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新婚なの! それから 3-1

 結局、退院できたのは年も明けて、二週間以上も経ってからだった。
 おかげで、はやての家でも海鳴のなのはの実家でも、充分すぎるほどゆっくり出来たんだけど。
 どうやら、本当にシャマルが手を回したようだった。
 退院できたとはいえ、訓練どころかリハビリから始めなくちゃいけなくて、実戦なんて持っての外よ!なに言ってるの!と叱られてしまった。
 リハビリと称して、教導隊の訓練にも何回か顔を出した。
 これが結構厳しくて、実戦の方がマシなんじゃないかと思うほどだった。でも、知った顔も見ることが出来て精神的には良かったかもしれない。
 あと、なのはが教導隊のほかの人たちと、どんな風に接しているか見ることが出来たし。
 そんなこんなで、今日は久しぶりの仕事場だった。

「……なんか、気まずいなあ」

 自分の所属する、隊の隊員オフィスが見えてくる。
 フェイトが上手く話を合わせておいてくれたらしくて、仕事上の負傷ってことになったらしい。
 嘘が上手いタイプとは決して言えないのに、うちの隊長をどうやって騙したんだろうな……気になる。
 それを確かめようにも、とにかく顔を出さなきゃいけない。いや、確かめるつもりはないけど。薮蛇になるだろうし、フェイトの努力を無駄にしちゃうからな。
 悪いことをして、これから怒られにいくみたいな気持ちだ。
 気が重い。足まで重くなってきた。
 どうしよう。顔だけ見せて、さっと帰ろうかな……

「あっ、ヴィータ! おかえり!」

 いきなり上から声が降って来た。
 振り返ると、満面の笑みでアタシを迎えてくれたのは三人娘の元気印だった。
 大き目の声でアタシを呼ぶものだから、あっという間に周囲は人の山になってしまう。
 アタシは背が低いから抱き合ったり出来なくて、代わりに握手攻めと撫でられ攻めに遭う羽目になった。
 付き合いの深いヤツから、浅いヤツまで、みんながアタシの元気な姿を喜んでくれた。不覚にも鼻の奥がツーンとなったのは――内緒だ。
 祝福攻めも終わり、徐々に人が捌けていくと、そこに残ったのは三人娘の内の二人と、すっかり乗り遅れ気味のフーガだった。
 ……一人、足りない。

「お、お帰り、ヴィータ~」
「新年早々、ずいぶん疲れた顔してんな。どうしたんだ」
「え? だってさ、せっかくヴィータの顔を見ようと思ったのによ。その……全然辿り着けなくて……うん」
「泣くな! 今こうやって話せてるんだから良いじゃねーか。ほれ、制服の襟、曲がってんぞ」
「な、泣いてなんてないからな! これは、誰かに足を踏まれたのが痛いだけだ!」
「泣いてんじゃんか……変な見栄はるなよ」

 大の男がめそめそ泣いている。
 人の涙はよく見たけれど、トップ三に入るぐらい情けない顔だった。
 こういうとき、すかさずツッコミが入るはずなんだけど……

「ヴィータ? なんか気になることでもあった?」
「あ、うん。あのさ、メンテのやつ、どうしたんだ? こういうとき、一番にコイツをからかいそうなんだけど」
「嫌な気付き方だ……」
「なんか言ったか」
「いいえ、なんでもありませーん」

 アイツの名前を出した途端、三人の雰囲気が暗くなった。
 アタシのいない間に、なにかあったんだろうか。

「あのね、ヴィータ。エッちゃん――管理局、辞めちゃったんだ」
「辞めた? また、なんで」
「なんでも、お母様が倒れたそうで。ご実家が旅館を営んでいらっしゃって、それで、どうしても」
「急だったぞ? 年が明けたらいなかったからな。後でさ、俺のところに連絡が着たんだ。理由も短いけど書いてあってさ。みんなに教えたぐらいなんだ」
「へえ。お前、アドレス交換してたのか」
「そーなんだよ! その次の日にね、私たちのとこにも着たんだけどさ。どーしてコイツが先かなーって。って言うか大体いつ交換したんだっての~」
「私たちの知らないところで、仲が宜しかったりしましたの?」

