けーおん 2

 
*本編とは違うけど、こういうのも良いよね的なSS。

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けーおん

*なんていうか、そんなことしそーにないんですけど、見ていて気になった1シーンだよ的なSS。

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本屋さん

 
 少し時間ができて、寒空の中、ちょっと本屋に足を伸ばしてみる。
 時間帯が中途半端だったのか、学生などもおらず人の影は疎ら。いくつかの棚を横目に通り過ぎ、目当ての雑誌が並んでいる棚を覗くと、そこに誰もいないことを確認して何となくホッとしてみる。平積みされている中から、目当ての今月号を手に取り、楽しみにしている連載が掲載されているか確かめつつ、パラパラとページを捲っていると、不意に視界の端が暗くなった。
 誰かしら。この棚には誰もいないのだから、こんなに近くに立つ必要なんてないのに。
 拳一つ分ほどの間隔で隣に立つ人は、私とその人の間に並べられた辺りの雑誌を手に取る。それにしても距離が近いような気がする。
 何故かとても気になって、気付かれないよう少しだけ顔を傾け、隣に立った人がどんな人なのか確かめてみた。
 ――背が高いみたい。
 目の高さには肩と二の腕部分しか映らず、その顔を確認することは出来なかった。これ以上顔を上げては相手に気付かれてしまうし、これぐらいにしておこう。そもそも、隣に立った人を意識するのも変なのだし、チラチラみては失礼だ。そう思い、雑誌に目を戻す。しかし、幾らかページを捲ったところで意識が全く別のところにある事に気がついた。今開いているページの内容が頭に入ってきてないことに気付いたから。
 それを認めてしまうと、隣の人の挙動が僅かながら目と耳を通して入ってくる。耳からは、紙を捲る音は――殆んど入ってこない。ページを捲るのが遅いのかしら。それにしても……遅い。目からは殆んど入ってこなかった。あからさまに横を見るわけにはいかないのだし。そう思っても一度気になってしまえば、そんな考えも午後の雪のように脆くなり、もう少しだけ――と左のページを見る振りをして、視界を広げてみた。
 びっくりした。と同時に身体中の熱が表面を駆け巡り、そして顔から噴出してしまいそうな感覚に襲われた。その人は、私と同じ雑誌を読んでいたのだ。それだけでは、こんなになったりしない。わざわざ、私に自分が読んでいる雑誌が分かるように、ページを大きく開いていた。まだそれだけなら、人それぞれの読み方だ、と言えたかもしれない。でも、その人は少しだけ隣を見た私を"見ていた"。明らかに。開いたページでなく、私を。
 慌てて視線を雑誌に戻す。
 変な子だって思われたかしら――目の前に広がるページの内容は全く入ってこない。意識は完全に隣の人に向いてしまっている。黙っているのも変だと、一枚、ページを捲ってみる。すると、私に合わせるかのように紙の擦れる音が耳に届く。偶然だと思って、もう一度。……やっぱり、偶然じゃなかった。それから五ページほど同じタイミング。だって、さっきは全然ページを捲らなかったのに、今だけ同じタイミングだなんて。すると、次の瞬間。
 ど、どうしよう!?
 元々、僅か――と言っていいのか。それでも、誰もいない棚でこの距離は充分に――拳一つ分の隙間が、その人から埋められた。ぴったりと隣に立つ。やっぱり、背が高い。僅かに肩が見えるだけで、顔といえば顎と、肩に掛かる髪の毛だけ。それも目一杯横目で見て。ちゃんと確かめるなんてとても無理。上から視線が降ってきているのを感じるから。自意識過剰かもしれないって何度繰り返しても、どうしても覆せなかった。
 そんな進退窮まった私に対して、その人は――
「ねえ――」
 それだけ。顎が動き、喉が振るえ、声が出てくると分かっただけで頭は半分パニックに陥ってしまい、それがどんな声だったのか、ニュアンスはどうだったのか――一つも分からないまま、半分も読んでいない雑誌を音が出るほどの勢いで閉じ、平積みされている雑誌の上へどこかも確かめず、放り投げるようにして、私は駆け出した。
 人影の疎らな店内では、大きく響いたかもしれないことなど気にも留めず、自動扉が開くのももどかしく感じるほど。自分の身体ぎりぎりの隙間へ捻じ込むようにして、店の外へ出た。空の具合も、風の冷たさも何も見えない中、必死に走る。後から思えば、空はどんよりと曇り、本屋に来る前より一層と頬を突き刺すような空気が辺りを覆っていたというのに、そのときの私は全くその冷たさを感じることなく、ただ身体の内から溢れる熱に突き動かされるよう、ひたすらに走り続けた。
 

