ始めていた。
 二人の約束は分かった。でもそれが"リインに資格がない"ということへの、繋がりが見えてこなかった。

「ヴィータが、約束を守れなかったって……そういうこと?」
「それも、あるです。だけど、そんなことより……」

 一度、大きく息を吸い、そのまま、口を噤んでしまう。
 言おうか、言うまいか。悩んでいるみたいだった。
 蒼い瞳の揺れは、ますます大きくなる。
 もう、表面に湛えた涙は、決壊寸前だった。

「――どうして、リインは付いて行かなかったんだろうって。どうして、リインは、ここにいるんだろうって。そう、思うです」
「どういう約束をしたの? ヴィータと。付いて行かないって」
「それは……はやてちゃんを、守って欲しいって言われました。自分達がいない間、代わりに守ってあげて欲しいって。本当は、ついて行くつもりでした。なんだか、凄くヴィータちゃんの事が心配で。でも、ヴィータちゃんは帰ってくるって言いました。だから」
「だから、はやてのところへ戻った」
「はい。でも、ヴィータちゃんのことを聞いて。はやてちゃんは、直ぐに医療棟へ行きました。でも、リインは動けなかったんです」
「それは、ショックだったからで……」
「違うです! 違うん……です」

 とうとう、リインの瞳から、その大きさに負けないほどの涙が溢れて、頬を伝っていった。
 眉間と鼻の頭に皴を寄せて、大声で泣いてしまうのを必死に我慢している。
 顔はぐしゃぐしゃで、声こそ出さなかったものの、何度もしゃくり上げて、その度に身体が大きく揺れた。

「やっぱり……やっぱり! リインはついて行くべきでした。あそこで、リインとユニゾンしていれば……ヴィータちゃんは助かりました! 身体へのダメージも、魔力ダメージも、リインが代わって上げられたです! それが無理でも、半分ぐらいは……それぐらいは出来たはずです!」
「リイン……」
「私は、リインは、そのために生まれたはずです! それなのに、それなのに! 一番肝心なときに、役に立てなかったです……!」
「それは……そうじゃないよ」
「そんなことないです! ヴィータちゃんのために、とってもリインのこと大切にしてくれるヴィータちゃんのために……何にも出来ないなんて!」

 遂に、リインは大声を上げて泣き始めた。
 いつしか、蓋は全部開いていて、居心地の良さそうな内装が窺える、箱の中で。
 こんな小さな身体のどこから、これだけの声と涙が出るんだろう。
 そう思ってしまうほど、リインは涙を流し、声を張り上げて泣いた。
 泣いて、泣いて、泣いて。
 今まで我慢していたのだろう。家族の手前、気丈に振舞っていたのかもしれない。
 リインにとって、大きな負担だったはずだ。
 今の話を聞くに、この数日間の、そしてヴィータの知らせを聞いたときのリインのショックは計り知れない。
 好転しないヴィータの容態を聞くたびに、その負担は大きくなっていったのだろう。

「ひっく……げほ、げほっ。う、うぇ……ひっく」
「ほら、涙を吹いて。ハンカチ、大きいかもしれないけど」

 一度、ハンカチを差し出したけど、全く聞こえていなかったようで、もう一度聞いてみた。
 少し落ち着いたようで、黙って受け取ると、涙で濡れた顔や胸元を拭き始めた。
 その間も、ずっと鼻水を啜っているし、涙もまだ止まらなかったようだ。
 それでも、少しはすっきりしてくれたろうか。
 溜め込んだ、悩みのほんの一部でも。

「ちょっと、すっきりした?」
「……うぅ、ひっく。ずずず」
「はい、ちり紙」
「ちーん!」

 鼻に押し当ててあげると、リインはそのまま鼻をかんだ。
 鼻の頭が真っ赤になってる。
 泣き腫らしたその顔は、随分酷い有様になってしまった。
 若しかしたら、シグナムはこうなることを予想していたのだろうか。
 確かに、こういうことは苦手そうだけど……私に任せるのは、少し意地悪だ。

「そうだったんだね」
「……でも、ヴィータちゃんのに比べたら、大したことないです」
「人と比べることじゃないよ」
「でも……」
「その痛みは、リインだけのモノだから。同じことで苦しんでいる人がいても、それそのものは、リインだけのものだよ」
「……分からないです」
「私も、ヴィータのところに居られなかったこと後悔したけど、それをリインと比べることは出来ないから」

 今一分からない、といった顔をしている。
 やはり、こういう誤魔化しというか、言い繕うのは得意じゃない。
 私は、ソファーから降りて床に膝を着いた。
 それでも、視線はリインより高いけれど、さっきよりはぐっと近くなった。
 近くになった私を、リインはじいっと見つめている。

「あのね、リイン。もし、リインの言う通りにしていたら、ヴィータはきっと後悔したよ」
「ヴィータちゃんが?」
「そう。だって、自分を守ってくれたリインが、床に伏せってしまって……それをヴィータが喜ぶと思う?」
「……いいえ。そうじゃない、気がします」
「そうだよね。ヴィータなら、きっと、"なんてヘマをしたんだろう。どうして臥せっているのが自分じゃないんだろう"って、そう言うと思うよ」

