なのヴィ 5-2

 
 
「あ、ヴィータ。もう帰ってたの?」
「おう。ただいまだ、フェイト」
「あれ、なのはは?一緒に行ってたんじゃなかったの?」
「知らね。後から来るんじゃねーの」
「先に一人で帰ってきちゃったんだ。何かあったの」
「別になんにもないですよ、それで何か用なのか」
「ううん、別に用ってほどじゃないんだけど、なのはの姿が見えないから、その」
「ちぇ。お前もなのはなのはって。なのは村の住人かよ」
「え?そんな町名じゃないでしょ?ここ。それに今は同じ隊舎に住んでるんだし、私たち」
「似たもの同士だな、お前らさ」
「???」
 
 
 
 
 
「それじゃな。なのはのヤツならもう少し待ってれば帰ってくるだろうよ」
「そっか。なら一緒に待ってようよ。ね?ヴィータ」
「うわわ、手を掴むなって!離せって!抱きつくな!」
「良いじゃない。ほらほら、ジュース奢ってあげるから」
「ギギギ……!アタシを子ども扱いするなー!」


「なのはのヤツ。おせーな」
「うん、遅いね。何かあったのかな」
 トランスポーターの近くに腰を下ろしジュースを飲む二人。
何故かなのはが帰ってくる様子は全くありません。廊下はしんと静まり返っています。
 
 
 
 
 
「ねぇ、ヴィータ。一つ聞いて良いかな」
「……ああ、いいぞ。一個だけな。ジュースも奢ってもらったし」
「それじゃあ。おほん、ヴィータ。何を怒ってるの?」
「怒ってる?誰が」
「ヴィータが」
「なに言ってんだ。いつでも笑顔の可愛いアタシの何が怒ってみえるって」
「それ、本気で言ってる?」
「……うっせー。さっさと本題に入れよ」
「(照れるぐらいなら言わなきゃ良いのに)何に怒ってるの?帰ってきてから様子が変だよ」
「変じゃねーって。アタシはいつもこんな感じだろ」
「そうだね。いっつも眉間にしわ寄せて。はやてに注意されてる」
「ふん、だったら問題ねーだろ」
 
 
 
 
 
「なのはと何かあったんでしょ。いつもと違うんだもの、分かるよ」
「……そうだったとして、あにさ。フェイトには関係ないだろ」
「私は別に良いけど。ここですっきりさせておかないと、後ではやてに質問攻めだよ?」
「うぅ……っ。それは勘弁だ」
「ほら、私が聞いてあげるから。ね?」
「(何だか上手く乗せられた気がする)ああ、そうだな。お前ならいっか」
「光栄かな」
「……あのさ、えっとよ。フェイトにも関係あるんだけどよ」
 ずずずっ……と、オレンジジュースをすするヴィータ。
「お前の分隊も新人、取るんだろ?」
「うーん、そうだね。エリオとキャロっていう子なんだけど、写真で見た事あるよね」
「ああ、まあな。赤い髪とピンク色の子どもだっけ」
 
 
 
 
 
「そっか。今日はなのはの分隊の新人予定の子の様子を見に行ってたんだっけ」
「あのさ。新人なんているか?どう考えたって足手まといじゃねーか」
「どうかな。本人のやる気次第だと思うよ、私は」
「特にお前んとこの二人。保護者なんだろ?それをわざわざ危険なとこへ……」
「だって。あの子たちがそうしたいって言うんだもの」
「それを止めるのが親の仕事だろーが。やりたいにしたってよ、まだ早すぎる」
「その辺は私とシグナムで何とかする。大丈夫だよ」
「だったら。結局足手まといだろ?初めから止めときゃ良いじゃんか」
 紙コップの端にギリギリと歯を立てる。
「ねぇヴィータ。私たちは神様じゃないんだよ。無理なことだってある」
「だから?」
「あのね。私たちの後が必要なんだよ」
「その年でなに年寄りみたいな事言ってんだよ。アホらし」
 
 
 
 
 
「じゃあ、それだとしてだ。まだ先で良いじゃん、今すぐ必要か?」
「私たちは仕事上、明日には死ぬかもしれない。そんな悠長なことは言ってられないよ」
「へっ。死ぬこと考えて生きてるなんて変なの」
「だから少しでも多くの後人を育てておく事に越した事はないと思うんだ」
「へん……死ぬことを考えるなんてバカみたいだ。アタシ等ならまだしもよ」
「そういう言い方は良くないな。はやてやなのはが聞いたら怒るよ?」
「はやては兎も角。なんだなのはの名前が出てくるんだって」
 ずずず……半分もなくなったジュースをすする。
「だって、ヴィータに何かあったらなのは、泣いちゃうよ?」
「鬼の目にも涙ってやつか」
「ヴィータ。ふざけないの」
「じゃあさ、エリオやキャロに何かあったら、お前どうする?」
「……泣いちゃうかな」
 
 
 
 
 
「そうだろ?だったら初めからやらせなきゃ良い。絶対後悔するぜ」
「でも、それとなのはの分隊の話は少し違わないかな?」
「……違うもんかよ」
「?」
「アイツの育てた武装隊員が死ぬたびに何してるか知らねーお前じゃないだろ」
「……そうだね」
「今回の新人。これから付きっ切りで育てて、一緒に仕事するんだ。今までとは訳が違う」
「そうだね、ヴィータ」
「悪ぃけどよ。ロストロギア絡みの事件だ。Bランクぐらいじゃ虫けらみたいに死ぬことだってある」
「それは私たちだって同じだよ」
「確率の問題だ。圧倒的にあいつ等の方が死ぬ確率が高い」
 
 
 
 
 
「そんなだ。目の前で自分が連れてきた新人が死んでみろよ。どう思う?」
「……確かにショックかもね」
「かもね、じゃねー!絶対泣くぞ!絶対だ!」
「ヴィータ……」
「何か知らねーけど、柄にもなくはしゃいでさ。嬉しそうに新人の話しちゃってよ」
「うん」
「すんげー期待してんのな。自分の手で育てるの楽しみにしてやがんの!」
「そうだったんだ」
「バッカみてぇ!どうせ直ぐ死ぬかもしれないのにさ!そうなったら泣くに決まってるのによ!」
「……」
「確かに危険なのはアタシ達だって同じだ。だけどその度合いは段ちだ。比べるまでもねぇ」
「確かにそうだけど……」
「そんなんだったら少しでも危険が少ないほうが良いじゃんか!バカでもわかることだろ!?
 だったら、これからもアタシとなのはの二人でやってく方が良いだろ?アイツそんな事もわかんねーの!」
 
 
 
 
 
「……ヴィータ。なのははバカだよ。バカみたいに一直線で素直だよ」
「……お前、よくバカなんて言うな」
「だからいつでも全力なんだ。絶対に後悔しないために。そんな事百も承知だよ。
 なのはは自分のしたことを後悔なんてしない。それはヴィータだってよく知ってるじゃない」
「……」
「今回だってそうだよ。ちゃんとその辺のリスクは分かってる。
 新人の子だって自分の置かれる立場がどういうものか分かって来るんだから」
「だ、だけどよ」
「うふふ。でも今の話聞いたら安心しちゃった」
「な、なにが今の話で安心する要素があるんだよ」
「だって。てっきり新人の子にヤキモチ妬いてるのかと思ってたから」
「!!!!」
「なのはが新人に掛かりっきりになるのがイヤなんでしょ、本当は。あ、図星だ」
「う、ううううううっせーーーーーーっっっ!!!」
 
 
 
 
 
「ちぇ、なんだよフェイトのやつ。最近はやての悪影響を受けてる気がするぞ」
「ヴィータちゃーん!」
 コップを捨てに席を外したヴィータを追いかけるなのは。
「な、なななんだよ、大声出すんじゃねーって」
「だってぇ。呼んでも振り返ってくれないんだもん」
「ああ、悪かった。んで、走ってきてまで何の用だよ。廊下は走るなって教わらなかったのか?」
「それいつの話?もう小学生じゃなんだから」
 少し息を切らせながら答えるなのは。
「で。新人のこと、どうすんだよ」
「え?あ、ああ。スバルちゃんとティアナちゃんね。うん、ウチに来て貰うことにするよ」
「どうなんだ、使えそうかよ」
「どうかな?あの子たちのやる気次第ってところ何だけど~」
「何だけど~って、何だよ。どういう意味なんだ?」
 
 
 
 
 
「なのね?ヴィータちゃんも手伝ってくれたら上手くいくかなって意味」
「はぁ?なにを手伝うって言うんだよ」
「新人教育。ヴィータちゃんだって教官なんだから大丈夫でしょ?」
「な、なんでアタシが!」
「だってぇ」
「だっていうな!」
「私とヴィータちゃん、二人のスターズ分隊なんだから。ね?お願い♪」
「うぅ……っ」
 結局、ヴィータはこの笑顔に敵わないんだな。と思うのでした。
「ああ、分かったよ、なのは」
「ありがとう、ヴィータちゃん!」
「うぇえいい!抱きつくなって!暑苦しい!(しょうがねぇ。なのはを泣かせる訳にはいけねぇからな。覚悟しとけよ新人め!)」
 
 
 
 おしまい。

 
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なのヴィ 5-1

 
 
 
「ねぇ、ヴィータちゃん」
「あんだよ」
「あのスバルちゃんって子。どう思う?」
「べっつにぃ。なんとも」
 手を頭の後ろで組んで、足をぺんぺんと上げながら歩くヴィータ。
「見た感じ、素直で良い子そうだよね」
「どうだか。見た目だけならお前を管理局の魔王扱いするヤツなんていねーだろ」
「上司さんは頑丈だって言ってたね。どのくらいかな」
「少なくともお前の砲撃には耐えられねーよ」
「あははは。そんな照れちゃうな~」
「ばーか、そんなんじゃねぇって。嫌味だろ?分かれよ、それぐらいさ」
「むぅ~。ヴィータちゃんの意地悪」
 
 
 
 
 
「それとね、フォワードで足が速いって」
「シグナムやフェイトに比べりゃ話になんねーだろうけど」
「比べちゃスバルちゃんに悪いったら」
「そんなもんかね。ウチに入るんなら少なくともアタシより遅いようじゃ使いモンになんねー」
「でも障害密集地戦なら、下手な空戦型より……」
「結局アタシやお前で障害物ぶっ飛ばしちまうんだから障害物避けなくて良いじゃん」
「そ、それはそうかもしれないけど」
「(おい、そこは流石に否定するところだろ。マジで受け取るなって)」
「それと。突破力が自慢なんだってね」
「突破力?ああいうタイプは考え少なに飛び込むだけに見えるけどな」
「もう。突破力って、それそのままの意味だけじゃないと思うんだ」
「例えば、何だよ」
「物事、困難に直面したときにどうするか。どう立ち向かうのかって姿勢のこと。そう思わない?」
「……さぁね」
「なぁに?その気のない返事ー」
 
 
 
 
 
「次は……訓練校からコンビ組んでるって子、ティアナちゃん、だったかな」
「ふぁ~あ」
「欠伸しない。えっと、シューターだったね。スバルちゃんと良い組み合わせかも」
「そうなんじゃね」
「なんだか私とヴィータちゃんみたいな感じじゃない?」
「どこが」
「ヴィータちゃんが最前衛で私がシューター」
「お前、本当に自分のこと分かってねーんだな」
「どういう意味?」
「お前は射撃っつーより砲撃だろ?しかも後衛からズドンと一発。アタシを巻き込むのは勘弁してくれ」
「そんなしてないったら……3回だけだもん」
「そんだけすりゃ充分だろ!」
 3歩先を行っていたヴィータは、じとっとした目でなのはを振り返る。
 
 
 
 
 