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クリスマス イブ 後

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クリスマス イブ 中

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クリスマス イブ 前

 
「メリー、クリスマス……」

 コルク栓を抜き、景気のいい音と共にシャンパンが溢れ出す。
シャンパングラスがロマンチックな音色を奏で、傾けたグラスからシャンパンが喉を濡らす。
部屋はクリスマスに相応しい、厳かで密やかなイルミネーションが彩り―――

「……はぁ。最悪」
「なんでよ~。このアタシが一緒に盛り上げてるのにぃ~」
「あなたがいるからでしょ」
「酷い……」

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練習 97

練習 96 の続きです。
  
 
 
「なに、時間より早いんじゃない?」
「……ん?あ、ああ、なんだ。遅刻するよりはましだろうが」
「私はあんたがサボってるんじゃないかって言ってんのよ」
「朝比奈さんと古泉がついててそれはないんじゃないか?ねぇ、そう思いませんか」
「ええ、ちゃんと三人で探してましたよ」
「ふ、ふん。みくるちゃんがそう言うなら仕方ないわね」
「仕方ないってお前……ああ、まあ良い。ところでそういうお前は何か見つけてきたんだろうな」
「むぅ……」
「まぁまぁ、今日はピクニックが一番の目的なんだから別に良いじゃない」

 蟻の行進なぞに気を取られていた俺たちに、後ろから声をかけてくるのは我らが団長さま、と朝倉だ。
ぶっきら棒に答えたが、高校生が休日の陽が高いうちから蟻の行列なぞを興味深げに眺めているところなんか人様には見せられん。
他人に気付かれる前に止めてくれたハルヒに礼を言うべきだろうな。
助かったぞ、ハルヒ。

「それはご本人に言うべきかと」
「うるさい。こういうのは気持ちの問題なんだ、分かるか?そっと胸のうちに秘めておく事で価値が出る」
「思春期の乙女なら分かりもしますが、僕たち男子では少々難が……」
「冗談だ」

 大げさに肩をすくめる。
このくらい俺が本気で言うわけなかろう。いい加減慣れてくれ。

「有希~、お留守番お疲れ様!どう、何か変なヤツは現れなかった?」
「……蟻一匹現れなかった」
「そう。残念ね。この美味しそうなお弁当の匂いに誘われて一つぐらい現れてもよさそうなのに」
「そりゃ一体どんな不思議野郎だ」
「何よ、文句あるの?あるなら別に食べなくて良いのよ」
「文句もなにも、今日は各自持ち寄ってるんだ。お前なんぞに貰わなくても問題ない」
「ふん、そんな強がり言って後で吠え面かくのはアンタなんだかんね」

 分かりやすいほど口を尖らせ、大またで歩いては自分の弁当の前に腰を下ろす。
あのな、そういうときに限って丈の短いスカートを穿いてるんだから、そういうのは控えなさい。
全く。少なくともスカート穿いてなくても年頃の女の子がする歩き方じゃないだろうに。
少しは朝比奈さんを見習ったらどうだ。いいや、少しじゃなくても良いんだぞ?

「あら。私だってクラスでは品行方正なキャラクターで通ってるんだけどな」
「ハルヒがお前を見習ったら俺の命がいくつあっても足りんだろう」
「ナイフ的な意味で?」
「心労的な意味でだ。因みに分かっているならそれを引っ込めてくれるとありがたいんですけど」
「そう。さ、キョン君。みんながお待ちかねよ」

 朝倉に手を引かれると、すでに席を立っているのは俺と朝倉だけになっていた。
いつの間に……休憩所の中は外にいる自分にとって、何やら覗けない暗闇になっていて何とも言われぬ不安を覚える。
これは単に瞳孔やらの調節が上手くいってないだけで、ビタミン何が足りないんだったかね。