 納得したのか、そうでないのか。
 どちらにせよ、リインは黙って俯いてしまった。
 表情は窺えない。
 でも、真っ白になるほど力を入れた拳はそのまま。
 きっと、頭では理解できたとしても、心が受け入れられないんだろう。

「確かにそうだとしても、ヴィータが大怪我をしたことには変わらない。だから、自分が許せないんだね」
「……分からないです。でも、ヴィータちゃんが怪我したの、すごく悔しいです」
「うん、そうだよね。私も同じようなこと思ったよ」
「フェイトさんも、ですか?」
「どうして、ヴィータと一緒に帰らなかったんだろうって。どうして、あそこで安心しちゃったんだろうって」
「……でも、フェイトさんには他にお仕事があったって、そう聞きました」

 俯いたままだけど、答えてくれる。

「そうだね。でもそれだったら、リインだって同じでしょ? はやてを守るって、大切な仕事があったんだから。ううん、仕事じゃないね。ヴィータとの、大切な約束が。それと、ヴィータを守ることは一度に出来ないことだったんだから」
「……でも、それでも」
「うん。じゃあ、もしリインがついていって、ヴィータの身代わりになったら?」
「……きっと、ヴィータちゃんは置いていけば良かったって、そう思ったかもしれません」
「ヴィータにね、そんな想いをさせたくないでしょ? ヴィータが……自分のことで悲しむなんて、そんなこと」

 リインは、ゆっくりと頷いてくれた。
 いくらか、強引な話だとは思ったけれど、このままにしておくことは出来ないし……

「今は、うんと後悔したら良い。でも、それだけじゃ駄目。厳しいことだけど、起きてしまったことを悔やんでばかりじゃ意味がないから」
「じゃあ……どうしたら良いです……?」
「うん。リインが、今回のことを後悔してね。じゃあ、次にどうしようかって、考えることが大切なんだ。今の失敗を次に生かさなきゃ、それこそ、本当に無駄になっちゃう。このまま後悔ばかりで、明日のことを考えられないなんて……悲しいよ」
「……難しいです。リインには無理です」
「今すぐは誰にだって無理だよ。悔やんで、落ち込むのは当然なんだから。でもそれは、立ち直るために必要だからしてることなの」

 リインは、肯定も、否定の意も示さない。

「"あのとき、こうしていれば"。こういう仕事をしていれば、誰だって一度は思う。大切な人を失えば、特にね」
「……はい」
「私たちはまだ失敗を取り戻せる。ヴィータが生きてくれてるんだもん。でも、リインがそのままだったら? そうやって箱の中に閉じこもっていたら?」
「……なにも、出来ないです。でも」
「うん。すぐにしなくたって良い。私だって、初めてのときはちっとも動けなかったから。ホントは、余り偉そうなことはいえないんだ……」

 ハッとして、リインは顔を上げた。
 相変わらず顔は酷いものだったけれど、私を見つめる瞳には、少しだけ力が戻っているように思えた。
 私の話に、ちゃんと興味を示してくれている。
 これなら大丈夫だ。

「それに、今はリインだけじゃない。はやても、なのはも、シグナムも。みんなリインと同じように、とても後悔してる。一人じゃないんだ、我慢しなくて良いんだよ」
「……でも、みんなは私みたいに、閉じこもったりしてないです」
「それは、私たちに経験があるからだよ。こういうことが起きたとき、どうすれば良いのか分かっているから。ただ、それだけ」
「そう、なんですか。そんな風には見えないです」
「みんな、無理をしているだけ。必死になって平気な振りをしているだけ。それが出来るぐらいに、経験があるってだけだから」
「…………」

 下唇を噛み締めている。
 眉がきゅうっと寄せられ、眉間に深く皺ができている。
 可愛らしい手は、スカートの裾をぎゅっと握っている。
 泣きそうだ。
 でも、それを我慢している。

「だから、リインは泣いてていいんだよ。目いっぱい後悔してて良いんだよ。でもそれは、次に繋げるためのものだから」
「……次に、ですか?」
「同じことが起きたとき、同じ失敗を繰り返さない。それが出来れば、この涙は、後悔は、決して無駄にならない」
「…………」
「無駄にしちゃいけない。リインが、ヴィータを大切に思ってるなら。大好きなら」

 ヴィータは死んだわけじゃない。ただ、ちょっと寝ているだけ。
 でも、何分リインにとっては初めてのことだろうから、少し大げさだったけれど言っておくことにした。
 リインの反応は、別に特別なものじゃない。
 だって、なのはだって同じようなもの、というかもっと酷かった。
 教えてあげても良かったけど、それを聞いたら余計に落ち込んでしまうだろうから黙っておいた。

「……本当に。本当にリインにできるでしょうか」

 私を見つめたまま、キツク結ばれていた唇が、フッと緩んだ。

「うん。そう思えたんだから大丈夫」
「……自信、ないです」
「誰だって、こういうときは不安だよ。でも、一人じゃないから。みんなが、一緒に居てくれるから」
「……そうですね。だって、今だってフェイトさんがリインの話を聞いてくれました」
「私でよければ、いつだって力になるよ」