「もうそれっきりしてないんだし、3度目の正直って言うか……」
「3度目の正直で当てたんだろうがよ。大体、お前もいっぺん自分の砲撃受けてみたら良いんだ!」
「そんなの無理だよ。自分に撃つなんて」
「(こいつぅ。マジで言ってんのか……)」
「と、とにかく!あの二人、とっても有望じゃないかって思うんだ」
「あー、へいへい。判断するのはお前なんだから好きにしたら良いだろ?一々アタシに聞くなよ」
「ヴィータちゃんの部下にもなるんだから~って、もう。待ってよー」
 そっぽを向いたヴィータは呼び止めようとするなのはを無視して先に行ってしまいました。

「もう、どうしたの?先に行っちゃうなんて」
「うっせーな、別にいいだろ。アタシがどんな歩幅で歩こうが」
「歩幅って。タイトなんだし、そんな歩幅変わらないよ?」
「あーうっせー!あんだよ!アタシが小さいって言いたいのかよ!」
「そ、そんな事言ってないったら……」
 
 
 
 
 
「ねぇ、さっきから何を怒ってるの?」
「べっつに。怒ってねーです」
 ぷいっとそっぽを向くヴィータ。
「怒ってるよ。さっき二人の資料を見せてもらったとき、ううん。こっちに来るときから」
「……そんなことねーって。勘違いすんなよ」
「せっかくの新人さんなんだから。楽しみじゃないの?」
「……」
「ね?ヴィータちゃんもそう思うでしょ?前から後輩欲しがってたじゃない」
「……あー!うっせー!新人なんていらねーってんだよ!
 別によ!あんなへっぽこ入れなくたって、アタシとなのはで充分じゃねーか!」
「え、え?」
「バ、バーカ!そんなにへっぽこ新人が良いなら3人で仲良しこよしでやってりゃ良いんだよ!」
「あ、ヴィータちゃん!待ってったら!」
 ヴィータは一人、なのはの制止を振り切って走り去ってしまいました。
 
 
 
 

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目を覚ましたら 18-3

 
 
 
「久しぶり、な気がする」

 全く変わってねぇな。って、当たり前か。
2週間ちょっとで劇的にビフォアーアフターするってどんな家だよ。
暗くてよく見えないけど、変わってる所はないはずだ。
さて。この扉がやけに大きく、重く感じる。
ノブに手をかけるのが躊躇われる。
今ならはやては家にいるはずだ。学校もとっくに終わってるしな。
そうじゃなきゃテスタロッサが病室にいない。学校帰りに直でこっちに来てたみたいだしな。

「ええい、いつまでもうじうじしてるのは性に合わねぇ。よーし、開けるぞ」

 ごくり。喉が大きく鳴る。
一度服の裾で手の平を拭く。ああ、いつもの服に着替えてこれば良かった。
こんな時間じゃ近所の人に見つからないだろうけど、こんな武装隊の格好じゃなんだかさ。
仕方ない。もう着替えに帰る場合じゃないし。
よ、よーし……!

「た、ただいまー……」
「お帰りー!ヴィータ~っ!」
「う、うおおおっ!?は、はやてぇ!」
「うんもおおぉ!心配かけてー、この子は~っ!」

 玄関扉を開けるなり、はやてが飛び掛ってきた。
勢い余って後ろの扉で後頭部をゴツンと打ち付けた。それでもはやては構わなかった。

「ぐ、ぐえぇー。絞まる、絞まるよはやてぇ!」
「あかん、離したらん!こないあかん子は離したらへんのや!」
「は、はやて」

 はやてってこんなに力が強かったかなって思うほど、すんごい腕に力が篭って抱きついてくる。

「あ、あのさ。はやて」
「だ~め。大人しく抱っこさせるの……」
「はやて……ただいま。ただいま、はやて」
「…………」
「心配かけてゴメン。はやて、ごめ……」
「エエ、言わんでええの!帰って来てくれただけで、無事ならそれでエエんよ。私はぁ」
「はやて……」

 抱きついたまま、顔を埋めているから声が篭ってはっきり聞こえないけど、ちゃんとそう言ってるのは分かった。
行き場を失って宙を彷徨ってるアタシの手。
どうしよう。はやてを抱きしめた方が良いのかな。
はやてに抱きついた方が。ううん、抱きつきたい。
ギュってしたい。思いっきり抱きしめたい。だけど……どうしよう。
何故かそれが躊躇われていると、リビングからひょっこりピンク頭が顔を出した。

「なんだ、帰ったのか」
「あ、ああ。あの……ただいまな、シグナム」
「帰ってきたということは、自分なりにケジメをつけたのか、覚悟が出来たんだろうな」
「そうだよ。ちゃんと自分でやるべきこと。やらなきゃいけない事、決めたんだ」
「ならば私から言うことは何もない」

 何故か半分一寸しか顔を出さないまま、リビングへ引っ込んでいこうとするシグナム。

「あ、あのさ、シグナム!」
「……なんだ」
「実はさ、一つ頼みがあるんだ。そのよ、ちょっと頼みにくいって言うか」
「ふん。お前のいうことなど大したことではないだろうが、一応聞いてやろうではないか」
「えっとよ。アタシがいない間、もしだ。また家を開けるときはさ、はやてのこと」
「何を言うかと思えば、そんな事か。下らん」
「な、なにおう!」
「ヴィータ。お前など一人居らずともこのヴォルケンリッター。主を守りきってみせる」
「てんめぇ!」

 少し馬鹿にしたようなニュアンスのシグナムに、自分勝手にもほどがある。
腹を立てて飛び掛ろうと思っても、ひしっと抱きついたはやてにアタシは一歩も動けなかった。

「そういうことだ。後顧の憂いなく、行ってくるが良い」
「……!?」
「だがな。それは主の許しを得てからだ」

 今度こそリビングへ引っ込んでいくシグナム。最後にちょこっとだけ揺れるピンクのポニーテールが見えた。

「あ、あのさ。はやて、実は……」
「……あかん。もう離したらへんって言うたやんか」
「はやて。アタシのワガママだって言うのは分かってる。勝手なこと言ってるって分かってる!」
「だったら!私のところから離れんといて!」

 相変わらず胸に顔を埋めたまま、今度は語気を強めてはっきりと言う。
そんなはやてに、アタシの腕はまだ行き場なく彷徨っていた。

「…………」
「ごめんよ、はやて。でもさ、アイツのところに。なのはのところに居てやりたいんだ」
「…………」
「これから大変なんだ、きっと。だから」

 アタシに抱きつくはやての腕に一層力が篭る。
痛い。身体がギチギチと音を立てるよう。
でも、これはアタシの身体が上げている痛みじゃなくて。きっと、はやての感じてる痛みなんだ……そんな気がする。
こんなにもはやては辛かったんだ。
アタシが無茶やって、それで心配かけたり色々後始末とか、きっとアタシの上司とかから文句とか言われてたんだと思う。
それに全然顔も見せないし、シャマルの話を聞く限り随分どころの話じゃないほど心配かけたんだ。
はやてはアタシ達の主っていうか、元々はそうなんだけどさ。
今はそうじゃなくて、家族の主って感じだ。こういうの大黒柱っていうんだっけ。
だから、元々の魔道書がどうとかそういうのを越えて、"家族"なんだ。
そんなでさ。はやてはアタシをホント心底心配かけたんだ。
それは分かってる。
いま、この腕に込められる力の具合に、胸でスンスンと涙ぐむ様子に、それ以上に伝わってくる。
なのにさ。
そんなはやてを放って、なのはのところに行かせて欲しいって。
なんて主不幸なヤツなんだ、アタシは。
これ以上ないってぐらいに主不幸者だ。

「ごめん、はやて。こんなワガママ言って、ごめん」
「…………」
「こんな事しか言えなくて。分かって欲しいって言わない。これはアタシのワガママだから」
「……そうや。いかん子や」
「うん、そうだよな。アタシさ、悪い子だよな。
 はやてに心配ばっかけて。なのはとの約束も守れなくてさ。それなのに、またはやてに心配かけようとしてる」
「……そや。心配ばっか掛けて」
「うん。こんな約束守れないアタシのこと、駄目なんだ。でもさ、なのはのこと……上手く言えないけど」
「……」
「ごめん。なんて言っていいのか分かんない。でも、ウソは吐きたくないから」

 自分のことばっかり。
はやてのことも、なのはのことも。
いっつもアタシは自分のことばっかで、人のこと全然気に掛けられてないんだ……

「でも。やっぱりなのはの事……」
「……ううん、ウソ。ウソや、ごめんな、ヴィータ」
「う、ん?」
「うっそ。私はそんな意地悪やないよ。ヴィータがそうしたいならしたらエエ」

 ゆっくりと頭を上げる。
目尻や鼻の頭がうっすらと赤くなってた。

「ヴィータの看病とかの腕は折り紙付きや。車椅子押させたら海鳴一!私が保証したる!」
「は、はやて」
「ヴィータがついててくれるなら、なのはちゃん安心や。な?」
「ああ、だからさ。はやて、アタシがなのはの所に行くの、許して欲しい」
「私は一家の主やし、みんながヴォルケンリッターの主として私を見てくれるのも分かってる。
 だから、何かをするのに許可を求めてくるけどな。もうみんなはそういうの無しに自分のしたい事をしたら良い」
「だけどさ、やっぱり勝手するのは……」
「なら。許可します。ヴィータがなのはちゃんの所に行くこと。一家の主として許可します」
「はやて……!」
「その代わり!」
「う、うん」
「毎日ちゃんと帰ってくること。ご飯は出来るだけみんなで一緒にとること。
 無理せんこと。何かと背負い込もうとしないこと。困った事はちゃんと相談すること。ええね?」
「……分かった。ちゃんと、今度こそ約束守るよ、はやて」
「宜しい」

 身体を離し、いつものように頭を優しく撫でてくれる。
鼻の赤みが増したような気がする。何かを我慢しているように感じた。

「あ、ヴィータ」
「うん?」

 少し身体を離したはやて。
まだアタシは何かしっかり顔を見ることが出来なかった。
だから、ほんの少しだけ視線を下げて胸元を見ていたら、名前を呼ばれて顔を上げると、目の前にはやての顔があって――抱きしめられた。

「は、はやてっ!?」
「さっきのはお帰りの抱っこ。これは頑張ってな、応援してる。の抱っこ」
「はやて……」
「ヴィータが決めたことやもん。それなら一家の主として全力で応援したるのが私の役目や。
 ホント言うとな。寂しい、なのはちゃんと所に行ってしまってヴィータが居らんのは寂しいん」
「……うん」
「でも。私のとき、なのはちゃんにはすっごいお世話になった。一生返しきれんぐらいの。
 だから、こんな事ぐらい。こんな時ぐらい、私のワガママ、言ったらバチが当たるわ。うん、そうや」
「ワガママ……ワガママなんかじゃないって。そんなことさ、言わないでくれよ」
「そう言ってくれるんか。ありがとうな、ヴィータ」

 抱きしめる腕に力が込められるけど、全然痛くない。
はやての痛みじゃなくて、優しさが伝わってくる。
これだけ迷惑かけといてさ。随分自分勝手なことだと思う。

「はやて……」

 腕が宙を彷徨う。
抱き返して良いものか。抱き返しちゃったら……アタシが折れちゃわないか。
はやてに甘えちゃったら、駄目になるんじゃないか。
でも、それをグッと堪えて。
今のはやてにアタシは感謝して、お礼を言わなきゃいけない。

「ありがとうってさ、言うのはアタシの方だよ。ワガママ言って迷惑かけて約束破って……それなのにさ」
「そう思ってるなら、次から頑張ったらエエ。一回の失敗で全部駄目になってしまうことない。
 なのはちゃんのこと、一人で背負い込む事ない。私だってお世話になったんやし、それとか抜きに友達なんやもん」

 思い切り抱き返した。
込められるだけの力を込めて、はやてに抱きついた。
腕を通してはやての温かさが伝わってくる。
あの時の嫌な感じが全然しないわけじゃない。
でも、それよりもはやての優しさっていうか、ああ生きてるんだなって。
心臓がドキドキするのも伝わってくる。