「ビタミンAじゃなかったかしら」
「主に緑黄色野菜やレバーから摂取するものですね」

 にっこりと笑う朝倉にニヤケた営業スマイルの古泉。
疑問に答えてくれたのはありがたい事この上ないが、何やらこの二人に見つめられると脇の下を冷や汗が流れ落ちていく。
本能的に危険を察知しているんだろうか。

「失礼ね」
「ええ、僕もそれは心外ですね」

 不機嫌そうにしてみせる朝倉と、落ち込んでみせる古泉。
一々人をおちょくって何が楽しんだが分からん。その程度では流石に騙されたりはしない。

「…………」

 ふと、視界の外から横っ面をチクチクする視線を感じる。
横目でみやれば、それは長門の視線だと言う事に気がついた。
普段と違い――と言っても俺や朝倉以外には普段どおりかもしれないが――廃トンネルのように真っ暗で底の感じられない目をしている。
どうしたって言うんだ、長門。
これから楽しいランチタイムじゃないか。

「ほら、いつまで突っ立ってんのよ!早くお昼にするわよ!」
「へいへい。悪ぅござんしたね」

 いい加減慣れたのか、休憩所の中を見渡す事が出来る。
ハルヒの突き刺すような視線に、長門の読み取れない視線を感じながら席に着く、が。
朝倉の隣で古泉の隣、つまり二人に挟まれた格好なんだが、これは一体誰の陰謀だ。

「だったら古泉君と入れ替わりなさいよ。アンタは一番端っこで良いでしょ?」
「僕はこのままで構いませんが、あなたがどうしてもと仰るのでしたら」
「……いや、いい」

 ちょうどテーブルの角に位置している上に、朝倉を挟んだ反対側には長門がいる。
最近弁当作りに目覚めた身にしてみれば、気合を入れて作られたであろう朝倉お手製の長門弁当は気になる。
ここから見えるあの大きな布に包まれた弁当箱。
重箱ほどはないにしろ、かなりの大きさだ。
ハルヒのいる手前、余り目立って分けてはもらえないだろうから、横目でみるぐらいにはしておきたい。

「さて。やっとキョンも席についたことだし、お昼にしましょう!それじゃあ……いただきます!」
「「「「「いただきます」」」」」
 
 

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練習 96

* 練習 95 の続きです。

 

 少々時間に余裕はあるが、ハルヒのことだ。どのタイミングで帰ってくるか分からん。
集合場所に早めに戻って損はない。
もし、早めに戻ったところをサボっていると取られたときは、そのときだ。
雑木林を抜け、なだらかな丘を上り下りしながら戻っていく。
ちょうど丘の天辺に設けられた休憩所の中は、下からじゃ窺うことが出来ない。
長門はどういう様子で待っているだろう。
一人部室や自宅にいるように黙って椅子に座り、分厚いハードカバーの本でも捲っているんだろうか。
たまの外出にも変わらぬ過ごし方。
本人はどう思っているかは分からない。
本さえあれば満足かもしれないし、やはり、誰かと一緒にいたいと思っているかもしれない。
しかしそれは、全く他人である自分の勝手な憶測であり、都合の良い解釈でしかない。
放っておきたいとき、例えば今日のような長門を一人でおいていくときは「本があれば満足だろう」と思えば楽に思える。
何かと構ってやりたいときに、例えば何か一緒に居る理由が見つからないときは「一人じゃ寂しいだろう」という。
その時々に、どう思っているか。ある程度の推測することは出来る――というのは自惚れか。
それも主観がどの程度影響しているのか分からないし、そもそも一人でいる時にどういう考えを持っているかが重要なわけで。

「長門さん。お留守番、お疲れ様です」
「お、お疲れ様です~」
「……」

 下らないことをダラダラと考えているうちに、どうやら到着したようだ。
やはりここは涼しい。雑木林を抜け、ここまで歩いてくる内にどうやら汗ばんでいたようだ。
風が通り抜け、僅かばかりに汗ばんだ肌を撫でるたびにヒンヤリと熱を奪っていくのが分かる。
気化熱とかいうんだったか?夏の扇風機を前にしたとき以外に、この言葉を意識する事があろうとはね。
学校を出て外での学習ってのも良いもんじゃないか、多分。

