質問、なの!
「えー。第一回。フェイトちゃんに100の質問!なの」
二人きりの部屋で、唐突に切り出した。
唐突なのは毎度のことなので気にしないとして、その発言内容は気になった。
「私に……なに?」
「だからね。フェイトちゃんに100個の質問をしてみよー、って企画なの」
てへ、と笑う。
その笑顔は文句なしに可愛いのだけど……
自分で言うのもはばかれるというか、今更なのはにとって、私に100個も質問することがあるだろうか、と思う。
寧ろ、なのはの知らないことを聞きたいぐらいと言うか……流石に秘密にしていることは、いくつかあるけど。
私のそんな懸念は、全く伝わらなかったらしい。
「さぁて。では、早速。第一問」
紙も何も持ってない。
100個の質問を全部覚えているのかしら。
うーん。流石なのは。凄い。
きっちりと正座をして、私はなのはの質問に備えることにした。
「今日のフェイトちゃんの下着は何色?」
「ぶふーっ!?」
思わず噴出してしまった。
目の前に座るなのはは、私の唾まみれになってしまった。
ああ、ゴメン、なのは。
ちゃんと拭くから、そんなに舐め取ったりしないで。恥ずかしいから。
「んもー。ヒドイなぁ、フェイトちゃんは」
「う、うん。ごめん」
顔をハンカチで拭きながら、悪いとは思いながらも、これは聞いておかなくちゃ。
拭き終わったハンカチをしまいながら、尋ねることにする。
「あ、あのね?それって、なにか意味があるのかな?」
「うーんと……とりあえず、答えは黒ね」
全然話を聞いてくれない。
「そ、それに! どうして答え知ってるの!? 私、まだ何も言ってないよ?」
「えー。だって、今日は私が着せて上げたんだから聞くまでもないよー」
当然、と言わんばかり。
けれど、事実その通りなのだから、反論の余地がなかった。
うぅ。恥ずかしい。
「じゃあ、第二問! ねぼすけのフェイトちゃんを起すには、私のキスが何回必要でしょうか?」
「ふぶーっ!?」
飛ばしすぎだ。お互いに。
また飛ばした唾を拭く羽目にあう。
うぅ、なのはの顔が臭っちゃうよ……
「答えは、三回でした。あ、そうそう。四回目以降だと別の意味で起きられなくなっちゃうので注意が必要なの」
「そ、そこまで言わなくたって良いったら! そもそも! この企画の意味が分からないよ!」
私の質問に、きょとん、とした顔をする。
普通。急にこんなことを言われたら、誰だって気になると思うんだけど。
なのはにしてみれば、私の質問こそが意外だったみたい。
けれど、おほんと、咳払いをして、私の質問に答えてくれるみたい。
そうして、なのはの口から飛び出した解答に、私はまた一つビックリするは目にあってしまう。
「あのね。機動メンバーの新人たちとの親睦を図るためにだよ」
「…………うん?」
「私は訓練で一緒にいることが多いけど、フェイトちゃんはそうでもないでしょ? だから、少しでもフェイトちゃんのことを分かってもらおうと……」
「あ、あのね。なのは。そういう事は分かるけど……」
「キャロもエリオも、もっと身近に感じてもらえるように、少しマニアックな選択をしてみたんだ。楽しみに――」
「出来ないったら!」
遮るように口を挟むと、なのはは、えー、と驚いたように口を開けている。
……私、そんなに変なこと言ったかな?
だけど、ここで引き下がるわけにはいかない。
まだたった二問だというのに、このペースでは、この先どうなってしまうか心配でならない。
これは、辞めさせなければ……!
密かに、ぐっと拳を固める。
これは、私の決意の現われなんだ。
「そっか……一生懸命考えたんだけどな」
叱られた子犬のようにしょんぼりしている。
ああ、そんな顔をするなんて反則だよ、なのは!
そんな顔されたら、もう何も言えなくなるじゃない。
「あ、あのね? なのはの気持ちは嬉しいんだけど。その……質問内容をもう少し考えてくれると」
「え? じゃあ、企画自体は賛成してくれるんだ!?」
ぱぁっと明かりが灯ったように、瞳を輝かせる。
ああ、なんだか間違えたような気が――ううん、確実に間違えた。
だけど……なのはが嬉しそうな顔をしてくれたら、良い……かな?