「あ、あのさ」
「よし!それならご飯にしよか?もう直ぐシャマルも帰ってくるはずや。さっき連絡あったんよ」
「そうだったんだ。そういやシャマルにも礼を言っておかなきゃいけないんだった」
「ヴィータ。用意はこれからやから、手を洗ってうがいして着替えておいで?」
「はーい、はやて~」

 つっかけを放って台所に向かうはやて。
何だかその後ろ姿に何か声を掛けたかったんだけど、それよりもちゃんと行動で示そうって、口だけじゃなくてさ。
なのはの所に行っても、ちゃんと家に帰ってきて、はやてに……ちょっとぐらい甘えても良いかな。
だけどさ、何をおいても、なのはが目を覚ましたら。
全部はそれからだ。
今度こそ、二度と後悔しないように。みんなに悲しい想いをさせないように。
しっかりアイツを、なのはを守ってやるんだ。
それに、アタシは一人じゃない。テスタロッサもいてくれる。
だからさ。早く目を覚ませよ、なのは。
 
 
 
 
 おしまい。
 
 
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目を覚ましたら 18-2

 
 
「でさ。その次のことなんだ」
「次……っていうと?」
「お前が執務官になったあと。すんげー忙しいんだろ?執務官ってのはさ。一人で出かけたり色々やることあるって」
「そうだね。クロノも結構忙しそうにしてるよ。新しい事件を担当するたびに山のような書類抱えてるもん」
「そうなりゃさ。お前はなのはの側にいられなくなるじゃん。そういう時間がグッと減るだろ」
「うん……どうしてもそうなっちゃうね」
「どうせお前のことだ。なのはと離れている時間長いとさ、もう心配でしょうがねぇんじゃねーの?」
「そ、そんなこと。ない……と思う。だけど、何時までもそうやって一緒に居られるとは思ってないから」
「でもよ。そう思えるまで時間かかるだろうしさ。それにアイツ無茶ばっかするじゃん。だから、いつでも誰かがアイツの側についててやらないといけない」
「うん。言っても聞いてもらえないと思うけど」
「でもさ。誰も居ないよりマシじゃんか。だから、そうやっていられるように……アタシも教官資格取る」
「少しでもなのはの近くにいられるように?」
「……まあな、そういうのもある……ってことにしとく」
「そっか」
「でも、いっつも近くに居られるわけじゃない。アタシはアイツの付き人でもないんでもないんだからさ」
「うん、分かってる」
「そうなるとアタシ達がいないときに、一緒にさ。アイツの後ろを飛ぶヤツを育てておいて損はない。ここにとってもさ」
「どうかな、そういうのは」
「頼りになる部下ってことさ。そりゃ、アイツ自身教導官になるんだからそういうの、自分で育ててくんだけどよ。それをアタシがやったって良いじゃんか」
「ヴィータは面倒見が良いタイプだから合ってるかもね」

 なんだか自分で何言ってんのか分かんなくなってきた。
これはさ、テスタロッサのマッサージと難しいこと考えるから頭がクラクラするのが合わさってるせいだ。
う~ん、やっぱり難しいこと考えるのは性に合わないんだ。

「うん、ヴィータが私より心配性なんだなって思った」
「はぁっ!?なんでそんな話になるんだよ!」
「だって。そんな風に教官になろうなんて考えるのはヴィータぐらいだよ、きっと」
「んぐぐぐぐ……!」
「でも。そんな風にヴィータが考えてるのなら安心かな」
「……あのさ。本当にそうやってアタシに任せて大丈夫なのか?自分でこれだけ言っておいてなんだけど」
「私はヴィータの事、信じてるよ。なのはを心配できる、なのはのことを心から想ってるヴィータのこと」
「……そんならさ。もう一回アタシにチャンスをくれるか?」
「なんの?」
「アタシがさ、なのはの側にいること」
「どうかな。それはなのはが決める事だよ。なのはがヴィータに側にいて欲しいっていうなら、私はそれで良いよ」
「そう言われると……自信なくなってきた」

 マッサージの手が止まり、頭から離れていく。
顔の見えないことが、今度は心配になってきた。今はどんな顔をしてるのか。
怖くて後ろを振り向けないでいると、右を向かされたように肩をがっしり捉まれて後ろを向かされた。
思わず下を向く。
水際のテスタロッサの胸元を視線が彷徨う。
ふ~ん……いや、違うぞ。なにジロジロ見てんだ、はやてじゃあるまいし。

「そんなに弱気なら駄目だよ。もっと自信を持ってくれなきゃ。絶対アタシが守ってやるんだ!ってぐらい言ってくれなきゃ」
「でもよ、今回のことさ。その……」
「じゃあ、ヴィータ。一回の失敗で、それがはやてだったら。ヴィータは辞めちゃうの?」
「なっ!そ、そんな馬鹿なことあるわけないじゃんか!」
「そうだよね。それと同じように。なのはに出来ないかな。それならきっと……なのはも喜ぶと思うな」
「……」

 本当にさ、テスタロッサはなのはのこと。大切に想ってるんだな。
だから、いつも自分がじゃなくてなのはが、なんだよ。

「でもよ、こんなこと。お前にしか言わない。はやては知ってるかもしんねーけどさ」
「うん」
「だからさ。テスタロッサが本当はどう思ってるのか、知っておきたいんだ」
「そっか……じゃあ、正直に言った方が良いね」
「ああ」

 やっぱり視線を上に、顔をまもとに見せることが出来ない。
微かに波打つ水面をジッと見つめたまま、テスタロッサの次の言葉を待った。

「私はね。今度こそ、絶対に守ってやるんだって言ってくれるなら。それで良いと思ってる」
「良いのか!?そんなんで良いのかよ?」
「うん。だって、それは私と想いを同じにするってことだもん。ヴィータが私と同じような想いを秘めているなら、嬉しい」
「テスタロッサ……」

 思わず上げた顔に、目に映ったのはテスタロッサの笑顔だった。
すっげー良い顔してた。
まだまだ付き合いが長いってわけじゃないけど、顔見知りになってからそれなりに時間は経ってる。
それでも初めて見るような笑顔だった。
言葉には上手く言い表せないのが悔しいけど、なんて言うか、喉の奥にひっかかったモノがストンと腹の奥に落ち込んでいくようなホッとする笑顔だった。
そんな顔を見て、やっぱりテスタロッサのためにも何かしてやりたいって。
この笑顔を、あんな風に曇らせたくないって思った。

「分かった。こんなことさ、言えた義理じゃないっていうか。言い難いけどさ」
「うん」
「絶対に、今度こそなのはを守ってみせる。陸でも、空でも。どこでだって。なのはと一緒にいる限り。絶対に」
「うん。それなら私から言うことは何もないよ。なのはの側にいてあげて」
「それでさ、テスタロッサがちゃんと心配しないで、執務官の仕事をこなせる様に。なのはの側にはアタシがいるから」
「私がいなくても、ヴィータがいてくれるなら安心だな。きっと、なのはも大賛成だと思うよ」

 ぽん、ぽん、と軽く頭を撫ぜてくれる。
普段なら子ども扱いすんなーっていうところだけど、今日だけはそんな悪い気はしなかった。
 
 
 
「すっかり長湯しちゃったね。髪を乾かす前に何か買おう?」
「なに飲むとすっかな~」

 脱衣所で髪の毛の水分をタオルに吸わせる。
すんげー吸水性が高くって軽く当てながらしてるだけで、かなり乾いちゃうんだ。
髪にも優しいっていうから、はやても売店なんかで買ったヤツを持って帰ってきた。良いのかな、そんな事して。

「う~ん……すっきりしたのかな、それともスポーツドリンクかな」
「アタシはシュッとしたのにするぞ」
「私は駄目だから、やっぱりスポーツドリンク系にしようっと」

 スイッチをポンと押すと、中がガタガタいって缶ジュースがゴトンと落ちてきた。
全くもってローテクだ。日本と全然かわんねー。もっと凄い感じに、てくのろじーを感じられるのにしてくれよ。

「ん、ん、ん…………プハァッ!うぃ~、この喉の奥がチクチク~ってすんのが良いよな!」
「ん、ん~……ふぅ。よくそんなに勢いよく飲めるね、炭酸」

 そんなマジマジと人の顔を見るなよ。

「んじゃさ、テスタロッサ。もう帰るわ」
「もう帰っちゃうの?もう少しゆっくりしていったら良いのに。まだお風呂あがったばっかりだよ」
「うぅ~ん……」

 なんて言うかさ。
やっぱりああ言うことって勢いで言っちまうもので、こうやって冷静になると恥かしくて堪らない。
一早くテスタロッサから離れたい気分になってきたんだ。

「ねぇ、ヴィータ」
「んぐ。どうしたよ」
「あのね。どうして急に私に執務官になれっていうの?」

 危ねぇ。飲み込む前にこの質問食らってたら噴出してたところだったぞ。
なんだよ、そんな不思議そうな顔でアタシを見るなって。
それにまた答え難いことを、さらっと聞くんだしよ。

「えっとよ……言わなかったっけか」
「ごめん、忘れちゃった」

 済まなそうな顔。
そりゃ忘れるのは悪いかもしれないけど、度が過ぎるんだよ。
そんな悪いことじゃなくても、心底悪そうな顔をするんだ。気にしすぎだって。
あー、しょうがねぇ。こんな顔されたんじゃ無視できないじゃん。

「あの、えっとさ。もしさ、お前が執務官になれなかったりしたらよ。なのはのヤツが……責任感じちゃうだろ」
「うん」
「だからさ、そういうの。なるべくなくしたいんだ」
「そっか、そうだね。やっぱりそういうの、ヴィータは優しいね」
「……ふん。そういうんじゃねーって」

 それとさ。今回のこととは別に、テスタロッサのしたいことを応援したいっていうか、手伝える事ならしてやりたいって。
だってさ……テスタロッサ。良いヤツじゃん。その……はやて並に。
でもさ、こんなことは流石に言えない。恥かしすぎる。
こればかりはバレないように、黙っていよう。

「じゃあな。アタシは帰る」
「私は荷物を取って、それからだね」
「ここでお別れだな。テスタロッサ」
「うん、またね。ヴィータ」
「ああ、またな」

 自販機の横に据えられたゴミ箱に空き缶を投げ込むと、一足先にその場を後にした。
 

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目を覚ましたら 18-1

 
 
 
「良かったね。対応するシャンプーやトリートメントがあって」
「ああ、まさかこのまま禿げなんてイヤ過ぎるぜ」
 テスタロッサに手を引かれ大きな浴場に放り込まれる。
帰ってくるまでに頭皮や髪についた薬品を徹底的に洗い流すように言われた。
くっそー。何だか怪しいと思ってたんだよな。あの蓋の周りに液がコビコビについたボトルを見てさ。
前に使ってたヤツもちゃんと捨てとけって言うんだ。
お前が生皮したおかげでアタシはこの年でハゲになるところだったんだぞ。
そうやって一人ブツクサ文句を垂れながらシャワーを流しっぱなしにして、頭をガシガシ洗い流した。
一日に二回も風呂に入るぐらい、管理局に入ってからは何度かある。
出動が間をおいて2回あって、2回とも泥まみれになるとか、そういうのな。