「長門、何もなかったか?」
「なにも」
「何かあろうと大丈夫だとは思うが、一応な。不測の事態というのもあり得る」
「お弁当は死守した。蟻一匹通さない鉄壁の守り」

 パタンという見事な音と共に閉じられる本。
なぁ、本を読むのは構わんが、こんな日陰じゃ目を悪くしないか?それと、日光の下で直接読むのも悪いらしいぞ。

「そうは言っても一人で時間を潰すのも大変でしょうし、たまには気分転換に良いのではないかと」
「む。まあ、一人置いて行ってしまった俺が言うのもなんだ。ただな、長門の目が心配なんだ」
「承知している。でも、次からは一緒にいて欲しい」
「そういう事です。次からは一人で本を読まなくても良いようにしてあげては?」

 うっさい。人のことを構ってる暇があったら自分の仕事をしたらどうなんだ。
ニヤニヤと、他人の見られたくない場所を見つけては、可笑しくて堪らないといった顔をする。
こいつのことだ。他所で言いふらすなんて野暮な真似はしないだろうが、それでも痛くない腹を探られるのかと思うと胃がシクシクする。
ところで。こんな話をしている間、朝比奈さんはどこへ行ったんだ?
さっきまでは古泉の横にいたようが気がしてたんだが……あ、そこでしたか。
いくら天気の良いと言っても冬真っ盛りだ。それほど日差しが強いわけじゃない。
それでも、この日陰に目が慣れてしまうと、存外に外が眩しく感じられ薄い色は飛んでしまっている。
そんな眩しさに目を細め、しかめっ面をすれば朝比奈さんが何か少し身を屈めているじゃないか。
一体何をしているんだろうか。

「何か見えるんですか?」
「ええ、見えるんじゃなくて、探してるんです」
「探している?まさかさっきの話の続きですか?」
「ううん、そうじゃなくて……蟻さんを」
「アリ?」
「そう、蟻さんを。えぇ~っと……あ、ほら。居ましたよ?」
「どれです?……ああ、本当ですね」
「おや、これは見事に隊列を揃えた蟻の行進ですね」

 一緒に屈んでいた俺の隣に顔を並べる古泉。ええい、何でお前は一々顔を近づけるんだ。
……まあ良い。しかしだ。この季節に蟻というのも珍しい感じがする。
季節外れの蟻なのか、もう蟻を探すために下を向いて歩かなくなった証拠なのかは分からんが。
そんな事を思わないでもない。だが、今はそんな感傷を他所へ追いやって3人で休憩所から一定の距離を保って行進する蟻の列を眺める。
それにしても見事だ。何か誘導されているかのように一定の距離を真っ直ぐ行進している。

「ところで。どうして蟻なんかを探そうと?」
「長門さんが言うものですから、本当なんだろうなって」
「?」
「先ほど"蟻一匹通さない"と言っていたことではありませんか?」
「……それはモノの例えであって、実際蟻をも近づけないって話ではないと思ってたが」
「有言実行。お弁当の守りは完璧」

 柱の影からこっそり窺うように顔を出す。
その態度とは裏腹にその表情には自信と仕事を完璧にやり遂げた達成感に満ち溢れていた……ように感じた。
大げさだな、長門。だが、その使命を果たそうとする心意気は素晴らしいぞ。流石長門だ。

「(きゅぅ~)」
「なんだ、今の音は?」
「私も聞こえました」
「僕ではありませんね」
「と言うことは……」
「わたし」

 一斉に振り向く俺たちに、今度こそ柱の影からこっそりと、お腹の辺りを擦り擦りする長門。
そうか。使命感とかじゃなく、ただ単に弁当の心配をしてただけだったのか。
くくくっ、可愛いじゃないか。な、長門?

「お腹、空いた」
「そうだな。ハルヒが帰ってきたら直ぐに昼食タイムにしよう」
「朝倉涼子に連絡する」
「出来るだけ穏便に頼むぞ。お前のこととなると血相変えるからな」
「…………そう」

 何故か最後の返答にだけ違和感を覚えた。
 
 

 練習 97 >

 

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練習 95

* 練習 94 の続きです。

 
 