 眉間の皴はまだあるけれど、幾らか浅くなっている。
 唇はへの字だけど、それは小さな決意を秘めた、力みから来ているようだった。
 小さな手は、いつの間にかしっかりと握られている。
 私を見つめる瞳は波打っているけれど、それは崩れることなく、きっちりと踏みとどまっていた。
 もう、大丈夫かな――
 まだまだ油断が出来ないけれど、リイン自身が立ち直ろうと頑張っている。
 切欠が必要だっただけなんだ。
 経験はないけど、リインは子供じゃないんだから。

「リインはその為に生まれてきたなんて言うけれど、それだけじゃ……ううん、そうじゃないでしょ?」
「……わかんないです」
「八神家の末っ子。はやての娘で、ヴィータの妹。"そのため"なんかじゃない。ちゃんと家族として生まれてきたんだから」
「……でも、それじゃ。リインの生まれてきた意味が分からないです」
「仕方ないよ。だって、意味なんてこれから見つけるものなんだから。ずーっと探すものなんだから。初めから目的のある命なんて……稀なことだよ」
「リインは、普通ってことですか?」
「うん。何かあるとしたら、八神家の末っ子。新しい家族……それだけ。充分、意味のあることだと思うよ」

 私を見つめる瞳に、自信の色はない。
 今のリインには、それを受け入れられる余裕がないのかもしれない。
 でも、拒絶の意も見えない。
 だから、それでいい。
 リインは賢い子だから、今の言葉を自分なりにしっかりと受け止めてくれるはず。

「誰だって、自分自身の存在に疑問を抱くことぐらいあると思う。だから、それで良いんだよ」
「私は、ちゃんと答えを見つけられるでしょうか」
「それはリイン次第だけど、リインは一人じゃないでしょ? 周りにはきっと誰かがいてくれるから、不安に思わなくていい。大丈夫だよ」
「……フェイトさんも、いてくれますか?」
「勿論。だから、もっと胸を張って。今は出来なくても、ヴィータが目を覚ましたときには、ちゃんと笑顔で」

 少し、リインの視線が落ちる。
 その小さな胸に、大きな葛藤が渦巻いていることだろう。
 こんな大切なこと、直ぐには決められない。直ぐに気持ちは切り替えられない。
 私たちだってそうだ。
 経験がある分、リインよりも弱いのかもしれない。

「だからね。ヴィータがいつ目を覚ましても良いように、準備してなくちゃ。毎日、少しずつで良いから」
「……やっぱり、怖いです。また、同じ失敗をしてしまいそうで」
「ううん、重要なのはそこじゃないよ。そう思って何もしないことが、一番怖いんだ。そのまま、ジッとして動けないことが」
「…………」
「もし、同じようなことが起きたときに動けなかったら、もっと後悔する。今回のことが、本当に無駄になってしまうから」
「……はやてちゃんの隣にいても、ヴィータちゃんの隣にいても、大丈夫でしょうか、リインは」
「大丈夫。だって、リインは大切な家族なんだもん」

 俯き加減のリインを、指の腹で優しく撫でる。
 艶々の髪が、心地よい。
 しっかりと、体温を感じる。
 不思議だとは思わない。
 葛藤と共に、自分に意味を求める姿は、ちゃんと生きてるって証拠だから。

「――ありがとうございました、フェイトさん。リイン、頑張ってみるです」
「うん。少し休んで、みんなが揃ったらヴィータのお見舞いに行ってみると良い。その前に、ヴィータが元気になっちゃってるかもしれないけどね」
「いいえ、その方が良いです。元気のないヴィータちゃんは、見たくないですから」
「……うん、そうだね」
「それに、早く元気になってくれないと、ジャンボパフェが食べられませんから」

 リインはそう言うと、目いっぱい胸を張って、えへんとしてくれた。
 強がってるのが分かる。
 でも、今までみたいな逃げの姿勢からじゃない。これから立ち向かっていくための強がりだ。
 だから、安心できる。
 これなら、リインは明日から大丈夫だ。

「ぐ~……」
「――今の音、なに?」
「え、えへへ。泣いたらお腹空いちゃったみたいです……」
「朝からなにも食べてなかったんじゃない? これから、ちょっと何か食べに行こうか?」
「はい……お願いしますです」
「ふふふ。なにが良いか考えておいてね」

 リインは、泣き腫らして赤くした目と鼻が分からなくなってしまうほど、顔を真っ赤にして俯いてしまう。
 可愛らしい。
 腰を上げ腕を差し出せば、小鳥が止まるようにふんわりと腰を下ろした。
 重さは余り感じられない。
 やっぱり、あれだけ泣いちゃうと軽くなったりしちゃうのかな?
 余程恥ずかしかったのか、それ以降、さっぱり目を合わさなくなってしまったリインと一緒に食堂へ向かった。


 


 


 

===== おしまい。


 

 

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