「どうだ?綺麗に洗い流せてるか?」
「どうかな、ちょっと待って……うん。赤くもなってないし大丈夫だよ。きっと古くて抜けてたんだね」
「ああ、随分と長い間放ってあったみたいだからな」
「髪の毛も見る限り大丈夫そうだし、うん。あとは丁寧に毛先までよ~っくつけて終わりだね」
「直ぐに洗い流さないのか?」
「うん。つけてから少しおいておくと効果が抜群なんだって」
「ふ~ん……じゃあ、テスタロッサのはアタシがやってやるよ」
「えぇ?良いよ、自分で」
「出来るのか?」
「で、出来るよ!このぐらい、自分で出来るったら」
「そうか?なのはのヤツは"フェイトちゃんは一人で洗えないから洗ってあげてるんだよ~"なんて言ってたぞ」
「もう、どうしてそういう事言うかな、なのはは」
「さてな。アタシははやてにして貰うけどよ、自分で出来ないわけじゃねーしお前の手伝いはいらねーって言ってやったんだ」
「そしたら?」
「ふーん、って言ってた。一体何なんだよ、全く」
「……それはね、ヴィータ。なのはは、ヴィータの髪の毛を洗ってみたかったんだよ」
「はぁ?なんだそれ。そうならそうと素直に言や良いじゃねーか。まあ、言ったところで触らせないけどよ」
「きっと恥かしかったんだよ。直接言うのが」
「へっ、アイツに恥かしいとか勘弁してくれ」
「そうかな。だって、なのはは本当に一番のところは言わない気がするから」

 頭の天辺や後頭部とか、アタシの手の届かない所はテスタロッサがしてくれる。
だから髪の毛の先とかは自分でやるんだ。量が多いし、自分の髪の毛なんだ。ちゃんと自分でしなきゃな。
そうやって頭の上で喋るテスタロッサは、下らないことを言う。
アイツが恥かしがって言わないって?へへん、そんなことあるわけないじゃんか。
そうそう、あるわけない。あるわけ……ないよな。うん、なさそうだ。ないと……思うぞ。

「その顔。思い当たる節があるみたいだけど?」
「っ!ね、ねーです。何にも思いつかねーです。ほら、こんな事言ってないで早く済ませようぜ。お前のもあるんだからよ」
「うん。そうだね」

 自分で否定しながらも考えているうちに思い当たる節がない事もなかった。
でも、それは…………アタシにとって今は余り思い出したくない場面であって、テスタロッサに言うのは憚れた。
だから見え見えの誤魔化をした。
こういうところ、テスタロッサは気が利く。なのはとは大違いだ。
なんでこの二人が親友やっていられるのか分からない。
ここだけとっても気が合わなそうな気がするんだけどよ。

「大体出来たんじゃないかな。それじゃヴィータ、その……お願い出来るかな?」
「おう。任せとけって。はやての頭を洗うこともあるアタシの腕前を見せてやるぜ」
「うん、楽しみにしてるね」

 立ち上がって場所を交代。
変チクリンな形をした椅子に腰を下ろすテスタロッサ。どうだ、温めておいてやったぞ。
胸元辺りに来る頭を前に、改めて髪の毛の状態をマジマジと見つめる。
随分荒れてんな~、バサバサじゃねーか。
アタシと違って汚れとか最低限してるだけ、まだマシだけどな。

「それ。髪の毛が濡れちまう前に梳かすぞ。ん、ブラシだ」
「ありがと、準備が良いんだね」
「まあな。アタシも大概だけどお前も多いからさ、早くしないと身体が冷えちまう」

 毛先に行くにつれて櫛の通りが悪くなる。ギチギチと絡まって何ともならない。
ここで乱暴にしてしまうと余計に悪くしちまうからな、ここは辛抱強くするしかない。

「待てよ?櫛通りをよくする何かないのか?ちょっと待ってろよ、探してきてやる。良いな、お前はそのまま続けてろ」
「あ、……うん、分かった。お願いね」

 珍しく素直に従う。どうやらテスタロッサは少し強引なぐらいが良いらしい。
うん、少しあの二人が上手くやっていけてる理由が分かった気がした。アイツ、なのはは強引だからな。
 
 
 
「よいせ!……ふぅ~。気持ち良いなぁー!」
「うん、とっても。とりあえず、これ。しっかり浸透するまで温まっていようね」
「んー。そうだな、すっかり冷えちまったしよ。これで風邪引くようなことあったら意味ねーし」
「あと5分もしたら、今度はしっかり洗い流して乾かして、それで……」
「……悪ぃな。アタシはますはやてのところに行く」
「約束?」
「そんなところだ。そんで一言、言っておかなくちゃっていうか。言いたいことがあるんだ」
「そっか。なら……待ってるね」
「おう。ちょっとだけ、待っててくれ。直ぐにさ、戻ってくる」

 黙って頷いてくれた。
実は今さっき思いついたことなんだけどさ。
なのはとテスタロッサのことを見て、自分が思っていたのよりもずっと腰を据えなきゃいけない気がした。
だから、これからすること。
ちゃんとはやてに許可をもらって来なくちゃいけないし、シグナムやシャマル、ザフィーラにも一言言っておかなきゃならない。

「あのさ、テスタロッサ。これからの事なんだけどよ」
「うん、なのはが目を覚ましてからのこと、だね」
「ああ。ホントに詳しいことはシャマルとかに聞かなきゃ分かんなーけどよ。多分、状況は悪い」
「…………」
「だから大変なのはこれからだ。もし、状況が良かったとしても復帰までには時間が掛かる。それまでのフォローを」
「私たちで。それに今日まで迷惑かけた分、取り戻さなきゃいけない」
「二人分、いや、三人分は動かなきゃいけないようになる」
「うん、私もそのつもりだよ」
「その為にもしっかり体調を整えておかなきゃいけない」

 じっくり肩まで湯船に浸かる。
湯船から上がる湯気がゆらゆらと視界を覆い、汗とも何とも形容しがたい雫が顎に伝って落ちる。
頭に髪に、じわじわとトリートメントが染み込んでいく感じがする。
頭はともかく髪の毛のことなんて感じられるはずないんだけど、何だかそんな気がした。

「そろそろ時間だな」
「どうかな。もう少し待ってようよ」
「あ、ん……」

 頭をタオルでグルグル巻きに、こんな風にしてる髭を生やした人をテレビで見たな。
どっか別の国の人がそうしてた。風呂にも入らないのに変なのって思ってたのを思い出したり。

「……あのさ。テスタロッサ」
「どうしたの?」
「あのさ、えっと……」

 さっきも言った事だから改めて言うのも、なんていうか恥かしいって言うか、そんなんだけどさ。
自分に言い聞かせるためにも、もう一度テスタロッサにちゃんと聞いておいて欲しかった。
だけど、やっぱり一度冷静になっちまうと恥かしさが上回って、なんとなく……言い出しにくい。

「ねぇ、ヴィータ。頭、マッサージしてあげる」
「え?マッサージ?」
「うん、頭皮に上手く染みこむように。大丈夫、ちゃんとそういうのを買ってきたから」
「お、おいおい。あにすんだよ?」
「はいはい。後ろ向いて。前からじゃやり難いでしょ?」

 肩をつかまれ無理矢理背を向けさせられる。
後ろを向こうとしても頭をがっしりと両手で押さえられて動かす事も出来ない。
結構、力あるんだな。
仕方なく観念すると、タオルの上から頭を揉み揉みし始める。
おお、気持ち良いな。今度はやてにもしてやろうっと。

「どう?ヴィータ。気持ち良いでしょ」
「う、うん。こういうの初めてだけどさ、上手いのな。テスタロッサ」
「ありがとう」

 全く前を見てるから、どういう顔をしているのか分からない。
でも、そのお陰でテスタロッサの反応を余り気にせず話すことが出来そうだ。
頭を揉み揉みされた気持ちよさにクラクラしながら、一つ。深く胸いっぱいに空気を入れた。
湯船から立ち昇る湯気はむせ返るように熱かったけど、鼻の奥がすーっと通るようにも感じて嫌いじゃなかった。

「あのさ、さっきも言ったことなんだけどよ」
「うん、なに?」
「こうやって落ち着いて、もう一回。ちゃんと言っておきたいんだ」
「分かった」
「テスタロッサは執務官になる。絶対だ」
「うん、そのつもりだよ」
「そのためにはいっぱい勉強しなきゃいけないんだろ?クロにょが言ってたの聞いたことある」
「うん。1回や2回じゃ受からないみたいだね」
「それでもお前はさ、なのはの事が心配で身が入らないかもしれない。ううん、入らない」
「……ヴィータは私のこと、よく分かってるんだね」
「ばーか。そんなの誰だって分かるよ」

 苦笑いしているのが目に浮かぶ。
そうさ。お前がなのはの事をどれだけ大切に思ってて、今回のことで神経すり減らしてるのか。みんなが知ってるんだ。
 
 
 

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目を覚ましたら 17-4

 
 
「……教官資格をとる!今度こそ、ちゃんと約束を。なのはとの約束を守れるように自分を鍛えなおす!そんで教官資格を取る!」
「どうして?」
「あのさ。アタシもいつもなのはの側にはいてやれない。
 特にテスタロッサもさ、執務官になったら一緒にいられる時間は少なくなると思うだ。
 だから、アタシ達の他にも側にいてやれる強いヤツが必要なんだ。
 こればっかりは悔しいけど仕方ない。ホントは人になんて頼りたくないけど、数は多い方が良い」
「それはそうだけど」
「聞いたんだ。ここは教える側の人間が少ないって。だからアタシがそっちになって徹底的に鍛えてやる。
 アタシ達が側にいないときでも、なのはが安心して空を飛べるように、一緒に空を飛ぶヤツをアタシが鍛えてやるんだ」
「ちょっと……突飛だね」
「いま思いついたんだから仕方ねぇよ。
 でもさ。なのはを守ってやれてテスタロッサが安心して執務官を出来るようにする。それにはこれしかないって思ったんだ」
「…………」

 流石に突飛すぎたか。
ぽかーんとした顔をしてる。
でもさ。言っちまったもんは仕方ない。
これは押し通すしかない。

「だからさ。テスタロッサは気にすることなく執務官を目指せ!全力で!
 そんで、一番になのはに教えてやるんだ。やっと執務官になれたよって。そんで安心させてやるんだ。
 その間のことはアタシに任せてくれ。信用ないかもしんないけどさ、なのはのこと。アタシに任せてくんないかな。
 それにさ。何時までも泣いてばかりのテスタロッサは……見てたくないからさ。ちゃんと出来るようにしてやりたいんだよ……」
「……うん。分かった。ヴィータになら任せられる、なのはのこと。ヴィータなら私、信用できるから」
「……ん。ありがとな、テスタロッサ」
「えへへ。なんでかな、また涙が出てきちゃった」

 笑いながら。笑いながらポロポロと大粒の涙を流す。
それを見てたら何でか知んないけどよ。アタシまで鼻の奥がツーンとして目の前が滲んできやがった。

「ヴィータ!」
「うわ!な、なんだよ、急に抱きつくなよ!」
「だって、だって!何だか分からないけど、ヴィータが私のこともそうやって想ってくれるのがすっごく嬉しくて!」
「ば、バカ!勘違いすんなよ!別にテスタロッサのことを心配してるんじゃないからな!」
「えへ、えへへ。そうだったね、なのはのためだもんね」
「も、もう勝手にしろって!」
「うん。勝手にさせてもらうよ」

 アタシを抱きしめるテスタロッサの腕には、いつも通りとまではいかなくても、しっかりと力が戻ってた。
ぎゅうぎゅうと痛いほど抱きしめてくる。
でも、全然イヤじゃない。
だからアタシも抱き返してやった。
シャマルに、桃子さんにしてもらったように思いっきり抱きしめてやった。
アタシが安心を分けてもらったように、テスタロッサにもそれを分けてやりたかったから。
 
 
 
 
 
「ごめんね、ヴィータ。心配かけて」
「もうそれは言いっこなしだって」
「うん、そうだったね」

 どのくらい、ああしてたか分かんないけど結構長い間してた気がする。
抱きついて肩に顔を乗せたテスタロッサが、いつまでも泣き止まないもんだからさ。
……まあ、アタシもつられて泣いてたからちょうど良かったんだけど。