「なあ、条件といってもだ。もう一つあるんじゃないか?」
「と、言いますと?」
「例えばだ。湿気が多いところとか、意外に日当たりが良いところに生えやすいとかそういうのだ」
「なるほど。そうですね……落ち葉がよく落ちている。木の根元や幹、後やはりある程度の湿気でしょうか」
「やっぱりちょっとジメジメしていた方が、きのこさんには良いってことなの?」
「大方そのようで良いのではないでしょうか。その条件さえ整えば屋内でも生えるのですから」
「屋内?家の中にも生えるってことか」
「ええ。一定の湿度と温度、栄養さえあれば断熱材の周辺などの生えるそうですよ」
「ぐはっ。例えそれが食えるきのこだとしても想像したくない情景だな」
「きのこが生えちゃうとどう悪いんですか?」
「きのこが生える条件が整っている家はそれだけ木材が腐りやすい条件が整っているわけですから」
「当然。家の寿命は短くなる、ってことだな」
「そうですね。家に取っては望ましくないきのこでしょう」
「へ~、きのこが見つかって喜んでばかりじゃないんですね」
「ええ。では、話はこの辺りにして、本来の目的にもどりましょう」

 古泉を先頭に、左手に朝比奈さん、右手に俺、といった形で整備された雑木林の中を進んでいく。
一人で全部を見るのは無理だし、どうしても見落としが多くなりがちだ。
そこで各自方向の役割を決め、そちらに集中することにする。
初めこそ、何かと会話も弾んでいたがその内きのこを探すのに夢中になってきたのか、自然と無口になっていった。
会話の途切れとともに周囲の、今まで気に留めていなかった音が耳に届き始める。
しかし、夢中になる度合いが高くなるにつれ、踏みしめる枯葉も、遠くに聞こえる喧騒もその内、耳に入らなくなる。
幸いここには俺を含めた3人だけが、もしこの状況を他人が見ようものならSOS団の名に恥じない怪しげな3人だったろう。
そんな怪しげな3人が、まさに一歩一歩、林の中を進んでいき、いい加減集中力も切れかけた頃、朝比奈さんが口を開いた。

「あの~、こういう道端ばかりを探していても見つからないんじゃないでしょうか」

 パタリと足が止まる。
そういわれて見ればそうだ。
倒木や枯れ木、朽木に至っては落ちているはずがない。
それらに生えると言うならば、こんな整備された道端でなくもう少し奥まったところ探すべきだろう。
それは古泉も考えを同じくしていたようで、足を止めるのと同時にこちらへ顔を向けた。
相変わらずだな、その顔は。

「これでも悩んでいる顔なんですけどね。そうは見えませんか?」
「そう言われてみれば多少薄っぺらい感じもするが」
「真剣な顔になっている、と受け取って宜しいでしょうか」
「勝手にしろ。でだ、朝比奈さんの言う事も尤もだと思うんだが?」
「そうですね。ただ、そう考えるとこういう所ではそもそも育成していないかもしれませんね」
「やっぱり作られた場所だから?」
「管理の手が行き届いているというのもありますし、もう一つ、肝心なことを忘れていました」
「なんだ、こんなところまで来て。嫌な予感がするが一応聞いてやろう」
「では。季節外れなんですよ、きのこを採るには」
「……は?」
「いえ、先ほどお教えしたきのこはこの季節にないわけではありません」
「その言い方だと、ない方が多いって聞こえちゃうんですけど」
「済みません、その通りです」

 流石に乾いた笑いが朝比奈さんの口から漏れる。
古泉、ここにハルヒがいなくて良かったな。下手をしたら今頃お前は携帯で呼び出しが掛かっていたかもしれないぞ。
俺はどうかってか?
呆れてモノも言えんというのが正解だ。
珍しく確信めいて話さないもんだからな、警戒してたんだ。
いや、本当だ。信じて真剣に探してたわけじゃないぞ。

「済みません、これで見つかれば良いと楽観的に考えていたのですが……」

 そりゃ見つかれば、後はお前の胸に仕舞っておけば良かったんだろうが、見つからなければ大失態だ。
そして今回はその判断が悪いほうへ働いたわけだが。
まあ、珍しく済まなそうな顔をしているから良いとしよう。

「良いのですか?ここまでして見つからなかった訳ですし」
「良い散歩になったと考えれば良いだろう。これが一日掛りだったら容赦しなかったがな」
「私もそれで良いと思いますよ。こうして歩く事って滅多にありませんから、ね。キョン君」
「朝比奈さんもそう言ってるんだ、別に構やしない」
「それは……猛省しておきます」