 二人の攻めに対し、フーガは事実を必死に否定していた。
 別に仲が良くたっていいだろ……そんなに否定されちゃ、あいつだって良い気はしないと思うぞ。

「一応、女将修行はするんだって。もう、戻ってこないのかなあ」
「管理局は、万年人材不足ですからね。その気であればすぐに復職出来そうですけど……どうでしょうね」
「戻ってきたとしても所属は別になるだろうから、俺はどーでもいいよ」

 二人が心配してるのに余計なことを言うもんだから、また叩かれてる。
 まあ、照れ隠しっていうか素直に心配出来ないだけなんだから、そう叩いてやるなよ。

「本局の航空隊で、しかも一等空士だもん。結構繁盛しちゃうかもね」
「私たちが思うより、女将も似合うかもしれませんし。落ち着いたら、連絡くれるそうです」
「でもよ。よく考えると、アイツの世界出身とかさ、そういうの。俺、全然知らねーんだよな。知ってる?」

 フーガの今更過ぎる質問のように思えたそれに、頷く者は誰もいなかった。
 よく考えると、アイツのことなんにも知らない。
 記憶を辿ってみても、ミッドの北部の辺りとかそんな話ぐらいしか出てこない。
 だから、てっきりミッド出身だと思ってたけど違うらしい。
 でも前に地方世界の旅館がどうとか言ってたことを、ふと思い出した。若しかして、そのことだったのか……?

「それにしても変だね、エッちゃん。こういうこと、一番にヴィータに教えそうだったのに」
「そうですね。若しかして言い難かったのかしら。別れが辛くて」
「アイツがそんなタマかよ」

 女性陣から「ひどーい!」の大合唱。
 良かったな、二人だけで。他にもいたら、明日から一ヵ月は胃の痛い思いをしなきゃいけなかったぞ。

「アイツなりに言えない事情があったんだろ。アタシの連絡先、教えた覚えがないからそれでかもしんないけど」
「えー! そうだったの? こいつの連絡先知ってたぐらいなのに」
「そんなに突っかかんないでくれよ……あれは俺だってビックリしたんだからさ」
「朝起きて、知らない人からメールが着てたら驚くモンね」
「いや、そうじゃなくて……まあ、いいや」

 中途半端に誤魔化すものだから、聞き出そうと二人掛かりで追い掛け回されてる。
 バカだなー。
 言えない事情があるなら黙ってりゃ良いのによ。
 散々追い掛け回されたフーガは、首根っこを捕まれて戻ってきた。
 他のヤツに笑われてるぞ、お前。

「ね、ヴィータ。エッちゃんからの連絡、楽しみだね。旅館だって言うし、暇を見つけて遊びに行こう?」
「旦那様に悪いですよ、私たちじゃ」
「あ、そっかー。でも、男の人と行くよりはいいでしょー?」
「ま、まあまあ。どちらにせよ、結構先のことになりそうだな。今から女将修行だろ? そんな直ぐは無理だろうし……かなり先のことになりそうだな」
「でも要領いいし、意外に早くやっちゃうんじゃないかなーって」
「でも。そうなると、もう、戻ってきませんね……」

 首根っこ捕まれたままのヤツも含めて、なんだかパッとしない雰囲気になってしまった。
 前に、フェイトが調べてくれた時。どこにいても印象に残らない人間だったって、そう聞いてたのに。
 心がけてそうしてきたのか、偶然そうだったのか。知る由もないけれど。
 少なくとも、ここには四人、アイツのことをしっかり覚えている人間がいるんだ。
 まあ、アタシ達が忘れないうちに連絡して来い。
 気が向いたら、遊びに行ってやるから。

  ◆

 お昼は、弁当を作らなかったのも手伝って、なのはと一緒にどこかで食べることにした。
 前に一緒にお昼を食べた食堂へ向かう。
 長い休暇中に、すっかり怠け癖がついちゃって朝が辛い。そろそろ、早起きして弁当作るようにしないといけないんだけど。
 早起きすることを考えると、どうにも億劫で……こんなじゃいけないなあとか考えていたとき。
 通路のずっと先を、陸の人間が横切っていくのが見えた。

「……ん」

 制服から見て、陸の人間なのは間違いない。
 かなりの人数だ。二十人か、それ以上いそうな気がする。
 別に、陸の人間がいること自体は珍しくもない。でも、士官でもなさそうな若いのが目立つのはな……
 それが、ちょっとだけ気になった。