「お、なんだ?シャマルから連絡だ。え~と……もうすぐこっちに来るってよ。担当医を連れて」
「そっか。分かった」
「さて、テスタロッサ。ちょっとその髪の毛どうにかしないとな」
「髪の毛……?」
「枝毛も酷いし、キューティクル取れてメタメタになってるぞ。そんなんじゃ、なのはが起きたときガッカリするぞ」
「う、うーん……そう言われると結構酷いかも」
「んじゃさ。一回風呂に行こうぜ。髪の手入れしないとな」
「ヴィータはどうなの?そういえば、いつもと髪型違うし」
「ん、あー。これか」

 後頭部で一本に括った髪の束を弄ぶ。
なんだかギシギシするな。頭もまだ痒いし。なんでだろ、ちゃんと洗ったのによ。

「久しぶりに髪の毛洗ったらよ。髪の毛がスゲー事になっちまって、それで」
「へー。どんなシャンプーで洗ったの?」
「え~っと、なんだったかな……確か"朝の忙しいときにもこれで一発!"~何とかってやつ」
「えーっ!?」
「な、なんだよ!」
「それって数年前に発売中止になったヤツだよ!」
「マジかよ!またなんでさ」
「確か汚れを取れるには取れるんだけど、強力すぎて髪の毛まで溶かしちゃうってそれで……」
「ま、マジか……!」
「は、はやくお風呂に行って洗い流さないと!髪の毛全部なくなっちゃうよ!?」
「た、頼むテスタロッサ!何とかしてくれ!」
「うん、わかった!じゃあ、ヴィータは急いでお風呂に行って!私は売店で何か効くもの買ってくるから!」
「頼んだぞテスタロッサ!」
「うん!」
「ひ、ひぇ~!なんでそんなもん置いておくんだよー!」
「なのはの好きなヴィータの髪の毛、ちゃんと私が守ってあげるね」
「ば、ばーか!お前はなのはの事だけ心配してれば良いんだよ!」
「えへへ。そういうわけにもいかないよ。だって、なのははヴィータのことが好きなんだから」
「アタシは別になんともねーって!」

 テスタロッサと一緒に病室を出る。
こんな風に走ったりするのは久しぶりだった。
アタシを引っ張ってってくれるテスタロッサの手はとっても温かい。
なのはが目を覚ましたら、きっとこの手が一番にアイツの手を握るんだろうって思う。
それで良いんだ。それで二人が笑顔でいられるようにしてやるんだ。
そう。なのはが目を覚ましたら。
 
 
 

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目を覚ましたら 17-3

  

「ねぇ、どうなの?ヴィータ」
「う、うぅー…………あ、ああ。分かったよ」
「なにが?」
「うぅーー!そうだよ!アタシはアイツに、なのはに好かれてるって思ってるよ!アタシだってなのはの事が好きだよ!」
「……そこまでは聞いてないよ」
「ひぇっ!?」
「でも、なんだか嬉しいな。ヴィータはなのはの事を好きなんだって分かって。素直に言えるんだってことが」
「な、なんでそれが嬉しいんだよ」
「だって。自分が好きな人が一人でもたくさんの人に好きだって言ってもらえるなんて素敵なことだよ」
「なんだそれ……そんなの、ライバルが増えるだけじゃん」
「そうじゃないよ。そんな取ったとか取られたとか。それだったら、ヴィータは私がなのはを好きなのは平気なの?」
「……へ、平気さ!そんなの全然アタシには関係ねーもんな!」
「どうしてそんなに私のことは認めてくれるの?」
「いや、それはなんていうか、その……」

 ここまで言ったんだからって、思わないこともないけど。
やっぱり流石にそれは、その……恥かしくて言えるわけねぇよ。
"なのはの隣にはテスタロッサが一番似合ってる"なんてさ。

「やっぱり。ヴィータが羨ましいかな」
「な、なんだよ。まだそんな事言ってんのかよ」
「だって。私の方が一緒にいる時間が多いのに、ヴィータの方がなのはの事をいっぱい知ってんだもの。
 私の知らないなのはのこと、いっぱい知ってるんだもん。羨ましいっていうか、その、えっと……嫉妬しちゃう」
「……お、お前はさ。そのぐらいで良いんだよ。良い子過ぎるんだから、ちょっとぐらい他人を羨ましく思ったりするぐらいでちょうど良いんだ」
「じゃあ、ヴィータがそうあってくれるの?私がその、羨ましく思えるようにいてくれるの?」
「う、うぅ……」

 真っ直ぐアタシの目を見るなって。
こういう時。テスタロッサの長所が悪いほうに出てる気がする。
悪気がないのは分かってるんだ。テスタロッサがそんなことする訳ないって分かってるんだけどさ。
だから逆に困る。
純なテスタロッサを傷つけるわけにはいかないし、それに上手く誤魔化せるほど賢くもないし。
もう、どうしたら良いんだよー!

「……ったよ」
「なに?聞こえなかった」
「……わーったよ!もう何でも良いよ!お前の好きなようにしたら良いだろ!」
「分かった。じゃあ、これからも一緒になのはを好きでいようね」
「ぐあー!もう勝手にしろー!」

 頭がムズムズするし、もうどうしようもなくて思わず頭を掻き毟る。
なんでだよ、なんでこんな逆にアタシが追い詰められなきゃいけないんだようー!

「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
「そんな興奮しなくても。なのはが好きってそんなにドキドキするの?」
「(こいつぅ。やっぱズレてんだよな)そんなんじゃねーですよ」
「……えへへ、そっか」

 まだ目も腫れてるし、涙の跡も当然残ってる。鼻の頭も赤い。
それでも、テスタロッサが笑ってくれた。
いつもほどじゃないけど、笑顔を見せてくれた。何だか照れたように控えめに。
その笑顔を見て。やっぱり、いつまでも泣かせたままじゃ駄目だなって思った。
なんて言うか。何かしなきゃなって、思った。

「あのさ、テスタロッサ。話は変わるけどよ、執務官になるのはどうなったんだ?」
「執務官?う、うん。そのことなんだけど、やっぱりなのはがこのままじゃ私……」
「やっぱりな。そう言うだろうって思った」
「うん……」
「えっとさ。実はさっき桃子さんと士郎さんに会ってきたんだ」
「うん。ここにも今までいたんだよ」
「そこでさ、言われたんだ。なのはが目を覚ましたときのことを考えて欲しいって」
「目を、覚ましたとき?」
「そう。それでさ、言ったじゃんか。お前が笑顔だったら、なのはも起きてくるって。だから、テスタロッサが笑顔でいなきゃいけない」
「笑顔……」
「でもさ、なのはのことが心配だろ?それで笑っていられないとか、執務官の試験も上手くいかないとか……
 そんなんじゃ、なのはが責任を感じちまう。このことで、アタシ達が参ってちゃ、またなのはの具合が悪くなっちまう。
 だからさ、その、えっと、なんて言うか。その……なんだ。あれだよ、あれ」
「? なあに?」
「テスタロッサが安心して試験に挑めるように、その間のことはアタシに任せろよ。
 なのはのこと、これから色々大変だけどよ。出来るだけのことはアタシがするから。
 お前は執務官試験に専念しろ。な?そりゃ、なのはの事をアタシには任せられないっていうなら仕方ない。
 今だって約束を、その……守れなかったばかりだからさ。テスタロッサが駄目だって言うなら……もっと努力する。
 お前がなのはのために頑張ったようにアタシも頑張るからさ。だから、なのはのことはアタシに任せて、ちゃんと試験に受かれ」
「ヴィータ……」
「そんでさ。お前が試験に受かったら執務官の仕事が多くなって大変なんだろ?クロニョ見てると大変そうだからさ」
「クロノだよ」
「ん、おほん。それだとテスタロッサも、いつもなのはを心配してるわけにはいかないだろ?
 でもさ。お前のことだから、きっといつも心配で、なのはが無茶してないか気になってしょうがないかもしれない」
「うん……確かにそうかも」
「だからさ、なんて言うか、えっと……」

 桃子さんと士郎さんに言われてから、まだ時間はちょっとしか経ってないけど。
自分には何が出来るんだろうって思ってた。余り考える時間はなかったけどさ。
それ。今思いついた。
今思いついたって言うと何だかいい加減な感じするかもしれない。
けどさ。そうなんだから仕方ない。
テスタロッサの笑顔を見たら、なのはの好きなテスタロッサのために何かしてやりたいって思った。
テスタロッサが笑顔なら、なのはだって安心できるはずだ。
だから、桃子さんと士郎さんに言われた事。

"なのはが目を覚ましたときに何が出来るか"

それのために、テスタロッサが安心出来るように。それでいて、なのはの為に出来ること。
 
 
 

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目を覚ましたら 17-2

 
 
 「でも、だって、なのはは私のことを……名前を、呼んで……呼んで……!」
「そ、それはだな……そうだ!さっきアタシはアイツの事を呑気に寝てるって言ったよな!?
 あれはだな、お前をちょっと困らせてやろうって。そうだ!何時もみたいにちょっと心配させてお前の困り顔が見たかっただけなんだよ!
 それでさ、なんて言うか。ちょっとそうするだけのはずだったのに、あんまりに大事になっちまったからよ。それで起きられないだけなんだ。
 元々大した怪我じゃなかったんだ。血がさ、ちょっと沢山出ちまったからビックリしただけで、ホントは大したことなんてなかったんだ!」
「そんなこと……そんなことないよ……!」

 震えの止まっていた手が、再び震えだす。
腰を掴んだままの手に力が込められる。
でも、その震えはテスタロッサのモノじゃなくて、自分自身のモノかも知れなかった。
正直この話はしたくない。
今だってアタシの腰に込められるテスタロッサの手の重みが、あの嫌な感覚を思い出させる。
背中に、脇に冷や汗が流れ落ちていってるのが分かる。
それでも、また、さっきと同じことになるかもしれないけど、そんな事言ってる場合じゃない。
身体の震えをグッと噛み殺しアタシは続けた。

「だってよ、お前だって知ってるだろ?アイツの頑丈さをさ。あんなくらいで何とかなったりするもんかよ!」
「知ってる、知ってるからこそ……なのはがこんなになるなんて……」
「だ、だから大したことないんだって!
 そ、そうだ。お前だって桃子さんと士郎さん知ってるだろ?あの二人が言ってたんだぜ?
 私たちの娘なんだから、あのぐらい何ともないって。あれぐらいじゃ死んだりしないって。ちょっと怪我が酷いだけだって!」
「……で、でも」
「だからさ。ホントは大したことなくて、ちょっと驚かせようとしただけなんだよ。
 だから、だから!お前のことを呼ばなかったんだ。こんな大事になると思わなかったから、お前の手を煩わせることないって思ったんだよ!」
「そ、そんなこと」
「今だってそうだ。きっと、この衝立の向こうでお前が心配してるの見て、ベッドの中でニヤニヤしてんだ!」
「そんなことないよ!だって、先生だって重態だって、後遺症が残るかもしれないほど酷い怪我だって言ってたもん!」
「ば、バカ!そんなヤブ医者の言う事なんて信じるなよ!
 桃子さんが大した事ないっていう怪我をそんな大げさに言うぐらいだからな、きっと大ヤブのはずだ!
 じゃあ何か?お前は桃子さんよりも、あんなヤブ医者の言うことを信用するって言うのかよ!アタシは絶対に信じないぞ!」
「そ、そんなの……私だって」
「だったらそうすりゃ良いじゃんか!アタシはそうする!
 なんだ、まだ何か言いたいみたいだな。
 アレか。次はこの周りに置いてある機械が何ともないって言うのか?
 残念だな。アイツの猫かぶり振りは大したもんだ、こんなポンコツ騙すぐらい大したことないぜ!朝飯前の朝練前ぐらいだ!」
「そ、そんなの、ないよ……」
「だから、桃子さんと士郎さんが言うんだから確かだ!大したことなかったんだって!
 そうだからよ、お前を、テスタロッサを呼ばなかったのはビックリさせるためだったんだって!
 本当に大したことなかったから呼ばなかったんだって。ホントに大変だったら絶対呼んでた!
 大したことなかったからさ、アタシで良いやっていう判断だったんだよ。
 賭けたって良いぞ、アタシの、アタシのおやつ一生分を賭けたって良いぞ!
 そんでさ、どうしようもなくなってその内起きるからな、アタシにバレちまったからな。
 そうしたらバツが悪そうに言うんだ。
 "ちょっと驚かせちゃったの"とか!悪びれもなくいうぞ、そんでお前を驚かせられなくて残念そうな顔するんだ!」