 妙にかしこまる事もなく、口ではそう言いながらも軽く頭を下げるだけだった。
それは別に腹が立つ事もなく、こちらとしても真剣に受け取ることはなかった。
これはこれで構わないだろう、酷い悪ふざけでもなかったわけだしな。
本当にちょっとした余興とでも思っておけば良い。

「こういう場所で、街中だろう?そこできのこが取れるなんざ聞いたこともない話だったしな」
「涼宮さんには、少し物足りないお話かもしれませんけどね」
「アイツもこれぐらいの小さな発見に喜びを見出してくれりゃ助かるんだが」

 同意の声が二人から聞こえる。
ただアイツのことだ。意外なことに意義を見出したりするタイプだしな。
教えてやったら食いついてくるかもしれん。……まあ、酷く興味無さげな表情で呆れられるのが関の山だろう事は想像に難くないが。

「ハルヒがここを気になったなら、また足を伸ばせば良い。次はちゃんと下調べをしてな」
「ええ、もしそうなれば今度こそ。名誉挽回させて頂きたく思います」
「挽回するほどの名誉があれば、の話だろうが」
「何を仰いますか」
「ん?どうした」
「これでもSOS団の副団長ですから」

 いつものニヤケ顔に戻った古泉は、スマートに踵を返すと、また歩き始めた。

「古泉君、なんだか楽しそうですね」
「ええ、そう思いますよ」
「それじゃ私たちも行きましょう?ちょうど時間も良いみたい」

 帰りは周りの音など聞こえない、少し騒がしくSOS団臨時基地へと辿った。

 

 練習 96 >

 

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練習 94

* 練習 93 の続きです。
 
 
 
「では、きのこ探しにまいりましょうか」
「見つかると良いですね」

 古泉を先頭に雑木林の中へ足を進める。
今まで芝生の上を歩いていたが、今度は少し湿った感の土と枯れ草なんかを踏みしめる。
靴の裏にくっ付くような土の感覚と枯葉のパリパリと乾いたモノと湿ってムシムシしたモノが混じり合う。
そんな今までと違う感触を楽しみながら、朝比奈さんの後ろを歩く。
今日は冬場と言っても春を思わせるほどの暖かさ。自然と普段より着込む量も減る。
久しぶりにたっぷり着込んでいない姿は充分に目を楽しませてくれた。
いや、そういう理由だけで後ろを歩いているわけじゃないぞ。
こういう時は女性を真ん中に歩くものじゃないか、一番後ろは危なくていけない。

「古泉君。一つ聞いても良いですか?」

 キョロキョロと首を忙しなく動かしながら先頭を行く古泉に朝比奈さんが声をかけた。
3歩進んだ所で立ち止まりくるりと振り返る。
人と話すときは顔を見て、というが別に今は歩きながらでも良いんじゃないか?

「はい、なんでしょう」
「今は冬ですよね。きのこって冬に生えるものなんですか?」
「そう言われてみればそんな気もするな。何となく秋ってイメージがあるんだが」
「良い質問ですね。大方は秋口から遅くても11月までではないでしょうか」
「古泉。今、何月か言ってみろ」
「2月、ですか?」
「ちゃんと分かってるじゃないか。で?今この2月の林に来てだ。何があるって言うんだ」
「そうですねよ。普通に考えると何もなさそうな感じがするんですけど」

 この暖かさと空の快晴具合にまんまと忘れるところだった。
今日はまだ冬真っ盛りで、そろそろ春の兆しを見せようという頃かもしれんが、まだ寒さ吹き荒んでるんだ。
よくよく考えりゃ、こんな感じのときにきのこ狩りなんて出かけるか?

「まあ、落ち着いてください。大方は、というのですから、全部というわけではないんですよ」
「そりゃ屁理屈だろう」
「そうですか?いえ、あなたがそう思うのなら構いません」
「ああ、それは良いから。話を進めろ」
「では。有名なものですと、今ぐらいならエノキタケとキクラゲがあるそうです」
「ふぅん。それなら俺も名前は聞いたことあるぞ」
「私も。キクラゲって、あの黒くて変わった形のですよね」
「ええ。それら二つは晩冬から早春にかけて生えるそうなんです」
「流石話を仕入れただけあって、伝聞系ばかりだな」
「済みません。もう少しお時間をいただければ調査の一つでも自分の足でしたのですが」