「なんか訓練でもあんのか? 本局に連れて来られるぐらいだから……頑張れよ」

 本局の陸隊かもしれないのに、どうしてどこかの地上部隊だと思ったんだろ……?
 通路を突き当たり、陸士の連中が歩いていった方向にちらりと視線をやる。
 もう人ごみに紛れてしまって、姿を確認できなかった。
 別にどうでも良いか。なのはも待ってるだろうから、さっさと忘れよう。
 背を向けて、教導隊のオフィスの方へ向かう。
 途中で、なのはが待っているはずだ。

「お、なのはだ」

 建物を出たところ。中庭の入り口、ベンチに座っているのを見つけた。
 待ち合わせの場所からは少し離れていたけれど、開けたところにいてくれたおかげで間違えることがなかった。
 扉を開けて出て行くけど、アタシに気付いていないみたいだ。
 こういうとき、目敏く見つめるヤツなんだけど……

「おい、なのは。待ったか?」
「――ううん、全然」

 ぼんやりした感じで答える。
 なにか、考えごとでもしてたんだろうか。ちょっと、元気のない感じが気になった。
 聞こうか、聞くまいか。
 ……こうやって、前も後悔した気がするな。

「あ、あのさ」
「なあに?」

 ベンチから腰を上げ裾を直す姿は、いつもの調子に見えた。
 でも、聞くのを止めなかった。

「いま、誰かと会ってたのか?」
「え? 若しかしてヴィータちゃん、ヤキモチ? 大丈夫、逢引なんて――」
「茶化すなって」
「……うん。ちょっとね」

 思ったとおりだった。
 なのはは困ったように笑って、アタシが来た方向へ視線を投げるようにした。
 それだけで、誰に会っていたか分かったような気がした。
 アタシは同じようにしながら、横目でなのはの様子を窺いつつ話の続きを待った。

「あのね。いま、私が助けに……私たちが助けにいった子たちが、お礼を言いに来てくれたんだ」
「へえ。義理堅い奴らだな。良かったじゃねーか」
「うん。みんながあんまりお礼を言うものだから、私、どうしていいか分からなくて」
「お礼、言われ慣れてないのか? まあ、アタシもそんなないけど」
「うーん、そうだと思う。教導隊にいればお礼の挨拶は多いけど、今日みたいなのはあんまりないから」
「ふうん。そんなもんか」

 少しほころびを見せたけれど、眉は下がったままだった。

「別に悪いことしたんじゃねーんだ、偉そうにしてりゃ良いだろ」
「そういうの得意じゃないの、知ってるくせに……」
「知らねーよ」
「……当たり前のことをしただけだよ。それより、助けられなかった子の方が多かっ――」
「あいつ等だって、分かってやってんだぞ。だから、それで良いじゃねーか」
「……うん、そだね」

 横目で様子を窺うと、肩を落としたように見えた。
 なのはの中では、助けた事実よりも、助けられなかった事実の方が重いんだな……
 改めて言うまでもないことだ。
 なのはは、そういうヤツだ。きっと、誰に聞いても同じことを言うだろ。
 でも、今はそれを認める気にはなれなかった。

「そういや、今回の教導は途中だったんだろ?」
「うん。部隊を預かる偉い人も来ててね、それで、出来ればもう一度お願いしたいって。それも兼ねて来てくれたみたい」
「ふうん。で、どうすんだ?」
「……そだね。私の一存では決められないことだけど、もし出来るのなら、ちゃんと最後まで面倒見てあげたいかなって」

 えへへ、と笑うのに表情が追いついてない。無理してるのが見え見えだ。
 ちょっと――なのはらしくなかった。

「今回のは新人相手で、コテンパンにするのが目的なんだろ? だったら、遠慮なしにやっちまえばいいさ。ストレス解消にもなるだろ」
「えー。ヴィータちゃんひどいんだー」
「なに言ってんだ。一回修羅場をくぐってんだからよ、甘やかすことなんかねーよ」
「いーっつも。手加減しろーとか、やりすぎるなーとか口うるさく言うくせに。変なヴィータちゃん」
「屁理屈ばっかり言いやがって。あと、くっつくな」