 もう言ってることが無茶苦茶だ。
流石にこれはあり得ない。
それでも、今のテスタロッサにはこれぐらいでちょうど良いんだ。

「みんながあんまり深刻にしてるもんだから起きられないんだよ。その辺はアイツでも常識あるだろうからさ」
「……じゃあ、どうしたら……私に、何が出来るの?」

 腰を掴む手に上から重ねて、しっかりと握りアタシもしゃがみ込む。
座り込んでるからこれで頭の位置は大体同じだ。
握った手はとても冷たかった。
血の気がなくて、芯まで冷えているようで、まるであの日のアイツみたいだ。
こんなのじゃいけない、こんなじゃないはずだ。
いつだったかアイツを探し回るために握ったテスタロッサの手は、ひんやりと冷たかったけど、それでいて温もりを感じさせた。
優しい、はやてとはまた違った優しさを感じさせて、ちょっとだけほっそりしてたけど、それでも握ってて気持ち良い手だった。
それなのに。
今は芯まで冷えているような、温かみを感じさせない上に指や手が節だっていて、アタシの記憶にあるテスタロッサの手じゃなかった。
そんなテスタロッサに重ねた手に力を込める。
ちょっと痛いかもしれないけど、内向きなことばかり考えてるテスタロッサに、外を向かせないと。
目の前に居るアタシを意識して欲しかった。

「お前はさ、テスタロッサ。笑っていれば良いんだよ。いつも通りにさ。照れ笑いみたいなので良いから」
「いつも……みたいに?」
「そうだよ。深刻な雰囲気じゃなかったら起きてくるって。今回は失敗したなってさ」
「ホントに……?」
「意地悪されてさ、その後にお前ってば照れたように笑うじゃんか。それが好きなんだよ」
「なのは、そうだったんだ」
「なんでお前全然気づかないんだ?アタシより付き合い長いんだろ?」
「だって……そんなこと言ったって……」
「そういや、アイツの意地悪に気づかないぐらいだもんな。なあ、お前ってどうしてそんなに鈍いんだ?」
「……知らないよ、そんなの」
「とにかく。今みんながいつも通りにしてるように、テスタロッサもいつも通りにしてりゃ諦めて起きてくるって」
「本当……?」
「ホントだって。それにさ、テスタロッサがそんなんじゃ安心して起きてこられねぇよ」
「なんで?」
「さっきも言ったじゃんか。あんまり真に受けて落ち込むもんだから起きるタイミングを見失ってるだけなんだって。
 そうだから、テスタロッサがいつも通りにしてりゃ諦めるし、起き易くもなるんだって。アタシのおやつ賭けるって、自信あるぜ」

 ずっと俯いたままで、旋毛と前髪だけを見せていたテスタロッサがゆっくりと顔を上げる。
目の周りをまた真っ赤にして、目尻からは涙の跡が頬を伝ってるのがはっきり分かる。
鼻も赤くしてる。
それでも、今日、さっき見たときみたいにどこを見ているのか分からない目じゃない。
いつもアタシが見てきたのには遠いけど、それでも少しだけ深紅の瞳には力が宿っているように感じた。

「あのさ。さっき、約束が守れなかったって、そう言ってたろ?一回目はさ、その……あれはアタシが悪かった。言い訳はしねぇ」
「ううん、あれは……誰も怒ったりしないよ」
「それに今回のこと……それだったら約束を破ったのはアタシの方だったんだ。約束したんだ。守ってやるってさ。それなのに、それなのに……」
「ヴィータ……」
「ホントだったら約束を破ったアタシが悪いんだ。自分から言っておいてさ。いざとなったら何にも出来ない。
 気づかなきゃいけなかった。アタシが何とかしなきゃいけなかったんだ。それなのにさ、なんて言うか、その……」
「ねぇ、ヴィータ」
「一番大変なときに逃げ出したりしてさ。自分じゃ何にも出来ねぇの!
 みんなに頼ってばっかりでさ!はやてにもシャマルにも心配かけて、武装隊の連中にも迷惑かけてさ!
 挙句にはテスタロッサがこんなになってるのに、それでもアイツのところに毎日来てたっていうのに!
 それなのにアタシは一人で閉じこもって、めそめそ泣いたりして!
 今日だってここまで来るのに、一人の力じゃ何にも出来なかった。
 色んな人に背中を押されて発破をかけられて、桃子さんと士郎さんに慰めてまでしてもらわないとここまで来れなかった!」
「そ、そんな。そんなこと……」
「テスタロッサが自分を悪く思うことなんて何にもない!責任を感じることなんて何にもないんだ!
 だからさ、アタシが憎いとか羨ましいとか何か思うことがあったら我慢しないで、押さえつけたりしないでぶつけてくれりゃ良い。
 こういう時我慢は良くないんだ。全部ぶちまけて楽になるならそれが良い。アタシにぶつけたら良いんだ!
 それだけのことをしたんだし、何も出来ずに約束を破ったんだからしょうがない。当然の報いってヤツなんだ!」

 こういう事は良くないって。
散々シャマルとユーノに言われたのにさ。
やっぱりアタシは駄目だな。全然反省してない。
こんな風に。あの日から逃げてばっかりだ。これじゃあさ、約束を守れなくて当然だ。
アタシにはそんな事出来っこなかったんだ。

「……そんな事ない。そんなことないよヴィータ」
「…………」
「だって。私のところに来てくれた。自分のことを、なのはのことを信用できなくなってた私のところに。
 私の知らない、私の気づかなかったなのはのこと。いっぱい教えてくれた。
 私に。なのはの事を信じさせてくれた。
 ヴィータが、なのはは私のことを好きなんだって、教えてくれた。
 ちゃんとヴィータはなのはの事を見てる。私より詳しいぐらい。
 全然気づかなかった。学校で、放課後に、休日に一緒にいるのに気づかなかったなのはの事。いっぱい教えてくれた」
「……テスタロッサ」
「それだけでも。私にとってヴィータは悪い子じゃない。私の好きな、なのはの好きなヴィータは悪い子じゃないよ。絶対に」
「あ、いや。アイツはアタシのことなんて、その」
「さっき言ってたじゃない。意地悪するのは好きな証拠だって。私にそのことを気づかせてくれたのはヴィータだよ」
「んが、んぐ」
「だから……私はヴィータの事を信じる。ヴィータは悪くない」
「そ、そんなことねぇって!お、お前はあんなになったのを見てまで、そういえるのかよ!」
「だって。ホントは大したことないって。黙って寝てるだけだって言ったのはヴィータじゃない」
「ああ、いや、あれはなんて言うか、その。なんだ……」
「ヴィータは、なのはが好きだからショックだったんだよ。ショックで自分がどうにかなっちゃったのは仕方ないよ」
「だ、だから別にアイツのことなんて!」
「だって。意地悪するのは好きだからなんでしょ?それをヴィータは認めてるんでしょ?」
「み、認めるとか、そんなじゃ、なんて言うか」
「私にはなかったのに、ヴィータは自分がなのはに好かれてるって自信があったんだ」
「な、ない!ねーったら!アタシにはそんな自信ないぞっていうかそんなの知らねぇって!」

 な、なんなんだ一体。いきなり強気になったぞ?
どういうことなんだよ、さっきまでの今にも消え入りそうな弱々しいテスタロッサはどこ行っちまったんだよ!?

「そうなの?さっき言ったことはウソだったの?」
「う、うぅ……」

 涙目になるんじゃねーって。
頼むから泣かないでくれ。
確かに元気付けるためにちょっとウソっていうか、適当に喋ったけどよ。
そんな真に受けないでくれって。
なんていうか、その、ウソも方便って言葉かあるんだろ?日本にはさ。
駄目か。テスタロッサは日本人じゃないもんな。
でもさ、学校に言ってるんだからそんなのぐらい習ってるだろ。
あーあー。どんどん目に涙を溜めやがって。
駄目だ、また泣く。
そんな不安そうな顔すんなって。眉毛を下げるな。泣きそうな顔するなって!
 
 

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目を覚ましたら 17-1

 
 
 
 い、いや!なにヘコタレてんだ!
それがアタシのした事の結果だって言うなら正面から受け止めなきゃいけないじゃないのか?
アイツがこうなった事。それを一番正面から受け止めて、それがテスタロッサなんてそんなのありかよ!

「しっかりしろテスタロッサ!何言ってんだ!アイツならここにいるじゃねーか!
 ほら!しっかりしろって!毎日見舞いに来てるんだろ!?アイツがここに居るから毎日来てるんじゃないのか!?」
「…………うぅ、ひっく、なのはぁ……!」
「おいって!テスタロッサ!」

 足元にうずくまるテスタロッサの肩を掴み、今度はアタシが揺さぶる。
何とかして上を、前でも良い。とにかく下を向かせたくなかった。
駄目だ、それでも揺すっただけ頭が揺れ動くばかりでこっちを見る気配すらない。
揺するのを止めると、ガックリ項垂れ旋毛しか見えない頭の向こう。アタシの足元に、ぽつぽつと雫が滴り落ち始める。
涙が止まらない。
この2週間。きっと何度もこうやって繰り返しては、自然に止まるまで泣き続けたんだ。
だから目の腫れも引かない。引く暇がないんだ。
……仕方ない。
こういうやり方は良くないって、シャマルやユーノにも言われた。
自分の逃げの為なんかじゃない……って、言い訳に聞こえるかもしれない。けど、ちょっとでも矛先を変えさせないと駄目だ。

「テスタロッサ。何言ってんだ、アイツならこの向こう。この透明な衝立の向こうで呑気に寝てるじゃねぇか」
「……の、呑気」
「そうだ、そうだよ!今だって本当は――」
「ふざけないでっ!!!なにが、何が呑気よ!なのはは、なのはは!未だに目を覚まさないのが!」
「う、ぐぅ!?ぐ、ぐぐぐ……!」
「呑気なんていい加減なことを!」
「ぐぅ、ぎぎぎ」
「何が、何が!一番近くで見てたヴィー――っ!」
「!!!」

 それこそ目にも止まらぬ速さで起き上がり、気がついたときには力なくアタシの腕を掴んでいたはずの手は首に掛かっていた。
いきなりで驚いたために息を吸い込み損なって息が詰まる。
親指が的確に喉笛を押さえ込んでいた。
これがいつものテスタロッサなら絞め殺されてたろうと思う。
だけど、今の衰弱したような腕の力では大したことなかった。
確かに息はし難くて苦しいけど、息が出来ないとか絞め殺されそうというほどじゃない。
振り払おうと思えばいつでも出来そうなぐらいの力しかなかった。
この状況を茶化してやったのに、それでもアタシを絞め殺す事も出来ないのかと、テスタロッサの弱さを突きつけられたようだった。
それでも、アタシの喉に手をかけるほどの元気は出たのかって思った矢先。
アタシの名前を呼びかけて、そこで手を離してしまった。
何を言いかけてたのか。それは分かってる。
「今回のことはアタシのせいだ!」って。それが言いたかったのに、なのに。それを言わずに、手を離してペタンと座り込んでしまった。
一体どうしたんだ、これでも駄目だって言うのかよ。