 少しばかりいつものニヤケ顔が曇る。
今回の話も例によって急に持ち出したものだ。原因の全部がハルヒにあるわけじゃないが。
それでこれだけの舞台を用意してくれたんだ。余りどころか古泉を悪く言うつもりはない。
いつもと変わらぬ調子なもんだから、つい、こっちも同じ調子で答えちまったが、ここは反省しておくべきだろう。

「いや。たまには良いじゃないか、こういうのも」
「と、言いますと?」
「いつもお前と長門は事の成り行きを分かっている風だからな。たまにはお前もどうなるか分からない事を一緒にするのも楽しいだろってことだ」
「そう言っていただけると光栄ですね」
「何でそういう結論になるんだ。別に褒めたりしてるわけじゃないんだぞ」
「いえ、それで良いんですよ。僕に取っては。では、参りましょう」

 一人納得した風な古泉はまた先に行ってしまう。
何なんだ。今日は珍しく分かりやすい話だと思ってた途端にこれだ。全く、付き合いきれん。

「さ、キョン君もいきましょ?」
「あ、はい。そうですね」

 朝比奈さんもどちらかと言えば古泉寄りらしい。
なんだ、訳分からん状態に置かれているのは相変わらず俺だけなのか。
まあ良いか。訳が分からんのは何時ものことだ。
それに今回は突飛な類じゃない。ただ、きのこが生えてるとかそんなレベルのものだ。
不安がる事もなく、楽しんだら良いじゃないか。
朝比奈さんの隣について歩く。
別に後ろをひょこひょこついて行く必要はないんだ。横を歩いたら良い。

「足元、気をつけてくださいね」
「ありがとう、キョン君。でも、大丈夫みたい」
「そうやって言ってる時が一番危ないんですから」

 普通に舗装された道でも転びそうな……いや、それは流石に言いすぎか。
ただ、天気が良いとはいえ、こんなところで転びでもしたら折角の服が汚れてしまうからな。
気をつけるに越したことはない。
朝比奈さんが大丈夫といったのは、元々ここが整備されて作られた場所だからだ。
一応人が歩いて抜けるコースはなだらかに整えられていて、石や根っこなどの目だった障害物はない。
充分に土や枯葉の積み重なった感触を楽しみながら歩く事が出来る。

「どうだ、何か目ぼしいものはあったか?」
「一応条件は聞いておいたのですが、いざとなって見ると中々上手くいかないものです」
「なんだ、他人事みたいに」
「古泉君。その条件っていうの。私たちにも教えてもらえませんか?」
「それもそうですね。古泉にばかり探させるのも悪いか。せっかく3人で来てるんだからな」
「3人できのこ探し、しましょう?」

 ピタリと足を止め、1テンポ開けて振り返る。
相変わらず笑顔の絶えない男だが、いつものニヤケ顔といったわけでもない。
その、なんというか……ええい、男の笑顔の分析なんぞしてどうするって言うんだ。
お前もそのままの顔でこっち来るな、気色悪い。

「3人寄れば文殊の知恵とも言いますし、それが良いでしょうね」
「いつも頼ってばかりじゃ悪いしな」
「では。エノキタケは広葉樹の朽木や切り株に生えていることが多いそうです」
「形はどういうものなんですか?」
「ええっと、そうですね。普段スーパーなどで目にするシメジをもう少し大きくした感じでしょうか」
「もう一つのキクラゲはどういう形なの?」
「これも広葉樹の、こちらは枯れ枝や倒木に生えているそうです」
「キクラゲはイメージしやすいな。これは売っているヤツと同じような形なんだろう?」
「そうですね。実物を見たことがないので断言は出来ませんが」

 返事をしながらも、心ここにあらず。
もう辺りを見回しながら気分はもう、きのこ狩りだ。
それは朝比奈さんも同じようで、視線の端で栗毛色の髪が微かに揺れている。
古泉の提案にしては健全で、何とも楽しいものじゃないか。

「それではもう少し奥へ足を進めてみましょう」
「そうですね」
「ああ、3人で探せば一つぐらい見つかるかも知れん」
「おや?随分と乗り気のようですが」
「黙って先導しろ」

 返事の代わりか、僅かに首を傾げ、くるりと踵を返した。
 
 

 練習 95 >

 

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