 すすすっと寄ってきたなのはは、そっとアタシの左肩に手を回した。
 手が、思ったより冷たく――感じられた。
 こう引っ付かれると顔も見られない。
 アタシが横目で様子を窺ってたのに気づいてたのか、それとも単にくっつきたかっただけか……まあ、どっちでも良いや。
 ちょっとだけ、ぐいっと押し退けてやる。ちょっとだけ、だけど。

「昼、食べにいくぞ。どこにするんだ?」
「うん、あのね。プリムさんが一緒したいんだって。だから、前に一緒したところね。それでね、奢ってくれるんだってー。良かったねヴィータちゃん」

 手を引かれて食堂に向かうことにした。
 前に行って覚えてるから、アタシが引っ張っていくって言ったんだけど聞いてくれねーんだもん。
 お昼の休憩を取る人間も増えてきたのか、通路の往来も忙しくなってきた。
 その中を、手を繋いで歩いている。

「え、ホントか。なんか悪いな」
「せっかくのご好意なんだし、断る方が失礼だよ~?」
「そうは言うけどさ。借りがあるっていうか、助けてもらったんだよ。お前のところ行くときに。だから、アタシがお礼しなきゃいけないぐらいで……」

 なのはの手が強張るのが分かった。

「た、助けてもらったって……なにを?」

 なにがそんな気になるんだよ。変なヤツだな。

「なんだ、聞いてないか? お前のところに行く前にさ、ちょっとあってよ。そこにプリムさんが来て助けてもらったんだ」
「ど、どうやって?」
「揉めてさ。シグナムがキレそうになってたんだ。そこを押し通してくれたっていうか。揉めた相手は、プリムさんより階級が上そうだったけど……どうやったのかな」
「え、えっと、えっとね! そのこと、プリムさんに言っちゃ駄目だから」
「あんでさ」
「陸の人と揉めたんでしょ? だから、すっごい抗議が来ちゃって、それで……プリムさん怒られてたから」
「そ、そりゃそうだろうな……でもさ、それなら余計にお礼を言わなきゃいけないんじゃねーか?」

 ぎゅーっと手を握り締めてくる。

「気の毒なぐらい落ち込んでたんだって。今は、その話題を出さない方が良いと思うんだ」
「お、おう。分かった。そこまで言うなら今日は言わないことにする。でもよ、機会を見てお前から言っといてくれよ? その内、アタシも言いに行くから」
「うん、それは分かってる。安心して」
「しっかし、そんなに凹むなんて……よっぽど怖い人がいるんだな、教導隊」

 やっと手が緩んだ。
 なにをそんな必死になるのか知らないけれど、それだけプリムさんがヒドイ目に遭ったということだろうか。
 知らない振りをするのも気が引けるけど、なのはがそこまで言うなら大人しく従っとかないとな。アタシはまだ部外者だしよ。
 しかし、プリムさん――合同訓練で見る限り出鱈目に強かった気がする――をそこまで凹ませる人がいるのか。
 なのはに誘われてはいるけど、正直どうしようかな、教導隊……

  *

 昼下がり。
 今の季節にしては日差しが強く、風も殆んどない。一足先に春が訪れたような陽気だった。
 今日の陽気に合わせて比較的薄着の人、今の季節らしく着こんだ人が参列者に混在する。着こんだ人は、遠方からやってきているのだろうか。
 中庭で談笑をしたり、帰途へ就いたりしている人もいる。既に参拝を済ませたのだろうか。
 大きく枝を伸ばした木の下、木漏れ日が揺らいでいる。その木の袂に置かれたベンチで、それらの様子をのんびり眺めている一人の男がいた。

「……やあ、久しぶりだね。元気していたかい?」

 独り言のような声。白い伊達なスーツに身を包み、緑鮮やかな髪を長く伸ばした――ヴェロッサ・アコースだ。

「このような接触は如何かと」

 辺りに人影はない。
 ロッサにだけ聞こえるように囁かれた声は、女性のもののようだった。
 高くも低くもない。抑揚もなく、勿論感情などの類は全く聞き取れない声。
 咎めるような言葉に対し、ロッサは苦笑いしながら答える。

「まあまあ。そのためにここを選んだんだから。他と違って、僕がここにいて当然の人間だからね。怪しい人も排除できるし、安全だよ?」
「……要件だけを、手短にお願いします」
「そう焦らずに。任務は終わったんだから少し休暇が出るはずだ。なにか予定でもあったのかな? チケットを取ってあるならその時間には間に合わせるよ」
「……いいえ」
「そうか。でも旅行はおすすめだよ。どこか、羽を伸ばしにいったらいい。観光地の寂れた旅館とかね。仕事柄、人と距離を取って一人の時間を作ったどうかな」
「……なにを仰りたいのですか」