「……う、うぅ。違うよね、そうじゃないよね」
「うぇ!げほっげほっ!げほっ、げっ……はっはっ、はぁ!」
「あれは……ヴィータのせいじゃないよ。そんなの、そんなの分かってるんだ……」
「テ、テスタ、げほっ。テスタロッサ」
「それなのに……私。ヴィータのせいだなんて、酷いこと言って……ヤキモチ妬いて、たんだ」
「はぁ、はぁ……。や、ヤキモチ?」
「うぅ、ひっく。だって、もし。このままなのはが目を覚まさなかったらって。そう思ったとき」
「な、何を縁起でもないことを」
「ああ、なのはの最後の声を聞いたのはヴィータになるんだなって。なのははヴィータの腕の温かさを最後に記憶したんだって。そう思えた」
「まだそんな決まったわけじゃ」
「なのはが最後に名前を呼んだのはヴィータなんだって。なのはの瞳に最後まで映っていたのはヴィータなんだって」
「だから……」
「そう考えてたら、どうしてそれが私じゃなかったんだろうって。どうしてそれはヴィータだったんだろうって。それしか浮かんでこなくなった」
「何言ってんだよ、なぁ!」
「ヴィータが羨ましかった。どうしようもなく羨ましかった。でも、それはどんなに望んだところで手に入らないもので……何とか諦めるしかなかった」
「こ、こんなの羨ましがられたって……困る。だってよ」
「そうして、そう思うことを止めようって思って、最後に残ったのは……どうして私じゃないんだろって。それだけだった」
「…………」
「私はなのはと約束があるんだ、最初にした約束があるんだ。
 "なのはも私を呼んで"って。"なのはに困ったことがあったら、今度はわたしがなのはを助けるから"って。
 その約束を果たすときは直ぐにやってきた。なのはとヴィータが初めて会ったとき。
 あの時は、間に合ったって胸を張っては言えなかった、なのはが怪我をしてるのに私はそれに間に合うことが出来なかったから」
「それは……あれはその、さ」
「だから、次こそはって。次こそは絶対に約束を守るんだって。
 私の名前を呼んでくれたときは。なのはが困ったときは絶対に助けに行くんだって。
 そのためにユーノに転送魔法を習ったり、シグナムとの模擬戦で高速機動に磨きをかけて、一分、一秒でも早くなのはのところに行けるようにって」
「そうだったのか」

 あの日も一番に駆けつけてたな。
どこに居たかは知らないけど、アタシ達が医療班に担ぎこまれて直ぐに来てたのを思い出した。
なるほど。ユーノに習ってたからあれだけ早く来る事が出来たのか。
そういえば、医者の先生の話より本局からの物資が早く届いたって言ってた。実はユーノが手伝ってたのかも。
管理局広しといえど、アイツほど複数を正確に長距離転送出来るヤツってあんまりいないもんな。
そっか、テスタロッサは普段からそうやって努力してたんだ。
…………アタシなんかと違って。

「それなのに。私はなのはのところに間に合わなかった。
 ううん。それよりも。そもそもそ呼ばれもしなかった。困ったら呼んでって。そしたら助けに行くからって……そう、約束してたのに」
「そんなんじゃねぇよ、アイツは」
「なのはは私なんか必要じゃなかったんだって。約束も守れない私は駄目な子なんだって、役に立たないんだって……。
 答えなんて簡単に出た。私じゃなかったのは私じゃ駄目だから、役立たずの出来損ないだからなんだって。たったそれだけだった」

 アタシの腰を掴む細い腕は小さく震え、ガックリと項垂れたまま涙声で鼻を詰まらせながら、誰に言い聞かせるでもなく。
初めこそ、アタシに向かって喋ってるって。そういう感じだったけど、今は自分の不甲斐なさを確認するように呟いている感じだった。
そんなテスタロッサの話を聞いていて、何か引っ掛かった。
最後に言った"出来損ない"って言葉と、そこに込められた意味に。
それは、ユーノがアタシに言い淀んだ"人形"って言葉。
この二つが何を現しているのか、アタシには全く分からないけど、テスタロッサがそれを自嘲気味に吐き捨てるんだ。
他人が言いはばかれるその言葉を自分で言う。
それがどれだけ自分を傷つける事になっているのか、それすら気づかないなんて……
やっぱりこのままじゃ駄目だ。
テスタロッサに自分を見つめ直させちゃ駄目だ。
このままじゃ自分を自分で壊しちまう!

「テ、テスタロッサ!しっかりするんだ!良く考えろ!」
「……うぅ、ひっく、えっく。もう、ダメぇ」
「アイツはさ、えっと、そうだ!意地悪じゃんか!そうだ、意地悪なんだよ!お前もそう思うだろ!?」

 アタシの問いかけに、頭を振って答えるテスタロッサ。
そうか、コイツにしてみたらアイツはそういうキャラじゃないんだっけ。
ここは出鱈目を言ってでも何とか矛先を変えさせないと!

「お前、前に教えてやったじゃんか、アイツは人に意地悪するのが好きなんだってよ。
 どうして気づかないんだ?お前だって普段から散々意地悪されてるじゃんか、な?そうだろ」
「……分かんないよぉ」
「あのさ、炭酸ジュースの缶。あれの蓋開けるの苦手だろ。プシュッてなるのがイヤで、顔をいーって離してるだろ?いっつもさ」
「……そんな話、どうでも良いったら」
「考えた事ないのか。なんでいっつも自分だけ炭酸ジュースなのか。アイツが買ってくるときは絶対炭酸だろ?」
「……なのははいつも私に炭酸ジュース。買って来てくれた」
「不思議に思わないのか?なんで嫌いだって分かってて、わざわざそれを買ってくるのか」
「…………」
「お前が嫌がるところ見たいからじゃないか!嫌がるところ!それを意地悪といわずして何を意地悪って言うんだ?」
「……でも、私には」
「それはお前が気づいてないだけ!アタシから見りゃお前だって充分意地悪されてるって!
 缶の蓋を開けようと、ドキドキしてビクビクしながらゆっくり開ける仕草見てニヤニヤしてんだよ、アイツは!
 そんで、やっとこさ開けてさ。プシュッて音が鳴った瞬間、ビクってするだろ?
 それをみてさ、すんげー幸せそうな顔してんの。"フェイトちゃん可愛い~なのー"とか言って!マジだぞ、ホントだかんな!」
「…………全然、知らない」
「信じないつもりかよ……じゃあ、これならどうだ。一緒に風呂入るだろ。そうするとさ、絶対髪の毛洗ってもらうじゃんか、テスタロッサは」
「うん……そうだよ」
「お前は一人で頭を洗えないから親切心でしてもらってると思ってるだろ。そんなの全然違うんだからな。
 頭洗ってもらってる最中は目を瞑ってるのを良いことに、ちょっかいかけてばっかりで、全然進まないだろ?
 それに、シャンプー流してもらった後に、もーいいよー、とか言って目を開けるとまだ泡が残っててさ、慌てて目を閉じるじゃん。
 そんでお前は困ったようにちょっとだけ文句言うじゃんか。
 アイツはそれを聞きながら、鏡に映ったお前のギュッと目を瞑るところを見て後ろできゃーきゃー喜んでるんだぞ!
 これならどうだ!これならアイツがお前に意地悪してるって分かるだろ!?お前が一人で頭が洗えないことを良いことに遊んでるんだぞ!」
「…………」
「ほら、これで分かったろ!」
「……全然、知らなかった」
「そりゃそうさ。ずっと目を瞑ってるんだからな。アタシは後ろとか横で見てていっつもヤキモキしてたんだぞ!」

 いつの間にか手の震えが止まっていた。
足元にポタポタと滴り落ちていた雫も止まっている。
この話は効果的みたいだ。何とかしてもう少し続けなきゃな。
だけど、もうネタがない。後なにがあったか、えーい、出て来いアタシの頭!

「え、えーっと、えーっと……あ~もう何か急だから思いつかないけどよ!
 アイツはお前に意地悪ばっかしてんの!これってどういうことか分かるだろ?お前だっていつだったかアタシに言ってじゃんか!
 アイツは好きな相手に意地悪するタイプだって!それだったら分かるだろ!アイツがお前を嫌ったりどうでも良いって思ってるわけないってことが!」
「…………」
「まだ自信がないのか!なんだよ、お前が好きなアイツはそんな薄情なヤツなのか!?」
「…………」

 小さく頭を振る。
そうだよな、別に薄情でもない。アイツとテスタロッサは誰が見たって仲良しだ。
いいや、そんな小さいレベルなもんかよ。もっと、もっと深いところで繋がってる間柄なんだ。
それを信じられないなんてよ、疑心暗鬼になってるなんてよ。こんなの不幸以外のなんでもねぇじゃねーか!
 
 
 

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目を覚ましたら 16-2

 
 
 
いた。金髪を長く後ろに流したヤツが椅子に座ってる。
その向こう側には分厚そうな透明な板か何かが見え、そこには何やら見たこともないような大きな機械が沢山置いてあって、ベッドは見えなかった。
足音を立てないように近づく。
なにズレたとこしてるんだろうと気づいた。
そんな事したらテスタロッサが驚くじゃねーか。
真後ろから近づいてたから、驚かせないようにグルッと回り込み、その透明な板を背にしてテスタロッサの視界に入るようにする。
ここからなら表情が、顔が見えるんじゃないかって思ったけど、思ったより首をガックリと落としていて長い前髪なんかで目は覆われていた。
これじゃアタシのことも見えない。
そのまま壁伝いに近づいて目の前まで移動する。
これならアタシの足が見えるから、誰か来たことぐらい分かるはずだ。
……それでも反応がない。
目の前のテスタロッサは微動だにしなかった。
驚かせちゃ悪いと思ったけど、こればっかりはしょうがない。なるべく驚かせないような声で声をかけた。

「ひ、久しぶりだな。テスタロッサ」
「…………」

 後で思えばぶん殴ってやりたいほど間抜けな挨拶だった。
もうちょっと気を利かせた挨拶はなかったのかよ、テスタロッサを前にしてこれはない。
今までとは全く別の意味で済まない気持ちになった。

「あ、あのさ。その……」
「……あれ…………ヴィータ?」
「……!!!」

 次の言葉が見つからずに言い淀んでいると、垂れ下がった頭が少しだけ動き、アタシの名前を呼んでくれる。
でも、その声は聞いただけじゃテスタロッサだって分からないほどしゃがれた声だった。
大声を上げすぎた後みたいな、暑くて喉がカラカラに渇いた時みたいな、擦れてしまっていてまるで別人だ。
あの控えめで優しげな声は見る影もなくなっていて、下手な虫の鳴き声みたいになってる。

「あ、ああ。アタシだ。テスタロッサ」
「……久しぶりだね」
「そう、だな」
「…………ねぇ」
「な、なんだ?」
「何しに来たの……?」
「……!?」

 擦れている上にこの静かな病室ですら聞こえるか聞こえないかの瀬戸際な小さい声。
そこからは何の感情も読み取れず、ただ単に聞いただけなのか、アタシを非難しているのか。
……いや、非難しているんだろう。
自分の都合のいいように解釈するのは良くない。

「あのさ。そのユー……じゃなくて。お前のことが、その、心配だって言うか」
「……私の事なんて……どうでも良いよ」
「いや、どうでも良いって」
「……」

 何とか喋ってくれる。アタシよりしっかりしてるんだな。
でも、このままじゃ埒があかない。もうちょっと近づかないと。

「えと、隣。良いか?」
「……」

 返事がない。こっちを見ようともしない。
これは拒絶なんだろうか。いや、そうだとしてもここで凹むわけにはいかない。
勝手に黙認だってことにさせてもらう。
アタシは部屋の隅に置いてある小さな椅子を取ってきて、テスタロッサの隣に腰を下ろした。
ちょっと近づきすぎかとも思ったけど、この小さい声じゃ聞こえないし、これは仕方ないと思ってほしい。
椅子に座ると、座高が低いアタシはテスタロッサの顔を少し下から覗き込むような形になる。
そこでもう少し上半身を屈めて、前髪で見えない顔を覗いてみた。
思わず息を呑む。
その前髪に隠された目は想像以上だった。
ユーノはアタシみたいに酷いって言ってて、自分の顔は鏡で見てたけど、よく考えるとシャマルに治療してもらった後で一番酷いときは見てなかったんだ。
あの大きな瞳の下、目尻から目頭まで、ぐるっと黒ずんでる。
テスタロッサは、はやてとはまた違った肌の白さで、なんていうかシグナムによると白磁のような白さって言うらしい。
その対比で、目のくまが一層黒ずんで見えた。
殴られたかして、痣みたいになってるっていうか、パンダみたいだ。
そして、その大きな瞳の奥。
あの日にアタシが見たくもないって思った、深紅の瞳。
控えめな性格には不釣合いな、自己主張激しい紅。
時折、ハッとさせられるほど真っ直ぐに前を見つめる瞳。
大きくて、少し釣り目っぽいような、それでいて垂れ目のような場面でコロコロ変わる瞳。
見ていると吸い込まれそうなほど深い紅を湛えた、テレビや本でしか見ないような高価な宝石のような瞳。
そういえば、アイツのレイジングハートも同じ深紅の宝石みたいだよな。