「う、うん。だから、もう少しだけ」
「じゃあ、あのね? 一応考えてある分を言っていくから、どれを使って良いか教えてね?」
「わ、分かったよ、なのは」
うきうきとしながら、なのははメモ用紙を取り出す。
それで、チェックしていくみたい。
こうなったら、私も本腰を入れてかからないと。
膝の上で固めた拳は、それほどの時間を待つことなく、違う意味を持つ羽目になってしまった。
「フェイトちゃんの、好きな飲み物は?」
「……(それぐらいなら、良いかな?」
「答え。私の作ったキャラメルミルクです」
「そ、その前置きは必要なのかな」
「フェイトちゃんは、あーん、するのが好き? それともされるのが好き?」
「……(なにの参考になるんだろう」
「答え。どっちも好きです」
「答えになってないし、そんなの言わないでったら~」
「フェイトちゃんは、忙しくてたまに下着を着けないまま出勤することがある」
「……(そ、それは!?」
「答え。秘密です。うふふ」
「だったら問題にしないで~」
「フェイトちゃんは、本当はメガネをかけている?」
「……(これは問題にならないんじゃ」
「答え。私がかけさせます」
「い、一応止めてくれないかな」
「フェイトちゃんは、ラブレターをもらったことがない?」
「……(そういえば、ない気がする」
「答え。"なぜか"くれる人がいません」
「……あとで、お話しようね」
「フェイトちゃんの、使っているシャンプーは?」
「……(これぐらいは」
「答え。私と一緒です」
「そ、そういう答え方駄目!」
「フェイトちゃんは、どこから身体を洗うでしょう?」
「……(エリオには刺激が強いんじゃ」
「答え。私が洗っています」
「だー、駄目駄目!」
・
・
・
「うーん。そろそろ終わりだよ」
「そ、そう……」
本当になのはは100問用意したようだったけど、その殆んどが採用不可なものだった。
駄目だよ、と私が言うと、しょんぼりしては、揺さぶられてしまうのだけど、直ぐに持ち直して次の問題を出してくれる。
私は、慌てたり、機嫌をとったり、ガッカリしたり、顔を赤くしたり、それは大変だった。
もう、グッタリしてしまって、初めは座っていたけれど、今はベッドにそのままうつ伏せになっている。
……本当に、なのはと一緒にいるのは大変だ。
「じゃあ、これで終わりにするね」
嬉しい。
流石にこのままでは身体が持ちそうにない。
明日だって朝は早いのだし、このまま日付が変わってもベッドに潜り込めない事態だけは、避けたかった。
のろのろと頭を上げ、なのはが最後の問題を出してくれるのを待つ。
そんな疲れた私を労うように、なのははニッコリ微笑んだ。
「約第100問。フェイトちゃんの背中の黒子は、一体いくつあるでしょう?」
「…………え?」
問題を読み終わるか終わらないかの内に、なのはの腕が伸びてくる。
その意図が掴めぬまま、私は見事にその腕に捉まってしまう。
上から圧し掛かるように、抱きついてくるなのはに、押し倒されてしまった。
「あ、あの、なのは?」
「うん?」
楽しそうに答える声が、私の耳をくすぐる。
それがくすぐったくて、身を捩るけど、なのはの腕にすっぽりと納まってしまった私は、身動きが取れなかった。
「その……答え、は?」
「えへへー」
照れるように笑いながら、私の耳に、ふっと息を吹きかける。
思わず情けない声が漏れてしまう。
すると、またも、えへへー、と笑う声が聞こえた。
「それは――コレから答えあわせをするなのー!」
「きゃー!?」
結局、その日も、日付が変わる頃にはベッドに入ることは出来たのだけど。
私は随分遅くまで、眠らせてもらえなかった。
この企画。なのははどこまで本気だったのかな。
真相は……闇の中の方が良いのかもしれない。きっと、分かったところで、私にはどうしようもないんだ。
そんなことを考えながら、なのはの笑顔を脳裏に浮かべ、睡魔に身を委ねるのでした。
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