 相変わらず抑揚のない声に、ロッサは可笑しそうに肩を揺らした。

「君にしては、珍しく入れ込んでいたと思ってね。そこまで指示が出てたのかい?」
「…………」
「質問を受けたのも初めてだ。明日は雨かな?」
「……」
「ハハハ、気に障ったのなら謝るよ。なにせ、僕と会ったときの君ときたらやたらと緊張していたからね。気になって当然だろう?」
「……連絡がありませんでしたので」
「その程度で動揺するのか。それは大変だな、報告書に書いておかないと……」

 全く心配している雰囲気がない。
 冗談だ、と全身で言っているようなものだった。
 それでも、声の正体からはなんの気配も漂ってこなかった。
 ロッサは相変わらず、視線を中庭のどこでもない場所へ向けながら話を続けた。

「君のなにが彼女を気に入ったのか知らないけど。若しよければ聞かせてくれないかな。後学のために」
「……任務のために、必要だと思われたことをしたまでです」
「今まで、どのターゲットにも一次接触をしなかった君が? ふうん、柔軟な判断だね」
「……まだ、任務は途中です」
「彼女の周りにいないことがはっきりしたからね。いつまでも優秀な君を、遊ばせておく余裕もないのさ」
「……そのような報告はしていませんが」
「判断するのは僕じゃないから。悪いね」

 本当にそうだろうか――ロッサの声は、聞いたものにそんな感想を抱かせるものだった。

「ああ、そうだ。ヴィータたちを助けた、あれ。良い判断だったね。一人、のこのこ顔を出してくれたよ」
「……」
「しかし、あれだけ魔力量の違う人間に化けるのは、骨が折れたんじゃないかな?」
「……短時間でしたので」
「丁度良いじゃないか。休暇は出ているんだから、ゆっくりすると良い。英気を養って、次の任務には万全で望んでもらいたいからね」

 陽気のせいだろうか。欠伸半分である。
 姿の見えない彼女を心配しているのか、甚だ疑問だった。

「しかし」
「……?」

 声の調子が、僅かに硬くなる。

「まさか正体を明かしてしまうなんてね。正直驚いたよ」
「…………」
「どこまで説明したか"知らない"けれど、あまり褒められたことじゃないね。彼女は信用できる人物だけど」
「……」
「結果、上手くいったとはいえどこまで考えてたんだい? 彼女を――高町なのはを信用してたのかな?」
「……そう、判断しました」
「主観は入ってないってことかな。ふうん。君がそう言うなら、そういうことにしておこう」

 ロッサの声はすでに柔らかくなっていた。
 声を硬くしたのは演技だったのだろうか。
 彼なりに楽しんでいるのかもしれない。
 相手をする身には堪らないだろうが。

「さて。急に呼び出して悪かったね。次の仕事は追って連絡するから、のんびりしててよ」
「……」
「個人的には、ゴタゴタに巻き込んで悪かったと思ってる。だから、出来る限り便宜は図るつもりだよ。遠慮なく言ってくれて構わない」
「……そのように」
「一応、レアスキル保持者だからね」
「……ランクは落ちますが」
「あれにまでランクを設けるのは、正直感心しないね。実績であげてくれるなら考えても良いけど。手当ても増えるしね。そう思わないかな?」
「……いいえ」
「――そうか。まあ、とにかく。今回は助かったよ。君が僕のお願いを聞いてくれて。君のスキルはホント、重宝するよ」

 ベンチから腰を上げ、大きく伸びをする。振り返ったロッサの言葉を、その人が最後まで聞いていたか。それは定かではなかった。
 若しかして近くにいるかもしれないが……目の前には、"誰もいない"と彼は感じていた。
 一人残念そうに、溜め息を吐くロッサ。

「今日のティータイムに、シュークリームを作ったんだけどな。さて。彼女の分、どうしようか……」

 そよそよと温かな風が流れ、彼の緑の髪を優しく撫ぜていく。
 まるで春を思わせる陽気の中。大量のシュークリームの始末に頭を悩ませるロッサだった。


 つづく。

 

 

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