 それが見る影もなくなってた。
宝石みたいだって言った瞳は、道端に転がってる傷だらけのガラス玉みたいに光を失ってる。
存在感がなく、どこを見ているのか、"どこも見ていない"ような虚ろな視線、釣り目でも垂れ目でもない、ただそこにあるだけというだけだった。
しかも、泣き腫らしたのか目の周り全体が、ぼーんと腫れていて、瞳の紅とは対照的になってる。
こうやってアタシが覗き込んでいるのに、全く反応がない。
ここまで顔を寄せればその視界にアタシの顔か、何かが入ってるはずなんだ。
それなのに、それなのにだ。
ここにアタシがいないみたいに全く反応しない。
いや、アタシがいないんじゃなくて、逆にテスタロッサがそこに居ないみたいな気さえしてきた。
近くによって見て初めて分かる。
あの時みた輝くような金髪。それも全く精彩を欠き、まるで粗大ごみに捨てられた西洋人形みたいで、纏まりがなく枝毛も目立つ。
アイツが好きだって言ってた金色の真っ直ぐな髪。
別にアイツだけじゃなくて、手入れの行き届いた綺麗で自ら輝きを放つような金髪は誰もが好きだった。
そして、そのことをテスタロッサは珍しく自慢にしてた。アイツが褒めてくれるこの髪の毛、綺麗でしょって。
なのに。それなのに、その自慢の金髪は見る影もなく、どこの無頓着な女だよっていうぐらいになってる。
次に目に入ったのは肌の色。
さっきは白磁みたいだって言ってた肌は、単に色素が抜けて青白いを通り越し、血色の悪さだけが目立つ。
太くて青い血管が不気味に浮き出るようで、ガサガサと肌触りの悪そうな印象だ。
一番はやての具合が悪かったときみたいに、何だか消え入りそうな、存在感がないような感じがする。
唇は荒れて、ぷにぷにしてたっていうか、可愛らしさを湛えた綺麗な声が出てくるに相応しいと思わせる面影も何もなかった。
ユーノは全部の時間をアイツの為に使ってるって言ってた。
でも、これじゃ駄目じゃないか。
桃子さんが言ってた通り、こんなんじゃアイツが目を覚ましたときに悲しむに決まってる。
自分の大好きなヤツか見る影もなくなってたんじゃ、また寝込んじまうよ。
何とかしなきゃいけない。
こんなのテスタロッサじゃない。アイツの好きなテスタロッサじゃない!

「あのよ、テスタロッサ。最近さ、髪の手入れしてないだろう?」
「……さぁ」
「あの綺麗な髪はどうしちまったんだ。あれが自慢だったんだろう?な、それがこんなんじゃさ……」
「…………別にどうだって良いよ」
「――は?」
「見せる人もいないんだから」
「いや、あのさ。そう言うんじゃなくてだな」
「……ヴィータには関係ないよ」
「あ、あのなぁ!そういう――!」

 駄目だ、なに言ってんだ。
ここでアタシが怒ってどうするんだよ。
自分がしてきたこと、してもらった事を忘れたのか?
自暴自棄になってたアタシをみんなは怒りもせず、我慢強く励ましてくれたじゃないか。
アタシがもう一度頑張れるようにしてくれたじゃないか。
それに。ユーノに頼まれたんだろ、いや、そうじゃない。
頼まれなくたってやるさ。
テスタロッサはアタシを、その……認めてくれてるんだからさ。

「アタシのことなんてよ、どうでも良い。確かにそうだ。だけどな、そのままじゃアイツが悲しむだろうが!」
「アイツ……?ああ、なのはの事……」
「そうだよ。アイツのことだ。アイツが大好きな髪が、そんなんじゃガッカリするじゃんか。な、そうだろ?」
「…………だって」
「だって?だってなんだよ」
「…………だって、だって!なのはが見てくれないんじゃ意味がないんだもん!」

 思わず仰け反る。
こんな大声が出せるなんて思わなかった。だってさ、テスタロッサの大声なんて聞いたことがないんだから。
でも、このぐらいで怯んでちゃ駄目だ。
そうだ、シャマルのことを思い出してみろよ。
アタシがどんなに邪険に扱ってもめげなかったじゃないか。
今はああ言った辛抱強さが必要なんだ。
相手の為に何が出来るのか、何をするべきなのか。何が必要なのか。
今のテスタロッサには何が必要なのか。

「だ、だから!アイツが悲しむって、ガッカリするだろ?それを言って――」
「何言ってるのヴィータ!なのはは何処にも居ないんだから!何処にも居ないんだよ!?それなのに、一体なんなの!」
「い、いや。意味が分かんねぇって。アイツならここに……」

 確かにここからじゃ大きな機械に囲まれてて、アタシの身長じゃ何も見えない。
確かに透明な板で完全に区切られていて、何かあっちとこっちが距離的っていうか空間っていうか、それ以上に隔絶された感はある。
だから何だってんだ。
何を言ってんのか分かんねぇよ。

「ちょっと待てよ、なに言ってるんだ?この向こう側にいるんだろ!?だから毎日ここに来てるんだろ!?」
「そうじゃない、そうじゃないんだ!"私の前に"なのはが居てくれないんだ!」
「い、いやだから意味が……」
「ヴィータ!」
「っ!?」

 いきなり顔を上げたテスタロッサが掴みかかってきた。
その勢いに頭がガクンと強く揺さぶられる。
でも、それだけで拍子抜けだった。
あの日、あの時アタシに必死の形相で掴みかかってきた時の力に比べたら、全然比べるまでもない。
掴んでいるのかも分からないぐらいだ。
指が肩に食い込む感じもしない。肩が千切れそうなんて程遠い強さだった。
揺さぶられてズレた視線を元に戻す。
正面を向けばテスタロッサの顔が目の前にあった。
色素の抜けた下唇を噛み千切りそうに食いしばり、"どこも見ていない"視線はアタシを射殺しそうな程のモノに変わっていた。
泣き腫らしたろうその瞳には、今にも零れ落ちそうなまでに大粒の涙を溜めている。
そんなテスタロッサにアタシは何もいえなくて、ただジッと見つめ返していると食いしばった唇を離し、ゆっくりと動かし始めた。

「……あの日、母さんに連れられて家に帰ったんだ。私がついていても何もすることがないって。
 家に帰ったって言っても、何処をどうして帰ったのか全然記憶にない。
 気がついたら自分の部屋のベッドの上で目を覚ました。
 いつもより部屋が明るくて、起きた時間が遅かったんだなって思うと同時に、朝練をしてないことに気がついた。
 何時なのかなって頭の上においた時計を見ると、なのはが迎えに来る20分前になってた。
 急いでベッドから飛び降りて髪の毛を整える暇もなくて、クローゼットから制服を取り出してパジャマを脱ぎ散らかしたままに制服を着たの。
 昨日のまま、時間割もしてない鞄を持ってリビングに出てたら誰も居なかったけど、そのまま家を出た。
 階段を駆け下りてマンションの前に、待ち合わせの時間に間に合った。
 ホッと胸を撫で下ろす。なのはを待たせることがなかったって。
 そのまま待った。
 何時もの時間になってもなのはは来ない。10分経っても20分経っても。
 最後のバスが出て、それでも来ないの。その内授業が始まって、それでも来ないから……仕方なく学校へ行ったの」
「そ、そりゃあ……」
「学校へ着いて、なのはの席を見てみると誰も座ってなかった。
 2時間目が終わって3時間目が終わって4時間目が終わって。それでお昼休みになって、それも終わって5時間目になった。
 それでも来なかったの……
 その日は一人で帰った。初めてだった。
 学校へ入ってから、いつもなのはと一緒だったから。
 私が遅いときは待っててくれたし、なのはが遅いときは私が待ってた。
 いつも一緒に帰ってた。
 一緒に校門をくぐって、たまにアリサの家の車で送ってもらって、それから同じ道を辿って、いつものようにマンションの前でお別れするの。
 母さんがいないときは、なのはの家に遊びに行ったり、私の家になのはが遊びに来てくれたり。
 いつもそうやって過ごしてきた。
 それなのに……その日は一人で帰って家でもずっと一人で過ごした。
 母さんもクロノもエイミィも……アルフもいなかった。初めて、あの家で一人の夜を過ごした。
 一人ってこんなに寂しいのかなって、前はどうしてたんだろうって真っ暗な部屋の中で、冷蔵庫が一人唸ってる中で夜を過ごしたの…………」

 一気にここまで喋った。
初めはアタシを見てたくせに、話が進むほどに何処を見ているのか分からなくなって、最後には完全にどこを見ているんだろうって。
アタシの向こうって言うか、記憶の向こうにいる何かを見ているようだった。
もう、アタシを見て話してない。
初めはアタシに対して喋ってたはずなのに、今は独り言を呟いているようになってた。
自分自身も訳が分からなくなってるんじゃないかって思う。
自分が何してるのか分かってない、目の前にあるものと記憶がごちゃ混ぜになってるんだ。

「気がついたら朝だった。
 何時か分からないけど、何となく部屋の明るさからいつも通りじゃないかって。
 だからいつも通りに朝練をして、それから制服に着替えて学校の準備をして、朝ごはんを食べて、いつも通りに……家を出て、いつも通りに…………なのはを待った」
「だ、だからそれは……」
「いつも通りに、いつも通りに……なのに、その日もなのはは来なかったの!
 最後のバスも出て、一時間目も始まって二時間目も始まって……なのはに"何かあったのかな"って。
 携帯で連絡を取ってみようって思って電話をかけてみたけど全然繋がらなくて。そこから走ってなのはの家に向かったの。
 家に着いてインターホンを押しても誰も出ない。ちょっと待ってみても誰も出ないから、次は翠屋に行ったの。
 閉まってた。鍵が掛かってて中は真っ暗で、裏口も閉まってた。
 駅前の商店街を巡ってみた。そこにもいなかった。
 携帯を買ってもらったデパートも、本屋さんもゲーム屋さんも、一緒に行った夏祭りの神社も……
 ……最後に臨海公園にも行った。そこは人も疎らで……勿論なのははそこに居なかった。
 何処にも居ないの、家にも翠屋にも学校にも……二人で行ったところには全部行った!全部、全部!
 なのに、なのに…………私の前に、どこにも、なのはがいないんだもぉん…………どこ行ったの、なのはぁ……」

 力なく崩れ落ちていく。
操り人形の糸が切れたみたいに、壊れた人形みたいに、あの日のアイツみたいに……力なく。
何だってんだ。
こんなのが、テスタロッサだって?
どうしてコイツがこんな風にならなきゃいけないんだ?
何も悪くない、何も悪くない!なのになんで!?
アイツの事が好きで好きで、ただそれだけなのに!そんなテスタロッサがなんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!
くそ、なんでなんだよ!
こんなになるまで何で何もしてやれなかったんだ、何でテスタロッサをこんなにしちまったんだ。
アイツだけじゃない、テスタロッサまで…………これがアタシのした事だって言うのかよ!?
 
 
 

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